more trees|フィリピン・キリノ州での森林再生プロジェクト
more trees|モア・トゥリーズ
海外拠点での森林再生プロジェクト
フィリピンの森、誕生から4年目の夏(1)
現在、more trees(モア・トゥリーズ)は国内11拠点、海外1拠点での森林再生プロジェクトを展開している。海外唯一の拠点は、フィリピン・キリノ州の森だ。誕生から4年、豊かな自然を守り、持続的なコミュニティを構築するための地道な努力は、着実に実を結びはじめている。
Photographs by Shinya HiroseText by HIKITA Sachiyo(Fukairi)
荒廃した天然林の再生
現在、アフリカや南アメリカ、そして東南アジアの発展途上国において、森林破壊は深刻な問題となっている。その背景には、持続可能性を顧みない土地開発、急激な人口増加、グローバル化など、さまざまな問題が絡んでいる。フィリピンも例外ではなく、20世紀初頭に国土の70パーセントを占めていた森林が2005年の時点で24パーセントにまで減少。国内でも比較的天然林が残り、国内の生物種の45パーセントが生息するキリノ州にまで、森林破壊と劣化の問題は波及している。
そこで2009年、モア・トゥリーズは現地NGOや住民組織とともに「フィリピン・キリノ州における森林カーボン・プロジェクト」をスタートした。元来、地域に生息していたフタバガキ科樹木などの再植林と、ランブータンや柑橘系の果樹を育てる「アグロフォレストリー」を基軸に、持続可能な森づくりを進行している。
森林が吸収したCO2をカーボンクレジットとして提供し収益を得る「カーボンオフセット」を推進すると同時に、果実の販売による現金収入の機会を作ることで、森林保全と経済発展のポジティブなサイクルを生み出している。発展途上国の根強い貧困問題を解決するためにも、現金収入を得るためのノウハウを取り入れた森づくりには大きな期待がかかっている。プロジェクトのゴールは、森林再生によって生物多様性を守り、2029年までに約3万トンのCO2を削減すること。そして、96世帯の家計を十分に満たす経済的基盤を構築することだ。
国境を超える、モア・トゥリーズのミッション
さらにこの取り組みは、2011年、世界的に信頼度の高いカーボンオフセットの認証基準であるVCS(Verified Carbon Standard)と、気候変動・地域社会・生物多様性すべてにプラス効果をあたえるプロジェクト設計の国際基準、CCBS(Climate, Community and Biodiversity Project Design Standards)の審査をアジアではじめて同時通過し、世界的にも質の高い森林再生プロジェクトとして認められた。
「森づくり」によって地域を活性化し、人と森をつなぎ、持続可能な未来を創るというモア・トゥリーズのミッションは国境を越え、蓄積されたスタディーケースは現地での活動にも反映されている。
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海外拠点での森林再生プロジェクト
フィリピンの森、誕生から4年目の夏(2)
Photographs by Shinya HiroseText by HIKITA Sachiyo(Fukairi)
「住民自身が肌で自覚しはじめている」
1500メートル級の山々が連なるシエラ・マドレ山脈と、国内最長の河川、カガヤン川を有する豊穣な大地には、国内の45%の生物種が息づいているフィリピン・キリノ州。この夏、モア・トゥリーズ事務局長の水谷伸吉氏が4年ぶりに現地へ訪問した。
「一番感動したのは、プロジェクトが軌道にのりはじめ、住民の自発的な活動が立ち上がってきたことです。例えば、苗木を地域外へ販売して収益を上げ、それを住民全員のための口座に貯金しているなど、コミュニティに所属する一人一人が積極的に『森づくり』に取り組む姿勢が印象的でした」
プロジェクト開始当初に植林した小さな苗木は、いまや3メートルの高さまで成長し、4年間のメンテナンスの成果を見せていたという。この背景には、年に数回、モア・トゥリーズのパートナーである現地NGOが、集会を開き、生物多様性や森づくりの重要性を深く理解するための機会を提供していたことがある。
「近年頻繁に発生する、豪雨や地滑り、気温の急激な上昇など、身近に起きている切実な問題にたいして森づくりが有効であるということを、住民自身が肌で自覚しはじめている」と水谷氏は語る。
未来へつづく、森づくり
これまでモア・トゥリーズは、日本国内では間伐による人工林の整備を推進し、森の恵みを通じて地方と都市のポジティブな繋がりを築いてきた。いっぽう、フィリピンでは、植林による天然林の再生、持続可能な地域発展システムの構築を目指して活動をつづけている。国内外で手法はちがえども、森づくりの活動主体は地域住民であるということに変わりはない。そして、森づくりを担う人々のモチベーションを保ち、“win-win”の関係性を構築する――このアプローチも万国共通であると言えるだろう。
とはいえ、途上国の方が現金収入に関してはるかにシビアな面がある。生きていくためには、長期的な森づくりよりも、半年後にとれる農作物のために森を伐採するしかないという状況があるからだ。だからこそ、「カーボンオフセット」や「アグロフォレストリー」など、長期的な経済収入を保証した森づくりに価値がある。そこで住民が安心して生活を営んでいくことが、未来の豊かなコミュニティに繋がるからだ。
さらに、過疎化が進む日本の山村地域とは異なり、途上国の山村にはたくさんの子どもたちがいる。彼らがその土地に住みつづけ、誇りをもって生きていくためにも、雇用を生み出し、コミュニティの絆を深める森づくりは重要なファクターだ。
地元の婦人グループが、収穫した果実でジャムを作りたいと話していたという。フィリピンから、日本に住む私たちの手に「森の恵み」が届く日が来るのも、そう遠くはないのかもしれない。
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Tel. 03-5770-3969