萩原輝美 連載 vol.129|ヴィクター&ロルフによる“ウェアラブルアート”のオートクチュール
服と絵画を行ったり来たり
ヴィクター&ロルフが堂々のアーティスト宣言
勢いづくパリオートクチュールコレクションがまたひとつ新しい可能性を見せてくれました。「着られるか、着られないか。売れるか、売れないか。そんな小さなことどうでもいいでしょ。問題はそれを作りたいと思うか、思わないか。それがすべてです」。ヴィクター&ロルフがアーティスト宣言。オートクチュールのステージをぐっと広げてくれました。
Text by Terumi Hagiwara
ファッションとアートを織り交ぜた、“ウェアラブルアート”
ヴィクター&ロルフは今年3月でプレタポルテの活動をレディス、メンズとも中止し世界中のショップを閉めることにしました。今後は「思うままに作りたいものを作る」と宣言。オートクチュールコレクションだけに力を注ぐことになりました。その初めてのコレクションが、7月に2015-16年秋冬パリオートクチュールコレクションで発表されました。
会場は大きな正方形のステージ、壁は一面白です。最初に登場したのは、デニムのチュニックに重ねたアシンメトリーに広がるキャンバススカートです。そこにデザイナーのヴィクター&ロルフが登場し服のリボンをほどきます。脱がせたスカートをいびつな形のまま壁に貼り付ける。なんと、そこにはスカートではなく巨大な額縁のオブジェがありました。服とアートが交互に行ったり来たりしながらショーは進行します。
次々登場する絵画ドレスは色と絵を写し出します。素材はすべて布地。プリントは一切使わず、見るとタピストリーのようなジャガードと刺繍で作られています。オートクチュールの手業だからこそ成し遂げる、“ウェアラブルアート”です。この作品は、アートコレクターのハン・ネフケンスがすべて買い上げてボイマンス・ヴァン・ベンニーゲン美術館に寄贈されます。ファッションアーティストとして作品を作る宣言をしたヴィクター&ロルフは「これこそ自分たちがやりたかったこと」と満足そう。これからのオートクチュールファッションにまたひとつ新しい顔が登場しました。
萩原輝美|HAGIWARA Terumi
ファッションディレクター
毎シーズン、ニューヨーク、ミラノ、パリ・プレタポルテ、パリ・オートクチュールコレクションを巡る。モード誌や新聞各誌に記事・コラムを多数寄稿。セレクトショップのディレクションも担当。
オフィシャルブログ http://hagiwaraterumi-bemode.com/