高橋理子|♯010 TAKAHASHI HIROKO EXHIBITION
DESIGNTIDE 2010 TIDE Extension
♯010 TAKAHASHI HIROKO EXHIBITION
10月30日(土)からはじまるDESIGNTIDE 2010のエクステンション会場として参加する「TAKAHASHI HIROKO BASE」にて、展覧会を開催いたします。
文=高橋理子写真=HIROCOLEDGE Co. Ltd.
「あじ」や「あじわい」から考えはじめる
有田焼窯元の原口陶磁苑との商品開発の取り組みから生まれた今回の作品は、陶磁器におな「じ図柄をほどこすための量産技術ともいえる転写紙を使用した有田焼のプレートです。この展覧会は、大量生産のなかにひとの存在を感じさせる試みであると同時に、「あじわい」という価値への向き合い方を再考するきっかけになればという思いから開催にいたりました。
日本には昔から、ゆがみやずれ、にじみなどを美しいと捉える感性があります。わび・さびという言葉があるように、完璧で華やかな美しさとは対極の美意識です。とくに工芸の世界では、その美意識があたりまえのように存在しています。身近なものに見えてくるゆがみは、ひとの存在や自然にも似たぬくもりを感じさせ、暮らしに彩りをあたえ、私たちはその風情を「あじ」や「あじわい」という言葉で表現しています。しかし、使い手とつくり手のあいだに立ったとき、ふと考えることがあります。使い手は、ゆがみやずれ、にじみなどを、安易に「あじ」という価値に置き換えてはいないだろうか。反対に、つくり手は「あじ」という価値のすり替えに甘んじて、手を抜いてはいないだろうか、と。
私のまわりには、すばらしい伝統技術をもった職人や、つねに最高の結果を出そうと努力を惜しまないつくり手がたくさん存在しています。しかし、悲しいことに、私の正円と直線の図柄がゆがんでしまったことを「あじ」という言葉で言い逃れてしまおうとする職人に出会った経験があります。もちろん、ときには意図的にゆがみをつくりだし、やわらかであたたかみのある趣をあたえる場合もあるでしょう。しかしそれは、事前の計画に基づいてのことであり、「なんとなく」ではないはずです。たとえば、花鳥風月のような有機的な柄の場合、手工芸的な技術にふさわしい図柄のように思えますが、そこに見えてくるゆがみやずれが、思い描く姿を完璧に再現しようとしたすえに生まれたものなのか、または技量のなさゆえにゆがんでしまったのか、もしくは意図的なのか、判別することは難しいのです。このような職人との出会いが、「あじ」という価値に疑問をもちはじめるきっかけとなったのです。
私がMacで描く正円と直線のゆがみのない図柄は、「あじわい」とは対極の存在ですが、だからこそ、それを忠実に再現しようとするなかでかろうじて生まれてしまう手技の痕跡を浮き彫りにしてくれるのだと思っています。完璧を求めながらも、技法や素材の性質上、仕方なく出てしまうその痕跡は、意識して考えを巡らせなければ気づくことができないほど些細なものです。しかし、その背景には地域産業を支えてきたひとの存在や、歴史があります。ものづくりの技術や道具が進化し、機械化され、国外生産が増加する現代だからこそ、感じるか感じないか、ギリギリのところにあるひとの存在を実感したいのです。大量生産で生まれたものにひとの手の痕跡を発見することは難しいかもしれませんが、「あじわい」とは言いがたいほどの控えめなゆがみやずれに、この国の産業をささえつづけているひとの存在を感じようと試みることは、ものに対する思いに変化をあたえ、それをつくりだす技術や職業、ひいてはその産業全体や地域にいたるまで興味を広げることになるのではないかと考えています。
※写真は、10月1日から10日間、大阪にて先行開催された展覧会のようす。大阪のデザインイベント「DESIGNEAST 01」に招かれていたデザイナーのエンツォ・マーリ氏も来場した。
TAKAHASHI HIROKO EXHIBITION 【ON PURPOSE】
2010年10月30日(土)~11月3日(水/祝日)
11:00~20:00
東京都台東区上野5-9-18 2k540 AKI-OKA ARTISAN
Tel. 03-6240-1327
http://www.hirocoledge.com/