POGGY’S FILTER|vol.4 クリス・ギブスさん
FASHION / MEN
2019年3月25日

POGGY’S FILTER|vol.4 クリス・ギブスさん

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小木“POGGY”基史氏がホストを務める『POGGY'S FILTER』の第4回目のゲストは、バイヤーという立場で、ストリートウェアとハイファッションを融合させた先駆者として知られる、LAの有名セレクトショップ、UNION(ユニオン)のオーナーであるChris Gibbs(クリス・ギブス)氏だ。ユニオンのニューヨーク店勤務を経て、LAに移ってからはユニオンのスタッフからバイヤー、最終的にはショップオーナーにまで登り詰め、現在はアメリカ国内はもちろんのこと、世界中のファッションシーンへ多大な影響を与える存在の彼。昨年、原宿にオープンしたUNION TOKYO(ユニオン・トーキョー)にて、彼がこれまでバイヤーとして手がけてきたブランドとのエピソードや、今のファッションシーンに対する思いなどを存分に語ってもらった。

Interview by KOGI “Poggy” MotofumiPhotographs & Text by OMAE Kiwamu

今のパリはエネルギーが生まれる場

POGGY 今年1月のパリのメンズファッションウィークはいつもよりも忙しい印象だったけど、クリスはどう感じた?

クリス・ギブス(以下、クリス) そうだね。確かにすごくクレイジーだったよね。

POGGY 以前はカジュアル系だとラスベガスの「MAGIC」と同時期に開催されるようなトレードショー、デザイナーズ系はニューヨークのファッションウィークで発表していたブランドが、年々、パリへ発表の場を移しているからなんだと僕は思うけど、どうかな?

クリス デザイナーたちは皆、ハイプが起きているところに行きたがるし、そこにエネルギーが生まれるからね。今はそれがパリになっている。僕はパリと、あとは東京に展示会を見に来るぐらいで、イタリアやロンドン、ニューヨークにも行かない。だからこそ僕にとっては、難しいことでもあったんだ。なぜならば、ユニオンにコレクションを見せたいって言ってくれているブランドが沢山ありすぎて、僕らのスケジュールはパンパンだったから。見に行くことができなくて、何人かのデザイナーたちをがっかりさせてしまったかもしれない。次のシーズンはまたどうなるかわからないけど、すごく楽しみ。皆がパリに集まっている状況について、ポギーはどう思う?

POGGY 良い面も悪い面もあるよね。今までは僕達みたいなストリートファッションが好きな人にとっては、パリの敷居は高かった。ただ、今は敷居そのものがなくなってきていて、これまでハイファッションに対して抱いていたものが、崩れすぎているような気もする。

クリス 確かに。同じように思うし、僕自身、それに対しての葛藤もある。

POGGY ラグジュアリーストリートシーンを語る上で外せない、ヴァージル(・アブロー)のOFF-WHITE(オフ・ホワイト)の前身ブランド、PYREX VISION(パイレックス・ヴィジョン)をユニオンがいち早く取り扱っていたと思うけども、パイレックスを扱うことになった経緯は?

クリス 当初はヴァージルのことをよく知らなかったんだけど、ある日、ネットサーフィンしながら新しいブランドのリサーチをしている時に、パイレックス・ヴィジョンのビジュアルに辿り着いたんだ。アイデアがとても良かったから、メールで問い合わせたんだったかな? そもそもヴァージルがやっているブランドっていうことさえも知らなかったけど、「とてもクールなコレクションですね。興味があります」って送ったら、すぐにヴァージル本人から返事がきたよ。「あなたのこともユニオンのこともよく知っているし、ファンです。こうやって連絡をもらえて光栄です」ってね。それで取り扱いが始まって、ユニオンがパイレックスを扱った世界で最初のショップになった。でもパイレックスの500ドルのフランネルシャツを見て「カッコ良いけど、ユニオンで売れるかな?」って悩んで、MサイズとLサイズ、それぞれを一枚ずつオーダーして店頭に出したら、1時間で売れてしまった。だから、そのあとすぐ追加でオーダーすることになったんだけどね。

POGGY パイレックスのようなアメリカのブランド以外にも、ユニオンはVISVIM(ビズビム)のような日本ブランドもアメリカのマーケットへ紹介してきたわけだけど、そういったブランドを取り扱うようになった経緯や、紹介してきた日本のブランドに対するアメリカのマーケットの反応はどうだった?

クリス 僕がユニオンのニューヨーク店で働き始めた時は、日本のブランドの取り扱いはなかった。当時、お店には大勢の日本人観光客や学生が買い物に来て、アメリカのストリートウェアを日本に持ち帰っていたんだ。その頃、ニューヨークでA BATHING APE®(ア・ベイシング・エイプ)が一部でカルト的な人気になり始めたんだけども、ニューヨークでは手に入れるのが難しかった。NIGO®はFutura(フューチュラ)とStash(スタッシュ)と仲が良かったから、彼らにア・ベイシング・エイプの服を大量に送っていたみたいで、彼らはその一部を自分たちの店でも売っていた。ショップの名前は……

POGGY RECON(リーコン)!! BSF(=Blue Stash Futura)とか懐かしいね。

クリス そうそう! ニューヨークではリーコンくらいでしかア・ベイシング・エイプは買えなくて、しかも数が限られているから、知る人ぞ知る存在だった。その後、ニューヨークからLAへ引っ越したら、LAのユニオンでは、すでにア・ベイシング・エイプやNEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)、WTAPS(ダブルタップス)を扱っていて。ただ、とても数が少なかったから、「もっとオーダーするべき」って訴えたんだ。その説得に1年ぐらいかかってしまったけど、最終的に僕がバイヤーとして東京へ買い付けに行くことになった。自分がバイヤーになってからは、以前の100倍は日本のブランドをオーダーするようになったかな。日本のブランドは高価だったから、最初は少数の人たちにしか理解してもらえなかったけど、お客さんは喜んでくれたよ。時間はかかったけど、いわゆる日本の裏原ブランドの虜になって、どんどんファンが増えていったんだ。

Page02. ユニオンの軸はストリートウェアのセレクトストア

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ユニオンの軸はストリートウェアのセレクトストア

POGGY ビズビムを扱うようになったのは、さらにその後のこと?

クリス どのブランドも仕入れられる数は限られているから、すぐに完売してしまう。だから、もっと商品やブランドが必要だった。ビズビムは最初はフットウェアからのスタートだったから、スニーカーショップのUNDEFEATED(アンディフィーテッド)で売られていた。その後、クロージングラインも始まったけど、アンディフィーテッドに服は置けないからと声をかけられて。デビューしたてのビズビムのクロージングラインを見せてもらった時の衝撃は大きかったよ。他のどのブランドと明らかに次元が違った。それで、ユニオンでも取り扱うことになったというわけ。(ビズビムデザイナーの中村)ヒロキはクラシックをコンテンポラリーなテクノロジーと組み合わせるなど、まだ誰もやっていないことをいち早くやっていた。ゴアテックス素材を使ったジャケットは、今ではどのブランドにでもあるようなアイテムだけど、当時は彼しかやっていなかった。スニーカーソールのモカシンなどのフットウェアも素晴らしかったし。ブランドが成長すると、ヒロキはラグジュアリーなアイテムも扱うようになっていって、それが新しい顧客を取り込むきっかけにもなったんだ。

POGGY それが、ハイファッションとストリートブランドの両方を繋ぐ、今のユニオンのスタイルにも繋がっていくわけですね?

クリス ビズビムをきっかけに、お金を出すことを惜しまない新しい層のお客さんが増えて、そういう人たちに自信を持って勧められるブランドをもっと増やしていこうと思って扱い始めたのが、JUNYA WATANABE COMME des GARÇONS(ジュンヤ・ワタナベ・コム・デ・ギャルソン)。友達がニューヨークのチェルシーにあるコム・デ・ギャルソンで働いていたんだけど、「うちでもジュンヤを扱いたいんだけど」って相談したら、担当の人を紹介してくれて。その後、パリのショールームでOKをもらえた。ジュンヤがハイファッションへの入り口になって、その後はThom Browne(トム・ブラウン)、sacai(サカイ)、ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)と広がっていったんだ。

POGGY アメリカの多くのブランドが、90年代〜2000年代頭の当時は裏原系と呼ばれていた日本のブランドに影響を受けていると感じているんだけど、具体的にどういった点で影響を受けていると思う?

クリス 二つの面があるかな。まず一つは、それまでアメリカのブランドは服にクオリティを求めていなかったけど、日本のブランドから品質やディテール、素材の重要性を学んだ。日本のブランドはアメリカのストリートウェアを再解釈してより良いものに昇華していて、セルビッチデニムなんかも、アメリカ人が日本から良さを知ったものもの一つ。もう一つは、ブランド価値のコントロール。アメリカは資本主義だから、常に成長することを要求される。それはストリートウェアであってもコカ・コーラであっても同じで、年の終わりに売上を計算して、来年はその倍売るぞ、という具合に。でも、それは結果的に、市場に商品を溢れさせることになる。一方で日本のブランドは、欲しがる人が1000人いるならば、800個作って、供給を需要より少なくする。与えすぎないことで特別感を与えて、ブランドの価値をキープする。今は、日本の影響で世界的にこの動きになってきている。

POGGY なぜ日本のブランドは、早くからそういった売り方ができたんだろう?

クリス ビジネスのやり方の違いじゃないかな。アメリカはホールセール・モデルなのに対して、日本はリテール・モデルが主流だからだと思う。ダブルタップス、ネイバーフッド、ア・ベイシング・エイプ、グッドイナフ(GOODENOUGH)といったブランドは、アメリカの多くのブランドと違って、それぞれ自分たちのリテールショップ(小売店)を構えている。アメリカでは早くからショップがあったのは、Supreme(シュプリーム)くらい。リテール・モデルでは、直接、商品を投入するショップがあるから、デザイナーは自身のショップのための商品を作る。マーケットやプロデュースのやり方も、自分たちの店のために計画できる。一方で、アメリカではホールセール・モデルだから、他のお店に商品を卸すだけで、「9月の2週目は何を売ろう?」みたいな細かいことはしないし、できない。アメリカのブランドが今、学んでいるのは需要と供給のバランスと、お客を繋ぎ留めるために、毎週のように新しい数量限定の商品を投入すること。それらは日本からきているものだと僕は思っている。

POGGY なるほど。確かにそうだね。昨年、ついにユニオン・トーキョーがオープンしましたが、デザイナーズやラグジュアリーストリートブランドを絶妙なバランスで上手くミックスしているスタイルがユニオンの特徴で。僕自身もすごく好きなんだけど、このように異なる要素をミックスさせた店作りを行う上で意識しているのはどんなこと?

クリス ユニオンは今までいろんな試みをしてきたけど、その軸にあるのはあくまでもストリートウェアのセレクトストアで、それが僕が好きなユニオンの形であることは変わらない。だから、ストリートウェアキッズが、自分のスタイルを高めるためにどうミックスするか? ということを念頭にバイイングを続けていて、そのためにハイファッションのブランドを扱ってきた。でも今度は、ハイファッション側が僕たちのやり方を取り入れて、ハイファッションがストリートウェアをミックスし始めた。さらに今はストリートウェアがハイファッションを作ろうとしていたりもして、なんだかクレイジーだ。だから、ハイファッションとストリートウェアの境目が曖昧になってしまっている今の状況は、一部は僕が原因だと思う。最初に話していた、パリで起こっていることへの葛藤の話にも繋がるけど、ユニオンがストリートウェアとハイファッションをミックスし始めたという自負があるし、僕自身も責任を感じているんだ。

POGGY 昔からのラップミュージックが好きな人で今のトラップミュージックを受け入れられない人がいるように、例えばトム・ブラウンのようなトラッドなファッションが好きな人にとって、今のオフ・ホワイトのような流れって取り入れづらい部分があると思うんだけど。今のファッションシーンにおける、その二つの関係についてはどのように思う?

クリス 良い質問だけど、答えるのが難しいな……。僕が思うに、オフ・ホワイトやFear of God(フィア・オブ・ゴッド)の台頭によって、ファッションにはラグジュアリーストリートという新しいサブジャンルができた。それは何かというと、若いポップカルチャーのフィルターを通したファッションの進化と、それに対してトム・ブラウンなどを始めとする歴史の長い確立されたブランドとの、その二つの間の競争。今、時代は変動期を迎えていて、何が起こるかわからない。ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)がヴァージルのようなラグジュアリーストリート出身のデザイナーを雇ったりね。それが何を意味していて、どう進化していくかは僕には分からないけど、クールなことだし、素晴らしいことだと思う。次に何が起こるかとても興味がある。答えになってるかな?

POGGY 大丈夫(笑)。

クリス もう一つ、付け加えても良いかな? 今、改めて知っておかなければいけないのは、ファッションはビジネスだということ。トップにいる人たちはあくまでもビジネスマン。最近までハイファッションビジネスを支配していたベビーブーマー(1940年代半ば〜60年代半ばに生まれた世代)が年老いてきて、ファッションにお金を使わなくなってきている。人口としてはベビーブーマーとミレニアル(1980年後半〜2000年代に生まれた世代)が多くて、僕らのようなジェネレーションX(1960年代半ば〜80年代前半に生まれた世代)は人口も少なくて、他の世代ほど購買力がない。でも、他の二つの世代の架け橋にもなっているから、影響力はある。今、ミレニアルが一番、購買力があるから、ブランド側も彼らに向けた戦略を立てているわけで、それは悪いことだとは思わない。この状態は今からこの先しばらく続くと思う。

POGGY ところで、今、注目している若手デザイナーは?

クリス 僕は少しスローなところがあって、時間をかけて新しいデザイナーを発掘しているんだ。去年の夏、パリで興味を惹かれる若いデザイナーに会ったよ。BOTTER(ボッター)っていうブランドなんだけど知ってるかな? すごくエキサイティングなブランドで、ポートフォリオや学生の時のデザインブックを見せてもらったんだけども、そのポートフォリオ自体がまるでアートピースのようで、素晴らしかった。今後が楽しみなブランドだよ。あとはWales Bonner(ウェールズ・ボナー)にも注目している。ストリートウェアブランドだと、Online Ceramics(オンラインセラミックス)が好きだね。そんなところかな?

POGGY 最後に、これからのユニオンの展望について教えてください。

クリス 手探りなところもあるけど、去年は僕たちにとってとても印象的な一年だった。東京にショップをオープンして、3つの大きなコラボレーションをして、自分たちのブランドのローンチもした。チャレンジングでもあるけど楽しみにしているし、前進し続ける。これからも、ユニオンがコレクションとして成長していくのを見守っていてもらえたら嬉しいよ。

           
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