2016年秋冬「ロンドンコレクション」リポート|JOHN LOBB
JOHN LOBB|ジョンロブ
2016年秋冬「ロンドンコレクション」リポート
ジョンロブが拓く、美しい靴の新境地(1)
昨年、アーティスティック・ディレクターにパウラ・ジェルバーゼを迎えた「JOHN LOBB(ジョンロブ)」が、今季もロンドンコレクションにて新作を発表した。イングランド南部に広がる湿地帯、ダートムーアからインスピレーションを受けたというコレクションでは、どのような美しい靴が展示されていたのか。その模様をリポートする。
Photographs by FUJIWARA YuText by ITO Yuji
ダートムーアの湿原をオブジェで会場に再現
ブランドのロゴを変え、シーズナルコレクションにアートピースのような美しさをもたらしたことで「ジョンロブ」の新たな魅力を開花させた、パウラ・ジェルバーゼ。彼女の次なる挑戦となった2016年秋冬のロンドンコレクションは、ブランドのルーツに捧げられたオマージュともいうべき要素に満ちていた。
そのルーツとはもちろん、創業者であるジョン・ロブの故郷、コーンウォールからロンドンへの旅である。その旅の途中にあった町がイングランドのデボン州南部に広がる湿地帯、ダートムーアだ。英国の国立公園として保護されているこの地域は花崗岩で覆われた高地であり、原始的な自然に満ちた場所として知られている。
その風景や自然にインスピレーションを受けたという2016年秋冬の展示会場は、入口に岩をモチーフにしたオブジェが展示され、そこには昨年一新されたブランドのロゴが刻まれていた。会場へと続く通路は暗く、嵐の風切り音がBGMとして流れており、あたかもジョン・ロブの旅の一部を体験したかのような錯覚を覚えさせる。
新しい技術によって表現された、機能という美しさ
暗闇の嵐を抜け、会場へとたどり着くと今シーズンの新作となる靴たちは、ダートムーアの風景を再現した岩の上に飾られていた。当然のことながら、それらはこれまでにないデザインの靴であり、それらのひとつひとつを間近に眺めたくなるような美しさと存在感で来場者たちを惹きつける。
今季のコンセプトについて、パウラ・ジェルバーゼは「美しさのためのデザインではなく、動きやすさや強度、はき心地といった本来、靴がもつべき機能を構造から見直すことからはじまりました。そのためにジョンロブならではの厳選された美しい素材をどう活かすのかを考えた結果、デザインはシンプルなものに行き着いたのです。けれども新しい技術によって、ディテールにこだわるブランドのアイデンティティを表現しました」と話す。
page02. パウラ・ジェルバーゼ初のビスポークコレクションを展開
JOHN LOBB|ジョンロブ
2016年秋冬「ロンドンコレクション」リポート
ジョンロブが拓く、美しい靴の新境地(2)
細部に宿る、ジョンロブのこだわりと美意識
今回のコレクションでは、パウラ・ジェルバーゼが初めてデザインしたビスポークシューズも披露された。パリのビスポークアトリエと協働してつくりあげた、新しいビスポークのカプセルコレクションは「アルティザン・シリーズ」と名づけられ、彼女が考えるジョンロブらしさ、そして美に対する世界観が表現されたもの。
ビスポークゆえにオーダーしなければ手に入らない靴ではあるが、展示されていた5つの特別なモデルには存分に“ジョンロブらしさ”が込められている。アイコニックなストラップを用いたモデルは、バックルのメタルパーツがより繊細なつくりとなっており、ストラップ自体もより細くエレガントな仕様に。また、アイレットのピッチを変えて、レースアップを個性的に彩るモデルも登場するなど、独創性とクリエイティビティに満ちたラインナップとなった。
いずれも靴としての美しい佇まいをキープしながらも、奇抜ではない新しさに満ちたデザインを見ると「神は細部に宿る」といった建築家、ミース・ファン・デル・ローエの言葉が思い出される。それは今シーズンのコンセプトにも通じる部分があり、職人の手によってつくり出されるひとつひとつのパーツが、靴としての機能性、美しさに集約するというものづくりの理想型ともいえる。
この「アルティザン・シリーズ」が意味するのは、名門が名門のまま留まることなく、現代的な感覚とセンスを取り入れることで、さらなる高みへと昇る「ジョンロブ」ならではの姿勢。クオリティとモダンなデザイン、それを実現するテクニック。これらが三位一体となった「アルティザン・シリーズ」は、クラフツマンシップと芸術性を象徴するコレクションなのだ。
注目を集めたレディ・トゥ・ウェアのコレクション
細部の進化は「アルティザン・シリーズ」のみではなく、レディ・トゥ・ウェアのコレクションにも活かされている。新しいラバーソールを使用した「バルモラル」シリーズ、ミュージアムカーフにウォータープルーフ加工を施した「アルダー」、そして極限まで軽さを追求した「テンシル・コンストラクション」という仕様など、次回ではレディ・トゥ・ウェアで展開される新作シューズの詳細についてご紹介する。