ボリオリが切り拓いたメンズスタイルのイノベーション

あるときは、くしゃくしゃに丸められたジャケットが壁に無造作に掛けられ、トルソーやハンガーといった什器を置かないプレゼンテーション。また、あるときは幾何学的に折り曲げられたワイヤーを什器に見立てて斬新なコーディネーションを並べた。毎年1月と6月、フィレンツェで開かれる「Pitti Immagine UOMO(ピッティ・イマジネ・ウォモ)」。次世代のクラシックを担う実力派ブランドが軒を連ねる「フトゥロ・マスキーレ（Future Masculin）」のブースで、ひと際目を引くそのディスプレイが毎季注目の的になる。サルトリアーレの流れを汲むメゾンのそれとは、明らかに異なるモダンな感性が浮き上がるデザイナーズモードのようなエキシビジョン。それは100年を越える伝統を背負うボリオリの現在を静かに物語る。

Kジャケット、ハンプトン、ドーヴァー、ワイト、etc。ジャケットはどれも指名買いされる。その様相は、これまでのメンズファッションムーブメントに例を見ないと、世界中のバイヤーが口を揃えるほどに。

2003年に登場したKジャケットは、カシミヤジャケットにティントインカーポと呼ばれる製品染め加工を施す大胆な手法を採用し、ヨーロッパ中のメゾンを震撼させるとともに、世界中の伊達男達のマスターピースとなった。2008年に登場した３パッチポケットのドーヴァー、今春の話題作ワイトはいまやトレンドセッターとしての役割をも担っているのだ。確かにクラシックがこれほどまでにブームとなることはもちろん、男のワードローブにモード以外から流行を持ち込んだブランドは記憶が薄い。

アンコンストラクテッドなジャケットがドレスクロージングの主流に成り得なかった時代に打ち出された、副資材を一切使用しないジャケット。それは、いまや多くのメゾンが追随する男のスタイルとして時代を牽引する。あるジャーナリストは言った。「ボリオリが無かったら、クラシックは20世紀で死んでいた」と。

２シーズン前から、トータルブランドとしての展開を開始している。ジャケットスタイルをベースにした男のスタイルを明確に打ち出したコレクションは、これまで大きく乖離していたクラシックとモードの溝を埋めるボーダーレスな世界観を創出したのだ。それはドレスクローズなのかと問われば答えはNOだ。スポーツカジュアルなのかと問われても答えは変わらない。まったく新しい基準に即したイノベーションなのである。19世紀末、北イタリア・ガンバラの小さな工房サルトリア・ボリオリの血を引くデザイナー、ピエルイジ・ボリオリと、ディオール、プラダを歴任しCEOに就任したロベルト・ファルキとの両輪は、ブランディングとしてファクトリーブランドからラグジュアリーメゾンへと転換する機動力となる力強いトルクを生みだしている。

BUYER'S RECOMMENDATION VOICE OF BOGLIOLI!

ボリオリの先見性は、時代の空気感の読み方と取り入れ方にあります。デザイナーズモードからクラシック回帰の空気を感じ始めた頃、サルト仕立てのジャケットに大胆な手法で加工を入れるという、ほかのクラシックメゾンが絶対に踏み込まない領域に進出しました。モードとクラシックを一店舗で揃えるエストネーションでは、双方のお客様から支持される稀有なブランドとして認知されました。そのためほかでは買い付けないような、トンがった色柄素材のモデルもラインナップしています。クラシックとモードを行き来する現代人にとって、まさに必要なブランドなのではないでしょうか。

原雄一郎｜HARA Yuichiro
エストネーション　バイヤー

2003年からエストネーションのバイヤーに就任。モードとクラシック双方をミクスチャーするスペシャリティストアにおいて、クラシック部門のバイイングを一手に担う。