LOOPWHEELER|“吊り編みでボーダー柄”のカットソー
ルモアズ別注「クラシックボーダー天竺ボートネック」
“吊り編みにしてボーダー柄”の秘密(1)
古くから伝わるこの機械から生み出される吊り編みものは、現代の機械では表現できない、独特にして極上の質感を実現する――ループウィラーは“吊り編み機”で、ボーダー柄のカットソーを作ることに成功した。その「スゴさ」の理由は、“幻の技術が次世代に受け継がれた”ことにある。開発のエピソードとともに、エポックメイキングなプロダクトの魅力に迫る。
Photographs by MIKAMI MakotoText by IWANAGA Morito(OPENERS)
吊り編み機ではボーダー柄をつくれない?
吊り編み機に特殊な糸の切り替え装置を組み合わせることによって実現した「LWクラシックボーダー吊り天竺」。とてもやわらかな肌触りをもち、その着心地を存分に体感したくなるようなアイテムだ。今回ルモアズ別注でオーダーしたグレーメランジ×パープルという限定カラーのリリースを機に、このカットソーがもつ秘密を、ループウィラー代表・鈴木諭氏に、ルモアズのディレクターを務める松本博幸が聞いた。
松本 吊り編み機でボーダーを編むということ自体が、基本的には不可能なんですよね。
鈴木 編み機は、シングルジャージとダブルジャージに大別できます。給糸口、つまり糸が入っていく口の数が1つ、または多数に分かれます。吊り編み機は1つしかないシングルジャージだから糸が切り替えられない。普通、ボーダーを編む場合は、給糸口が2つある編み機を使います。次のコースでちがう色に入りなさいって、機械が自動で瞬間的に切り替えてくれるんですよ、うまい具合に。でも、吊り編み機を使用していない商品は、ループウィラーには存在しないので。
松本 それを給糸口が1つしかない吊り編み機でやるとなると……。
鈴木 理論的には機械をとめて糸をむすんで、という工程を、いちいち色が変わるごとにやってかないと編めない。
カネキチ工業さんの若い人が、久しぶりに工場の倉庫内にあるものを全部引っ張り出して掃除をしていたところ、奥のほうに、編み機ではない不可解な機械を見つけたんです。ところが社長以下全員、記憶が飛んでいたようで……。その謎の機械が存在していたことすら忘れてしまっていたみたいです。少し調べてみたら、たぶん1970年代に作られた機械なんじゃないかと。それが、吊り編み機でボーダー柄を編めるかもしれない、切り替え機との出合いだったのです。
ルモアズ別注「クラシックボーダー天竺ボートネック」
“吊り編みにしてボーダー柄”の秘密(2)
現代に復活した幻の技術
松本 その切り替え機と出合わなければ、今回の商品は生まれなかった。
鈴木 そうですね。仕組みとしては、自転車のギアを変えるリアディレイラーのように、チェーンとコマがついていて、メカニカルにコースを変えていくシステム。そのチェーンとコマは、いまでは手に入らないものだし、資料もなにもない。あれこれいじっていくうちに、もしかして吊り編み機と組み合わせることでボーダー柄が編めるんじゃないかと、いろいろと試行錯誤していて。そのようすを知らせてくれていたので、第一番の仕事は、僕がお願いすることにしました。
そして生まれたのが「LWクラシックボーダー吊り天竺」。松本さんに商品をお見せしたところ、ぜひルモアズでも展開したいと言ってくれたので、じゃあ、色を変えてやろうかという話になりました。
松本 グレーメランジのベースにパープルのラインでお願いしました。ボーダーは少し赤みがかったブドウ色に近い赤紫といったところでしょうか。全体的には落ち着いた色味で派手すぎず、上品な印象に仕上がっています。
鈴木 こういう天竺編みのカットソーだと、セントジェームスみたいな、ゴワッとした厚めのドライ感があるものが多いですよね。いわゆる「バスクシャツ」というアイテムには、やわらかい風合いのものは、なかなかない。糸を太くすると生地は基本的に固くなるんですけど、吊り編み機を使うことでやわらかく仕上がりました。
松本 生地ひとつにしても、可能か不可能かの段階で、すごく手間がかかっている。
鈴木 吊り編み機は本当にローテクな機械なので、不便なところもあります。ボーダー柄を編むにしても、切り替え機を別にこしらえないと、商品を量産することなんてとてもできなかった。それを改善するために、給糸口が複数ついた、より高速のあたらしい編み機が作られる。当たり前の話なんですよ。ただそれを差し引いても、旧式の吊り編み機にはいいところがすごく多い。着心地、風合い、ヘタレが少ないとか、基本的には高品質なものが生まれるんです。準備が面倒くさいだとか、管理が大変だとかいう、人の都合で廃れてしまった機械なので。
要するに吊り編み機にたいして、コストダウンや大量生産というところを求めても、とても使い物にはならない。効率を無視すると、労力と時間がかかるので、働いている人にとっても割にあわないでしょう。
しかし、そういう手間暇かけた仕事って、振り返ってみると、良い内容だったりすることが多いじゃないですか。そういう考え方で向き合うと、吊り編み機は、手間を惜しまず、時間をたっぷりとかける価値がある――つまり、作り手の意志を受けとめてくれる機械なんですよね。
ループウィラー
http://www.loopwheeler.co.jp/
鈴木 諭|SUZUKI Satoshi
1959年、静岡県生まれ。法政大学卒業後に繊維業界へ進む。独学で服作りを追求し、99年、吊り編み物しか扱わないというスウェットシャツのブランド 「LOOPWHEELER(ループウィラー)」を立ち上げる。長年カット&ソーの企画生産に携わり、築き上げた人脈と信頼、確かな技術力と生産工場を背景 に、メイド・イン・ジャパンによる品質の高さと、その哲学的な部分まで次世代に伝えたいと考えている。ヴィンテージのスウェットシャツの研究はもちろん、 旧式吊り編み機、そして編み方など技術的なことまで含めて研究を続ける、スウェットのスペシャリスト。
松本博幸|MATSUMOTO Hiroyuki
1969年生まれ。学生時代にクルマ専門誌の編集と営業を経験後、株式会社ワールドフォトプレス入社、広告営業部に配属。『世界の腕時計』『モノ・マガジ ン』をはじめ、数多くの雑誌に携わる。2005年に退社し、「SHIBUYA-FM」の制作プロデューサーや、アパレルブランドのコンサルティングおよび 商品開発を手掛ける。06年、七洋株式会社設立に参画し、「オウプナーズ」「ルモアズ」を立ち上げる。ファッション業界のみならずさまざまな業界に幅広い 人脈を持つ。現在同社常務取締役であり、ルモアズのMDも務めている。