CRAM JAM CHEST|デザイナー、野口祐輔インタビュー
Fashion
2015年2月6日

CRAM JAM CHEST|デザイナー、野口祐輔インタビュー

CRAM JAM CHEST|クラムジャムチェスト

デザイナー、野口祐輔インタビュー

ファッションブランド「gomme」のディビジョンチーフを経て、2006年に「CRAM JAM CHEST(クラムジャムチェスト)」を設立したデザイナー、野口祐輔さん。ファッションからアートへと横断したアプローチが生みだす「表情」のかずかずに、魅了された方も多いことだろう。彼がなぜこの表現方法を選んだか? その真意がいま語られる。

Text by OPENERSPhoto by Jamandfix

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ぬいぐるみではない、アートピース

OPENERS まず野口さんにお聞きしたいのは、デザインの対象がファッションからクラフト寄りのアートピースへと変化を遂げた経緯、そのきっかけは何だったのでしょうか?

野口 もともとアパレルの世界に5年半ほど携わってきました。そのなかで「洋服が平面であること」に疑問をもちはじめたのが最初です。立体としての服を製作するのに、平面にすべてを落とし込まなければならない。「これで本当の立体か」と考えたとき、“立体に沿わせた平面”は本当の立体物でないという解釈になった。

つまり、頭のなかで立体を想像できれば、平面で洋服を作ることは可能なんだと思ったんです。たとえば美術館で絵画が平面だったら、彫刻は立体。「洋服で彫刻を表現するのは無理なのではないか」と。さらに自分は洋服の生地の表現方法しか知らなかったのというのもあり、「本物の立体物って何だろう」と自問自答した結果、現在の“ぬいぐるみ”という表現になりました。ですが、私はぬいぐるみとは呼んでいません。アートピースとして捉えていただきたいと思っています。

OPENERS 掲げているコンセプト、「パターンでのアプローチとして、表現する対象をわかりやすい立体物で表現する」という言葉に集約されていますね。アートピースを作る際、実際の動物についてリサーチをするのですか?

野口 しますね。動物の健康体──正しい立ち方、しっぽの巻き方、首の座り方──そういうところをいろいろ研究して、表現に落としこみます。猫や犬と一緒に生活しているひとに「それは違うよ」と言われてたくないので(笑)。「でも必要以上のリアルさは追及しないんですね。ぬいぐるみとしてのかわいらしさも取り入れたいので。

OPENERS ヴィンテージ・ジーンズやアーミーもののマテリアルを取りいれたのはなぜなんですか? 生地自体に味があって、すでに一点もののようですが……。

野口 素材となるデニムもアーミーもヴィンテージのモノを使っています。ヴィンテージにはひとつとしておなじものが存在しません。ヴィンテージがもつ“一点モノ”のおもしろみを、自分が創るアートピースに落としこみたかったんです。それに、素材自体のラインやパーツを活かして作ったモノは、自分の想像を越えたものができるのも、面白いと思ったんです。

OPENERS パターンには強いこだわりがありそうですね。

野口 これはありますね。パターンで50。裁断すると100パーツになります。Tシャツだと“空き”がありますが、ぬいぐるみには空きが許されない。それを完璧に縫製しないといけない。
関東近郊の工場をひとつひとつ当たりましたが、工場の職人さんに「パターンが複雑すぎて作れません」と断られました。

OPENERS 量産品ではないということですか?

野口 そうですね。パターンが50もあって、それぞれに縫い代があるので。工場で量産する場合、1つのパーツにたいして最低でも5、6回の指示が必要なんです。洋服では「前身頃で……」とわかりやすい指示ができますが、今では「足の裏の……」ですからね(笑)。だから僕のアートピースは量産ラインには決してのらないんです。

OPENERS 製作のうえでは絵を起こしていく感じですか?

野口 顔の表情に関しては、絵を描いていくんですが、まずは試行錯誤しながらパターンを組みなつつ作っていきますね。そのとき同時に素材に関しても考えます。「足には木くずを使ってしっかり立たせよう」とか。

OPENERS 表情があるのものなので、野口さんのもとを離れるときは、寂しさもひとしおではないですか?

野口 それはありますよ。やっぱり目があるものはね。いつも顔は最後に作ります。

OPENERS 「CRAM JAM CHEST(クラムジャムチェスト)」として3年目を迎えて、洋服とアートピースの境界線を払拭することはできましたか? また洋服をやってみたいという気持ちになったりしませんか?

野口 境界線はないです。もう一緒ですね。あと洋服ですが、自分が着るものとしては興味ありますが、洋服を作るということにはもうありませんね。この子(ぬいぐるみ)たちに浮気をしてしまうことだから、作りたいという気持ちはないんですよ。

OPENERS 今後作っていきたいこと、目標はありますか?

野口 形やモノにこだわりながら、洋服以外のクリエーションを続けていきたいと思っています。いまはハンドメイドによるアートピース作りもしていまして。「CRAM JAM CHEST」って宝箱っていう意味でもあるんですが、ここに思いをこめて、可能性を模索しながら、より魅力的なモノを作っていきたいと思っています。

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