第4回  前世は英国人だったという話
Fashion
2015年5月20日

第4回 前世は英国人だったという話

BOTANIKA 2008-09 AUTUMN&WINTER COLLECTION

第4回 前世は英国人だったという話

前回キャサリン・ハムネットの呪縛について語りましたが、それはイギリスという国の呪縛かもしれません。
眉唾な話と思っていただき差し支えないのですが、僕は何人もの人から前世が英国人であったことを告げられました。

文=信國太志Photo by Jamandfix

ロンドンに住んでいたころの話

前回お話した中学生のころも、両親に中学を辞めてロンドンに行きたいと言っていましたし、自分でも不思議に思うのは、初めて行ったロンドンでは、レンタカーをいきなりピカデリーサーカスに乗りつけて路駐(渋谷の交差点の真ん中にクルマを駐めるようなもんですね)。なにを思ったか吸い込まれるようにフォートナムメイソンの前に行くと人の群れで、なにごとかと眺めているとプリンスチャールズが現れたことです。初めてロンドンに着いて2時間も経たないあいだのことでした。

ではそんなイギリス的なこととはなにかというと、それは疑うことだと思います。パンクだってそう。現状を、社会を、支配者層を疑うこと。
そんなパンクのクイーン=ヴィヴィアン・ウエストウッドが敬愛する作家はバートランド・ラッセル。20世紀中もっとも懐疑的にして鋭い知性の持ち主です。

やがて僕がロンドンに移住したとき住んだのは、それは後にある人に前世に住んでいたと告げられたバッキンガムパレスの近く(パレスの近くにいたと言われました)にあった、ヴィヴィアンの次男坊にしてマルコム・マクラレンとの唯一の子供であるジョセフ=コレのフラットでした。

信國太志 Photo02

信國太志 Photo03

ヴィヴィアンから言われたこと

ジョセフとガールフレンドが1,2階で、僕は一番上の小部屋。そのあいだのフロアには現代美術家のマーク・クインが住んでいました。彼は後に自分の血を自分の透明な鋳型に詰めて凍らすという作品がサーチアンドサーチにコレクションされ、スター作家になりましたが、当時はボルサリーノにチェスターコートのいでたちで毎日病院通いをしてました。まさか毎日血を抜いていたとは知りませんでしたが。

よく自分の部屋にいると下からダミ声が聞こえヴィヴィアンだと察し、トイレに行きたくとも部屋を出ませんでした。デザインを志す身としてなんだかおっかなくて面倒だったのです、女王謁見が。しかしそんなことも長くはつづかず、ある日深夜のキッチンでばったり会ってしまい、即座にジョセフに紹介されました。その上ジョセフに「自分で縫ったジャケットを見せろ」と言われ、階段を登りながら顔が真っ赤になったものです。見せると「あなたはこんなチープなファブリックに大層な愛情を込めて縫っているのだから、せっかくなら肩のダーツはまっすぐな方が良いわ」と、嫌味なのかほめているのかわからないことを言われました。

まあほかにもいろんなエピソードはあるのですが、そんな女王の息子であるジョセフは、そのころに「AGENT PROVOCATEUR」という下着屋(ロゴは僕が覚えたてのイラストレーターでつくりました)を開店。今では日本以外の世界中にあるという大成功を収めました。最近耳にした話では、その成功を讃えられ勲章を授与されるも、「人殺しのバッヂなんかいらない」とジョセフは断ったとのことです。ジョセフらしいなあと心中拍手しました。
そう。それがイギリスなのです。それがパンクなのです。本当のことをちゃんと見つめ、本当のことを語ること。そもそも輸出に成功すると、外国の資産をぶん取ると、叙勲としてほめられるというさすがは海賊の国ですね。

本物の悪は存在する

僕はそんな彼女たちのようなイギリスのデザイナーに影響を受け、やはり疑うことをやめられない性格であるうちに、いろんなことが見えてしまうのです。たとえば、この社会には本物の悪が存在すること。
僕たちがお肉を食べることで、アメリカの穀物会社は儲かります。えさとして飼料が売れるから。コットンの大量栽培により儲かるのは、アメリカの化学薬品の会社です。農薬が売れるから。

でも、そのようなことは偶然ではないのです。穀物商社は僕たち日本人を肉漬けにするために、戦後“キッチンカー”という宣伝車をくまなく走らせてパスタやステーキなどを広め、結果、小麦の売り上げにつながる料理を農村の主婦たちにプロパガンダしました。お金をだしていたのはアメリカ政府。綿花で肥料が売れるのではなく、肥料が売れるように綿花栽培を広めたのです。インドでは、ボリウッドムービーにのせて歌えや踊れやの踊るマハラジャならぬ踊る綿花栽培のような宣伝映画がつくられています。そのように大量の綿花成金を生むも、彼らの土地はもはや農薬で死に絶え塩を吹く以外なにも育たない荒野と化しています。マネーのために大地を汚すものを悪と言わずなんと言うのでしょう。
そんな人たちとべトコンよろしくゲリラ戦を仕掛ける僕のような輩は、優しい服だとか言ってても、本当はそんなパンクであることをお知りおきを。

つづく
           
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