DVD「Vivienne Westwood 1970s-1990」トークセッション 島津 由行 × 荏開津 広(2)
Fashion
2015年5月20日

DVD「Vivienne Westwood 1970s-1990」トークセッション 島津 由行 × 荏開津 広(2)

前回に引き続き、去る3/24に新宿モード学園にて開催されたDVD「Vivienne Westwood 1970s-1990」の発売記念、プレビュー&トークセッション内で行われた、ライターの荏開津 広さんとのトークセッションの模様をお送りします。

左:島津由行、右:荏開津 広

荏開津 広(以下E):ヴィヴィアンは、学校の先生を目指していたんですよね。

島津由行(以下S):そうです。
マルコムと知り合った頃は、すでに教師だったようです。
「ワールズ・エンド」以後も、勉強して他国の教員免許を取ったりと、凄くインテリジェンスな方ですよね。

E:彼女がマルコムと出会い、ジュリー・ゴールドスタインやバーナード・ローズ、更にジェイミー・リードなど、アートスクールの友人たちの参加によって、当時のオートクチュールを含めた洋服作りとは全然違うアプローチを行うけど、どちらかと言うとアマチュア的なやり方だったんでしょうか?

S:そうですね。
当時、彼女のファッションスタイルとしては、一度作った服をマルコムと一緒に気に入らない部分を引き裂いたり、破いたりして変更していく事を、そのままにしておくようになって、それ自体をも自分のスタイルに取り入れたようです。
パンクの定番となったモスリンシャツも、多分この繰り返しとヴィヴィアンの持っていた"知識"(ローマ時代の戦闘服からインスピレーションを受けたらしい)と、マルコムのスローガンを掲げたこのコラボレーションによって生み出された物だと思います。
その後、「ワールズ・エンド」(キングスロードの終わりにある通りの名前から取ったブランド名)の時に、"パイレーツ・ファッション"という一世風靡したファッションがあるんですが、それはイギリスの国自体、元々バイキング、、、船で植民地を開拓していったという歴史のある国なので、色んな国から盗んだ文化や思想を、彼らなりに「研究開発」した次の段階という事なんじゃないでしょうか。

E:そういう過去の歴史や思想的な部分からインスピレーションを受けてデザインに取り込むという事は、初期の頃からなんでしょうか?

S:そうですね。
ヴィヴィアンの技術と細部へのこだわりが開花したのは、75年の「SEX」からだと思うんです。
歴史よりも政治的誘発や矛盾に対して、多くの意味を盛り込む事とブリコラージュ(寄せ集めた自分の創作)の為の素材として、過去の文化・美学・性的フェティッシュを取り入れる事で「対立の二極化」の為にデザインされた“究極のパンクファッション”の前身を生んだんだと思いますね。

E:例えば、ココに(ある作品の背中の部分の文字部分を指して)思想家のメッセージが入っていたりしてますよね。

S:この辺も、反発や矛盾などシチュアシオニスト的スローガンを盛り込む事によってシンボリックにしたかったようです。
(ある作品の詰め襟の部分のバッヂを指して)これなんかはナチスの本物のバッヂなんですよ。

島津由行×オウプナーズ

E:えっ!そうなんですか!?

S:「レット・イット・ロック」、「SEX」もそうなんですが、そういった小物はオリジナルを使っているから凄いですよ。
そう言えば、ハーレー・ダビッドソンのチーム、ヘルスエンジェルスもナチスの同じものを付けていました。ヴィヴィアンは大好きだったようで「レット・イット・ロック」の頃のデザインに反映しています。

E:なるほど、そうだったんですね。
ちなみにこちらは、何年のものなんですか?

S:これも「ワールズ・エンド」の時のものなんですけれど、84年の最後の方です。
イタリア生産になって最初の頃、デザイン活動を休止するちょっと前の時のものです。背中のデザインも手が混んでいて良い感じですよね。ちょっと出来が良過ぎですけれど。プリント・ワークスも奇麗ですよね。
今、こんな事したらお金掛かり過ぎちゃって大変ですよ(笑)。

島津由行×オウプナーズ

E:これを見ると、この頃からロゴ・カルチャーを予見していたんですかね?

S:そうですね。

E:今は、完全にロゴカルチャーが、、、

S:ベースになっていますよね。

E:ここのバッヂもナチスの本物ですよね?

S:本物です。

E:なるほど、これは「セディショナリーズ」ですか?

S:そうです。
ちなみに「セディショナリーズ」という名前の由来ですが、ショップの常連がカウボーイTシャツを着ていて、警察に捕まったらしいんです。
それが、扇動罪(Sedition)という罪に問われたんですよ。それで、そのままそれをショップ名に取り入れたみたいです。

E:こちらは、有名なパラシュート・シャツですね。

S:このデザインは、リサーチと実用化の集大成ですよ!大好きです。当時、イギリスのストリートの普段着だったようです。凄くないですか。

E:どういう所に惹かれるんですか?

S:彼女のデザインは、やっぱり真似られないんですよ。
特に、70年代の初期のトンガったデザインは、ビジュアル的にも強いインパクトを与えていて、今思うと現代的なんですが、当時は最新すぎて未だにあのデザインを越えるデザイナーはいないんじゃないでしょうか。
異種格闘のマーシャルアーツでも使われていた変な靴があるんですが、「ワールズ・エンド」にもその形で、更に先が四角い靴があって、、、そういった無駄な(笑)!?デザインが結構あったんです。当時、僕はそれが普通だと思っていたんですけれどね。
今はそういう時代背景ではないんですが、あのトンガったデザインは今でも凄く好きです。そういった意味でも、こういうアナーキー・シャツは、突き抜けたデザインですよね。

E:これは、いわゆる拘束衣的なものとは、関係があるのでしょうか?

S:その関連の話なんですけれど、ボンテージ・パンツは、マルコムがアーミー・パンツを買って来た時に、、、アーミー・パンツって太いじゃないですか?
で、ココ(パンツの後ろの部分)の裏にファスナーを付けることによって、パンツの形が細くなるんですよ(布地はブリティッシュ・レイルスのポーターのユニフォームで使用させた物)。このファスナーがお尻の所までいきますから、かなりSM的でフェティッシュなアイデアが盛り込まれていて、まさに戦いのユニフォームといった感じに仕上がったんじゃな
いでしょうか。
「SEX」では、そういったSM的なエッセンスをデザインに取り入れたようです。それで、お尻のファスナーの部分を隠す為に、プリーツ・スカートのデザインを考案したらしいのです。

E:SMのエッセンスを取り入れたという事は、まさにSEXと直結しているわけですよ
ね。
ファッションとしては、かなりストレートな表現じゃないですか?

S:かなりストレートですね。
次のこちらは、セックス・ピストルズの最初の頃のTシャツです。

E:色の使い方が、凄いですよね。

S:エグイですよね。
初期のTシャツを製作したのは、後にクラッシュのマネージメントをするバーナード・ローズで、シルクスクリーンでプリントしていたようです。

E:ピストルズというバンドは、ヴィヴィアン・ウェストウッドとマルコム・マクラレンのコラボレーションの服でデビューして、反体制をスローガンに出て来た訳ですけれども、実際に彼らが与えた結果というのは違いますよね?

S:そうですね。
多分、パンク・ファッションというと髪を立てたり、ピンズを付けたりとかは、あくまでアティチュードというか型であって、本当は格好だけで表現出来ないことだと思うんです。
でも、当時のイギリスという国は、格差がひどく、自由な事がほとんど出来ない状況だったんですよ。だから、予測不能のムーヴメントが欲しかったんでしょうね。
そういう体制に対してアプローチしていくというのが、ヴィヴィアンとマルコムの元々の考えだったと思うんです。後にマルコムが音楽、ヴィヴィアンが洋服で表現していく訳ですよね。
でも、それで彼女が反体制的になったかというと実はそうではなくて、開かれる国に対して逆にアイディアを与えてしまったんです。自分が思い描いていたストリートから出て行く方法論とは逆に、世の中に凄い勢いで広がっていく事へのまどろっこしさから、「ワールズ・エンド」のパイレーツ・ファッション等を生んでいったんだと思います。

E:それはナチスのような組織・体制に対して、挑発的なものをファッションに取り入れたり、SEXと直結しているようなSM的エッセンスをデザインに取り入れた事が、結果として国家や体制に対してアイディアを与える事になってしまったという事なんですか?

S:ええ、例えばジョン・レノンも反体制でしたけど、教科書に出ているじゃないですか?
いつからそうなったかは分からないですけれど、ジョンだって「キリスト発言」の様な反体制的な事をしていますからね。

E:いわゆるアンチ・キリスト発言ですよね。
そういった反体制的要素がヴィヴィアンのデザインに影響を与えたという事なのでしょうか?

S:そうだと思いますね。
体制的な部分は、多分、今でも変わっていないと思います。彼女の思想の問題だと思うんだけれど。
「ワールズ・エンド」が終わった後に、彼女はもう一度洋服のデザインを勉強し直すんです。もっと自分の深い所を知る事で、オリジナルを追求し始めるんですよ。
ココが面白いんですけれど、僕はパンク的ファッションに戻ると思ったんですが、そうではなくもっと懐疑的になっていったんですね。

プロフィール

荏開津 広 EGAITSU hiroshi
(one hand clappin')

コンセプト/テキスト/ディレクション
東京生まれ。立教大学在学中からDJを開始、同時に雑誌に文章を書き始める。
コンピレーションや、ラジオ、TVなどの構成もてがけ、代表的なアルバムは「ルーティン」、「テンプル・オブ・ダブ」、「イル・セントリック・ファンク」など。
歴史的ヒップホップ・パーティ「さんぴんCAMP」映像作品スーパーヴァイザー。現在手がけているのは、NYのショップ"KIOSKHELLO"とのコラボレーション、アーティスト、ヨルグ・ガイスマール、ニュー・メディア・リサーチャー、フィリップ・コドニエとのディスコース・プロジェクト”onestoneinsidetheshoe"など。
RIDDIM、OK FRED、VOGUE NIPPONなどにもに執筆。
東京藝術大学、多摩美術大学、などで非常勤講師としても奮闘中!

           
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