連載・信國太志|第14回 TAISHI NOBUKUNI A&W 2011-12~ヒップハングはもうないでしょう~
連載|信國太志
TAISHI NOBUKUNI A&W 2011-12
第14回 ヒップハングはもうないでしょう
ヒップハングはもうないでしょう。ファッション=時代はある一定のサイクルで繰り返すといわれます。では何がそろそろ終わるかというと、ヒップハンガーだと感じます。男の腰穿きと女性のヒップハンガーはそれぞれヒップホップとグランジ以来だと記憶しています。
文=信國太志
ヒップハングから、ハイウエストへ潮目が変わる!
僕はバイヤー時代にもっとも早く腰穿きを目撃し、当時日本未上陸のGAPのチノの40インチなどを大量に買ってきては、はじめて腰を落としだしたB-boyやスケーターにたくさん売りました。
またマルタン マルジェラがデビューし、ビョークのファーストアルバムがリリースされたころ。ジャン コロナなんかはかなりウエストを下げたパンツをドロップ。デビューしたてのアレキサンダー・マックイーンにおいては、ヒップどころかバム(けつ)スターなるヒップでギリギリひっかかり陰毛も見えんばかりのパンツでキャットウォークを沸かせました。それもこれも20年前。マックイーンももはやこの世におらず、ストリートブランドも影をひそめつつあります。
アンチ・エスタブリッシュメントで、ファッションなんて糞食らえ的な流れは、つまるところ“ファスト”という名のチープファッションという第三国の搾取の上に成り立つゴミと化したようです。
ではなぜハイウエストかというと、まず単純に足が長く見えるのは好ましいことです。しかしただウエストが高いだけだと、おなかとお尻が長くなっただけに見えるので、そこにはテクニックが必要です。
“ドレスカット”ってご存知ですか? 聞こえはいいですが、これはどういうことかと説明しますと、男性のジュニアを左右の股のどちらに収めるかを決め、その収める方を裁断のテクニックでボリュームをもたせます。するとボールにまたぐりが食い込むこともなく、ギリギリまでの股ぐりの非常に快適で美しく見えるパンツのできあがり。
うちのパンツにはそのような注文服の技術を既製服に応用しています。なぜテーラーの技術かというと、どちらに収めるかによるからです。しかし95パーセントは皆さんおなじ方向に収めるので、うちは思いきってこの技を応用しています。いずれ通常のサイズ展開×2の展開で、左右お好みで選べるベーシックチノをドロップしますのでしばしお待ちを。
で、今回のコレクションは、男女がともにエレガントだった時代、すなわち足が長く見えた時代である1930年代あたりを意識しました。美しくかつ反逆的であったボニーとクライドのバンクロヴァーカップルみたいな。
ウエストラインの高低もそうですが、ラペルの大小も時代の鏡。ファストファッションならぬファストスーツがディオール化。お笑い芸人が貧弱なラペルと袖山で顔の大きさが目立つ昨今。これからはラペルもかの優雅な時代を顧みて余裕をもちましょう。天皇陛下のスーツをお誂えになる服部晋先生はその御著書において1930年代と1960年代のファッションイラストを比較されて「1960年代は子どものようだ」とおっしゃられています。
しかし、そんな懐古趣味受け入れられねえ。だって俺らもとパンクスあがりだし──みたいな諸兄もいらっしゃるでしょう。しかし先輩、クラッシュなんてみんなハイウエストだって知ってました? ぜひよく見てください。意外にパンクもハイウエストにブレイシーズ(サスペンダー)というクラシックなのでした。
スパイラル状のファッションの進化っておもしろいですね。ボニーアンドクライドって、存在としてはシドアンドナンシーだと思ってますし。
TAISHI NOBUKUNI
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