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2019年9月22日
fragmentdesignによる九谷BE@RBRICK初の絵付けモデルができるまで(前編)|MEDICOM TOY
MEDICOM TOY|メディコム・トイ
石川県小松市から、九谷BE@RBRICK fragmentdesignの製作現場をリポート
メディコム・トイとミッドランドクリエイションが贈る、九谷焼に可動ジョイントを組み込んだ400%サイズのBE@RBRICKに、待望の新作が登場。fragmentdesign(※ファッション&カルチャーシーンの重要人物として知られる藤原ヒロシ氏によるデザインプロジェクト)が手掛けた九谷BE@RBRICK初の絵付けモデルは、一見すると白磁に藍青色のシンプルなデザインだが、実は大量の試作と多様な工程を経て、ようやく完成したものだ。そこで今回はミッドランドクリエイション代表の中祥人さんをナビゲーターに迎え、石川県小松市にある木田製陶所、東製陶所、そして能美市にある青郊を訪問。このBE@RBRICKがどのようにして出来上がっていったのかを、前・後編でお届けする。
Photograph by OHTAKI Kaku|Text by SHINNO Kunihiko|Edit by TSUCHIDA Takashi
生地製作と素焼き(木田製陶所)→グラデーションの下絵付けと焼成(東製陶所)
最初に訪れた木田製陶所は、7年前から九谷BE@RBRICKの製作に関わっている窯元である。
九谷焼の素地職人でもある木田 立(たつる)さんは「ひとつ、ひとつ、心を込めて」をモットーに、1日数個しかできない器や置物を丁寧に製作。仕事の正確さに定評のある職人だ。石川県小松市出身の中さんは、九谷焼作家の親戚から木田さんを紹介され、以来、欠かせないパートナーとなっている。
「最初にお話をいただいたときはBE@RBRICKというものがあることをまったく知らなかったんです。周りも『熊の人形?』とあまりピンとこない感じだったんですが、毎モデル即完売と聞くと、おお、そうなんやなって驚いています。製作に関して、まず難しいなと思ったのが穴のサイズでした。ここにジョイントパーツをつけたいということで、径の大きさ、位置が全部指定されていまして。ここまで精度が要求されるものは初めてでした。あとはジョイントパーツをどうするかですよね。実際、いま自立できていることがすごいと思いますし、それ自体が不思議な感覚です」(木田 立さん)
これまでメディコム・トイから発売されてきた九谷BE@RBRICK 【粟田釉】、【桜色斑点釉】、【煌天目釉】の素地も、すべて木田さんが製作。素焼きの後、釉薬(素地への水や汚れの染み込みを防ぐガラス質の膜を生む薬品)をかけて本焼成することで、光沢のある美しい表面が生み出されていった。そして今回の「九谷BE@RBRICK fragmentdesign」である。これまでとは異なり、絵付けモデルということで、中さんはかつてミッドランドクリエイションが発売した、『聖闘士星矢』(車田正美)、『ファイブスター物語』(永野護)、『コブラ』(寺沢武一)の絵皿で採用した、デザインをシルク印刷した転写シールを丁寧に貼って焼く手法ならば量産可能だろうと考えた。
「ところがfragmentdesignさんからいただいたデザインはシルク印刷のシールを貼れない構成になっていたんです。それは耳と鼻と拳ですが、このモデルは耳・手首・足などに施されたグラデーションが要なので、いろいろ思案した結果、グラデーション部分は「染付け」という昔ながらの手法を使うことで美しさと味わい深さが出るだろうと。そして、グラフィカルな模様部分は転写シール技術を使うことで一定のクオリティを保つことを目指したんです」(中 祥人さん)
「染付け」とは素焼きした素地に釉薬をかける前に「呉須(ごす)」で色を付ける作業で、下絵付けとも呼ばれている。染付けをした後に釉薬をかけて再度焼くことで、呉須は美しい藍色に変化する。色絵とはまた趣の異なる九谷焼の技法のひとつである。
難題は承知で託すことができる腕のいい窯元はいないか──中さんが白羽の矢を立てたのは、生地の製作から仕上げまで手作業で作り上げる東製陶所の東 繁治さん。染付けの技術においても右に出る者がいないほど熟練の腕を持つ職人だ。
「本当にどこも引き受けてくれない可能性が高かったんです。その中で東さんを紹介していただいたんですが、なんと僕の母方の実家が東さんの工房の向かいだったんです。実は母方の姓も東で、東さんは又従兄弟(またいとこ)。腕のいい方とご縁があって本当によかったと思います」(中 祥人さん)
「最初にデザイン画で色を付ける場所の指定を見せてもらったとき、ここまで複雑な形状にエアブラシで色をつけたことはなかったので、ちょっと無理じゃないかなと思いました。特に難しいと思ったのが鼻です。指定では鼻の輪郭をはっきり出しつつ周辺は淡くぼかしてほしいということだったんですが、あまり濃く吹きすぎると釉薬をかけたときに“ちじれ”や“ピンホール”が発生してしまいます。フリーハンドでやろうともしましたが、同じクオリティで量産するのはどうやっても無理で」(東 繁治さん)
そこで、中さんのアイデアが奏功する。
「僕も高校の時に美術部でエアブラシを使っていたので、周りに飛び散らないようにピンポイントで当てることがどれだけ難しいか重々承知していたので」(中 祥人さん)
「うまく成功したのは、普段使っているエアガンではなく、中さんに鼻専用に細かな作業ができるハンドピースと顔にかぶせるマスキング用のパーツを用意してもらったことが大きいですね」(東 繁治さん)
「そのマスキングパーツも、ジョイントパーツの製作でお世話になっているスワニーさんにデジタルモールドで設計していただきました。石膏型を作る際にBE@RBRICKのパーツデータは全部デジタル化されているので、そこから起こしていただいて」(中 祥人さん)
「マスキングパーツは2種類あって、ひとつは鼻の輪郭をしっかり取るためのもの。もうひとつはちょっと浮いている構造になっていて、周りをぼかすためのもの。私はこれまでこういうものを使ったことはなかったので新鮮でした」(東 繁治さん)
ちなみにfragmentdesignによる九谷BE@RBRICKがモチーフとしたものは何だったのだろうか。
「これはロイヤルコペンハーゲン(※ハンドペイントによるコバルトブルーの絵柄が特徴であるデンマークの陶磁器メーカー)をイメージされたそうです。九谷焼でコペンハーゲンというのは意外性があって面白いなと思いました」(中 祥人さん)
「九谷焼の染付けは昔からある手法で、いまはエアブラシでぼかしますが、もともとは筆を使った手描きなんです。筆の跡が残るところが味でもあって。九谷焼の染付けでこういう唐草の文様が入っているものはあまり見たことがないので新鮮ですね」(東 繁治さん)
東さんの手で下絵付けされたBE@RBRICKは、釉薬をかけて再び焼成作業に入る。
「今回の工程で一番リスクを負っているのが東さんです。焼いて初めて発色するので、万一、他所に飛び散っているとそれが出てしまう。出てしまったものは破棄せざるをえないので管理が大変だったと思います」(中 祥人さん)
「焼く前は濃淡が見えにくいので、たくさん吹くところ、薄く吹くところを感覚で調整しながら作業しているんですが、その際どうしても呉須の小さな粒が飛散してしまうんです。見て分かるものは針で取り除くんですけれども、焼かなければ分からない部分もあるので。焼き方については木田くんからいろいろ教えてもらって、ずいぶん助かりました」(東 繁治さん)
「例えば、頭部をそのまま焼くと自重で凹んでしまうんです。なので、なるべく前に重心を持っていくように焼くとちょうどいいとか。普段は本焼きといって完全に焼き切った状態でお客さんにお渡しするんですけれども、今回は素焼きの状態で東さんに渡すので、気を遣う部分はありましたね」(木田 立さん)
「最初のお話にもあったようにBE@RBRICKは寸法が決められているので、焼いて形状が変わってしまうことをどうコントロールするかも悩むところ。胴体も背中の平らなところを下に寝かせて焼けばいいだろうと簡単に思いがちですが、寝かせるとそこに釉薬をかけられない。釉薬がかからない部分はツヤのない白磁になってしまうので、なるべく見えない部分を接地面にする工夫も重ねてもらいました」(中 祥人さん)
「腕の内側がツヤなしで白く残っているのは、本焼成の時に棚板にくっつかないように釉薬をかけてないからです」(木田 立さん)
「それをメディコム・トイ代表取締役社長の赤司さんに相談したところ、『いや、ここは塗っていない方が九谷焼っぽいし、味があるからそのままにしましょう』という話になって。確かに釉薬を塗っていない部分を残すことで磁器の質感を感じてもらえるなと思いました」(中 祥人さん)
形状自体はもちろん、複数の製陶所を経る工程も九谷焼の長い歴史の中でも珍しいケースだ。
「実はこのモデルの企画は2017年末からスタートしているんです。2018年の5月に東さんから最初の試作品を届けていただいて、そこから何度もやり直して。素地の製作で、素焼きから本焼成へと別の窯元に工程を引継ぐことは普段はやっていただけないことだというのは重々承知しているので、こうして取り組んでくださる方々がいて感謝しています。BE@RBRICK自体は本当に木田さんの技術がないと成立していないですし、今回はそれに加えて東さんの染付けの技術なしでは不可能でした」(中 祥人さん)