柳本浩市|第21回 根本崇史氏に「エンターテイメントとデザイン」をきく(後編)
Design
2015年5月15日

柳本浩市|第21回 根本崇史氏に「エンターテイメントとデザイン」をきく(後編)

第21回 根本崇史氏に「エンターテイメントとデザイン」をきく(後編)

前回に引きつづき、根本崇史さんにお話しをおうかがいします。小さいモノからメーカー相手の仕事、そしてミラノサローネ出展にいたるまでの経緯を語っていただきました。

Text by 柳本浩市

メーカーとの仕事で学んだこと

柳本 社会のプロセスを知る上でインハウスデザイナーになってみて、個人の活動への影響はありましたか?

根本 まずはクオリティ管理。「こうすれば、ガタツキがなくなる」といった製品に落とし込むさいのこまかい配慮ですね。また個人の活動をすることで、メーカーという恵まれた環境で仕事をさせていただているのを実感しますね。また相互に作用しているのは「視点」です。メーカーで勤務している自分と「PORE」の自分がいるので。たまに会社でも「フリーの意見っぽい」と言われることもありますし。じつは個人の活動をはじめたとき、フリーのデザイナーによく見られる「作家性」に憧れていました。作ったモノ同士が線で繋がっている感じが格好良く思えて。しかし自分のデザインを俯瞰して見た場合、線で結びつける要素が弱かったんですね。自ら繋げるものではないなと。それは僕自身が嫌いなジャンルがなく、また色んなことをやってみたいという好奇心が強いので。またメーカーと仕事をするさい、会社の色も考慮したうえでモノづくりをするので、自分の作品を作るのは申し訳ないなと。何よりも使ってくれる方によろこんでいただけるのが仕事なので。

柳本 ところでこれまでの「PORE」では、小物系のプロダクトが多かったのですが、昨年のミラノサローネ(以下:サローネ)では家具(DELDEL & AQUAQU 前編に画像あり)を発表されましたよね。そこに意識の変化はあったのですか?

根本 はい。サローネに出展することは、日本人にとっては「海を渡らなきゃいけない」という物理的な問題があるので。それはモノを作るさいに「大きいモノよりも小さいモノを」という意識になりかねない。だけどもサローネは、本来、家具の見本市なんだから、自分も家具で勝負しようと思いました。それより以前にサローネに行ったときに、どれくらいのことをやらないと目にとめてもらえないか、どれくらいの規模がいいのか、と自分の目で確かめていたので、それがリサーチとなって、家具を出すときのターゲットはヨーロッパ市場としました。そのときは、日本市場のことは、まったく考えませんでしたね。それが小さいモノから大きいモノへと意識が変わった経緯ですね。

柳本 「対サローネ」的なモノづくりですね。やはり自分がもっているアイデンティティが優先して、それを海外へもっていきましょうという感じが多いですからね。「ヨーロッパ人はこういう傾向があるから、自分のテイストとはちがうモノを提供する」というのは、日本のデザイナーには少ないかもですね。シンガポール時代の寮生活で、「これはあのひとには価値があるかも」とモノの売買をしていたルーツに繋がりますね。

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好き=売れる、ではないことに気付いた

根本 小さいモノを作るのも、決して小さいモノを作りたかったからではないんですね。個人の活動をはじめるにあたって、多くの方にさわっていただきたい=マスプロダクトというのがありまして。あわせてコスト面を考慮すると、自然と小さいモノへとシフトするんですね。「100% DESIGN TOKYO」に出展したさい、「Oboro」という香炉とキャンドルスタンドを出展しまして、ブースの立地が良く、たくさんの方にご来場いただきました。そのときに「個人的には好きだけど、うちの店には合わない」「好きだけど、うちでは作れない」という声をたくさん聞きまして。「なんで製品にならないんだろう……」と考えたときに、「好き、作る、売る」の目線がちがうことがハッキリしました。ならば「このメーカーから出したい」というのを明確にしたほうがいいかと思いまして。その翌年の出展からは、メーカーに狙いを定めたモノを展示しました。案の定、それが当たって、来場者の評判も上々でした。僕は普段、営業ができないので、展示会は唯一の営業ツールななんです。限られたなかでの発表は、ときにとても有効ですね。

柳本 そうしてサローネへといたったわけですね。

根本 サローネに出展するにあたり、自分が知らないライフスタイルというものをよく考えました。あわせてそうしたライフスタイルにも臨むことがデザイナーにとって、大切なのでないのかと思った時期でして。ドバイや中東のほうをターゲットにして、結果たくさんの方に来ていただけましたが、リーマンショックと重なり、みなさん財布のヒモが固かったですね。

柳本 今後、やってみたいことはありますか?

根本 興味があるのは、個人的に「エクスペリメンタルデザイン」と呼んでいるのですが、会場に来ないと体験できないようなエキシビションをやってみたいですね。 マイケル・ジャクソンのライブのように(笑)。

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根本崇史|NEMOTO Takafumi
POREは高校時代を過ごしたSinga“pore”からのニックネーム。2001年 日本大学芸術学部在学中に“PORE OVER IT! ( よく考える)”をキーワードに活動をはじめる。2004年 大学を卒業し電機メーカーのデザイン部に所属する。
http://www.poreoverit.com

           
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