柳本浩市|第15回 海山俊亮氏(MicroWorks)に「コミュニケーションツール」を聞く(前編)
第15回 海山俊亮氏(MicroWorks)に「コミュニケーションツール」を聞く(前編)
80年代前後に生まれたデザイナーとの対談のふたりめは海山俊亮さん(MicroWorks)です。海山さんことを知らなくても、iidaから発表された葉っぱの充電器といえばピンとくる人も多いはず。ユーモアがいつもどこかに潜んでいるプロダクトを生み出す秘密はどこにあるのでしょうか? そんなところを探れるといいですね。
Text by 柳本浩市
メーカーとディーラーとしての機能を両方もちあわせている珍しいデザイナー
柳本 海山さんとの出会いは、昨年7月「iida」another worksの発表のときでした。それ以来、いろんなところで遭遇していますね。海山さんはモノをつくって自ら販売するという、いわばメーカーとディーラーとしての機能を両方もちあわせている珍しいデザイナーです。同じ形態でやっているデザイナーをあまり聞かないのですが……そもそもどういう経緯でこのスタイルをはじめたのですか?
海山 すごく単純な動機なんです。自分がデザインをして工場に発注して、在庫をもち、ショップに営業する。自分の思いを最短に実現するには、これが一番じゃないかと思ったんです。そんなに深い意図はなく、もともとはメーカーと一緒に、と考えていましたが、僕自身も学校を卒業して間もないころだったので繋がりがなかったというのもありました。
柳本 自分で在庫を抱えてというのはリスクではないですか?
海山 生産してくださるメーカーさんのご協力もあって、リスクは背負わずにできましたね。一番最初につくったのが「Jump Out Mirror」(2004)。卸先はアパレルのセレクトショップでした。まずオーダーを取って、それによって発注を確定する形だったのと、また工場と卸先との支払いのバランスを考慮することで、双方にご迷惑かけないことはもちろん、僕自身にも大きな負担がかかりませんでした。
柳本 ある程度、納品数を確定しておいてから発注するという、どこかアパレルに近い発注受注の形ですね。展示会をやって注文数に応じるという。
海山 そうですね。個人的な規模でやっているので、基本的にはスペースの問題も含めて、在庫を抱えるのは難しいですから。
お客さんとの距離が近い分、評価のされ方はリアル
柳本 僕もプロデューサーとして人のメーカーでモノをつくったり、自分でもメーカーとして雑貨卸売りや出版をやったりしていますが、自分でつくって売るという行為は、消費者の気持ちにどのようにささるかということをリアルに考えないといけない。自分たちがお金を払って在庫をもっている限り。だからこそ「これが売れないと困る」って自分がやっていることに本気になる。そのへんはいかがですか?
海山 僕の場合はあとからわかったことですが、逆にそこを意識せず、やりたいことをやったという感じです。当時、「Jump Out Mirror」は1万4000円くらいで販売したのですが、一年で100台以上を販売しました。価格を考えると、そういう意味ではまわりの方々に共感していただいた結果であると思いましたし、つづけていこうという自信になりました。それからは、僕の場合は手売りしていたこともあるので、売れる売れないの反応がダイレクトでしたね。ディテール、色、売れる売れないの理由がすぐにわかる。そういうなかでマイナーチェンジもしてきました。お客さんとの距離が近い分、評価のされ方はリアルです。まず「買う」「買わない」というのが判断基準でもありますしね。プロトタイプを展示して、ご来場者に評価してもらうことの大切さもありますが、「買う」という評価とはまた違うかと思います。厳しいですが、その分やりがいもある。
柳本 自分もそれは感じます。「いい、いい」と言ってくれる人はたくさんいるけど、「買う」という行為は相当ハードルが高くて、それを乗り越えた評価は相当いい評価をしているし。いまはどのような店舗を中心に卸していますか?
海山 インテリアショップとミュージアムショップが中心ですね。以前は営業もかけていました。いまは時間的にも自分から積極的に、というのがなかなか難しくなってしまっていますが、なにかしらコンタクトを取ってきてくださった方には、基本的にはお断りせずに対応させていただいています。
海山さんは、感覚的にユーザー側に立っている
柳本 海山さんは生粋のプロダクトデザイナーじゃないですよね。よくあるディテールを詰めていくタイプではなく、むしろユーザーや購買者と繋がっているデザイナー。だからこそ「コミュニケーションツール」をつくるという意識が強いと思いますがいかがでしょう?
海山 コンセプトを軸において形状を考えるときに、もちろんディテールにもこだわります。あとは大前提として、まずは自分が欲しいものであるかどうか。モノをつくることにおいて、モノの存在の意味を考えますね。自分が欲しくなかったら、生み出される時点では誰も欲しい人がいない、という状況になってしまいますから。
柳本 なるほど。海山さんからはデザイナーとして、自分を切り詰めている印象はうけないんですよね。プロダクトデザイナーはそういう傾向になりがちですが。
海山 デザインというと機能が優先されますが、持ったときの楽しさ、使う楽しさ、そういうところの起点にたっているかは確認しますね。あと思うのが、デザインする選択肢、買う人の選択肢は多い方がいいかと思います。だからといってモノが溢れるのはよくないですけどね。
柳本 主観的に考えながらもお客さんの顔色やコメントが無意識に受け入れているんでしょうね。自分がつくりたいモノはほかのデザイナーももっている。ただそれが世の中に受け入れられるか、受け入れないかはわからない。海山さんの場合は感覚的にユーザー側に立っているから、デザインマニアよりも一般ユーザー寄りに近い。
海山 もともとモノが好きなんです。デザインをやっている人はみな同じでしょうけど。
海山さんの世代のデザイナーは横の繋がりが強くて仲がいい
柳本 意外とそういう気持ちを忘れてしまうデザイナーも多いでしょうね。最初は好きでやっていたのに、つくりはじめていくうちに身構えてしまって、感動がなくなってしまう。自分がデザイナーじゃなかったときは、とても感動していたのに。ところで海山さんは「iida」から発表した「AC Adapter MIDORI」で注目されるようになって。マスプロダクトを手がけた点においても、まわりのデザイナーたちは海山さんをより意識しはじめた。そういう意味では周囲に刺激を与えたと思います。海山さんの世代のデザイナーは横の繋がりが強くて仲がいい。その様子はほかの世代ではなかなか見られないかと思いますが、意識したことはありますか?
海山 もともとは人が集まるところに行けば、なにかしらの展開がはじまると思っていて。そんな淡い期待をもちながら(笑)、積極的に人と繋がりをもとうとその輪が大きくなったのがいまですね。不快でもなく、居心地も悪くなく、単純に仲がいいという。専門学校で教えていただいた家具の先生もデザイナー同士で仲良くされていてコミュニティがあったので、僕はそれが当たり前だと思っていました。そのへんはあまり考えたことはないんですよね。
柳本 海山さんのまわりのコミュニティはスターもいれば、無名もいて、大きく繋がりをもとうとする世代として、僕はとても面白いと思う。でありながらひとりひとりに聞いてみると、ライバル心ももっていて。普通仲が良いと、なあなあで学芸会みたいになりやすいんですが、互いを意識し上手くやりながら、さらに「自分はどんどん上がっていきたい」という精神バランスを保とうとしているように感じます。僕の世代では同じ意識のある人だけでコミュニティをつくっていましたから。
海山俊亮 / マイクロワークス
1981年 東京都生まれ。在学時からオリジナルデザインの企画・製作を行い、卒業を機に2003年「MicroWorks」設立。
プロダクトを中心に素材やジャンルを超え幅広くデザインを手がける。様々なプロジェクトで作品を発表する一方、「MicroWorks Label」を立ち上げ、自身の作品の開発・販売をしている。
http://www.microworks.jp
海山俊亮氏参加・イベント情報
「DESIGNTIDE TOKYO 2009」/「TIDE MARKET」に参加
メイン会場│東京ミッドタウン・ホール
日程│2009年10月30日(金)~11月3日(火・祝)
http://www.designtide.jp/09/jp/
「BIRTHDAY」/CLASKA8階「Mix room」にてデザイナーとしてかかわった新ブランドの発表
日時|2009年10月30日(金)~11月3日(火・祝)
11:00~19:00(31日 ~23:00)
http://www.massitem.com