藤村明光人形展/ 燕子花別館
Design
2015年5月15日

藤村明光人形展/ 燕子花別館

トウキョウのインテリア&デザインの最新情報やイベントリポートなどを厳選して紹介する"INTERIOR&DESIGN NEWS"。

今回は、中目黒の燕子花別館で開催中の藤村明光人形展をフィ-チャー。ほかの国では見られない独自の進化をとげた日本固有の人形づくりの伝統とは?

文=加藤孝司

市松人形という伝統

市松人形は大和人形、泣き人形ともよばれる子供の姿をした抱き人形のことである。
江戸時代の前半までは公家の子女にのみ与えられる高嶺の花であったが、江戸時代中期ころにはおが屑などの安価な材料を使うことによって量産が可能になり、次第に庶民のものとなった。

市松人形は抱き人形という、子供の手遊びの道具であるとともに情操教育に用いられてきたという。
一般的に裸のままで売れられた市松人形は、その衣装を使い手自身が手作りすることによって和裁(和服を制作すること)の教材にもなった。
市松人形はおさなごの手遊びの対象でもあったが、それはまたわが子の無病息災、無事成長を願う親の優しい心のあらわれとして、子供の身代わりや厄払いの役目も担った。

現在燕子花別館に展示されている藤村明光氏がつくる市松人形は、江戸の時代から庶民のために作られてきた手遊びの人形を、その時代と変らない技法で現在も手作りしている手仕事のこころの伝わるものだ。
いまではプラスチックや石膏などより扱いやすい材料で作ることが主流になりつつある日本人形を、伝統のままに桐木と胡粉(ごふん)ニカワでつくり続けている。

藤村氏がつくる人形にあってもっとも印象的なのはなんといっても目である。
肌生地に取り付けられた義眼はその制作過程で一度胡粉によって閉ざされ、人形師の小刀つかいの微細な手作業でいま一度みひらかれる。それは人形にとってのまさしく授けられる命のようなものである。
それだから人形の表情はつくり手のその時の心持ちを反映し、ただひとつしかない人形の表情となってあらわれてくる。そこに人形師の、そして人形のすべてがあらわれるといっても過言ではない。だから古来人形には魂のようなものが宿ると信じられ、それゆえに畏怖する対象にもなったりした。

楽しみながら作っていることが伝わってくる藤村氏の表情豊かな市松人形からは、日本の手仕事がもつ伝統の豊かさと確かさが伝わってくる。
今だからこそこの国の風土のなかで生まれ育まれてきた文化に、日本人である私たちは気づかなければならない。

「藤村明光人形展」

会期 | ~2007年10月28日(日)
開館時間 | 13:00~19:00
場所 | 燕子花別館
休館日 | 月・火曜日
住所 | 〒153-0042 東京都目黒区青葉台2-16-7
TEL | 03-3770-3401
FAX | 03-3770-3405
URL | http://www.kakitsubataweb.com

           
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