第4回 ファイヤーキングブームとノベルティマグの魅力
Design
2015年5月15日

第4回 ファイヤーキングブームとノベルティマグの魅力

text by KANAZAWA Ariadnaphoto by Jamandfixedit by TAKEISHI Yasuhiro

日本におけるブームとノベルティマグ

本国アメリカにおけるミルクグラスブームの側面と幾分か違い、日本では当初ファイヤーキングのみが大きく取り上げられてブームとなりました。
圧倒的生産数、そして1960~'70年代に数多くノベルティとして無料配付されていたことも手伝い、ファイヤーキングは無尽蔵にストックが残っていると思われていたのです。こうした背景が'90年代後半から静かに始まっていったファイヤーキングブームにあったことも、さらにコンプリートを目指すコレクターの人口を増やす要因となったのでしょう。

しかし、当時アメリカで出版されていたプライスガイドには、すでに1000ドルを軽くオーバーするアイテムが掲載されていたことからも、コンプリートするには“時すでにおそし”の感も否めませんでした。とくにシリーズの中で生産数が伸張しなかった、つまり当時不人気であったアイテム、たとえば 「ジェーンレイ」 シリーズのスープボウル、「レストランウェア」 シリーズのスープカップやランチョンプレートと呼ばれる微妙なサイズのプレートなど、マスプロダクトだったファイヤーキングのなかにも大量生産まで至らなかったアイテムは存在したのです。

そんな日本でのブームにおけるコレクターの入口となったのは、'60~'70年代にかけて制作された企業やストア、さらには大統領選挙まで、大変豊富なバリエーションが存在する無料配付用のノベルティマグでした。
個人経営から政府関連まで網羅するそれらの多くは、ミルクホワイトベースのスタッキングマグやDハンドルマグが中心に使用されました。
あまり知られていないですが、興味深いのはほとんどのノベルティマグは米国内の広告代理店がグラフィックからプリントまでを制作し、アンカーホッキング社はたんにファイヤーキングのマグの供給のみで最終的なプリント作業までは携わっていなかったこと。
ファイヤーキングレーベルが終了した1976年以降も、同社はアンカー(錨)の刻印が施されたマグを'80年代までノベルティ業者に供給していたようです。

このようにファイヤーキングのマグがノベルティのボディとして重用された理由としては、安定した供給量と非常に安価であったことに尽きるでしょう。コストパフォーマンスに優れていた点は、広告主としても絶好のノベルティだったのです。
ちなみに同時代には、ジャネット社から供給されたグラスベイクや、ファイヤーキングに類似したレーベルも数多くノベルティに使用されていました。

いまだにフラリと立ち寄ったアメリカの田舎街のアンティークモールで、'70年代頃の保険代理店やけっしてクールとはいえないグラフィックが際立ったアドバタイズ用のマグを見つけると、ついホッとしたりします。
さて、これらノベルティマグの種類はともすると何万種類もあるのではないかと推測しますが、やはり時代背景がしっかりしていてキャラクターも際立っていることを前提とすると、私は迷わずロナルド・レーガン大統領の選挙キャンペーン時に運動員へ配付されたであろうマグが逸品ではないかと思います。このマグはサイズも大振りの10オンスでした(上写真中央)。

私の写真集、そしてブームの終焉

こうして始まった日本のファイヤーキングブームの絶頂期である2003年、私の写真集 『BREATH TAKING』 が出版されます。
この年には脚本家の山下 哲さんが 『ファイヤーキングマグ図鑑』 という著書も出版されました。同著には私も少しだけご協力させていただきましたが、マグを集められるのに随分ご苦労されたようです。

私のヴィンテージアメリカングラスウェアフォトブック 『BREATH TAKING』 は、個人所蔵のミルクグラスをまとめた写真集としては世界初となりました。スタッフに写真家の石田 東氏、アートディレクターの平林奈緒美さんを迎え、構想から2年以上を費やして出版を迎えることができたのです。

ジェイドカラーがジェイドとして際立つ美しい写真集が目標だったので、石田さんの写真と当時の品名、品番のみを明記したシンプルな構成。レッドポルカドッツの箔押しを生地に施した表紙の装丁に抱かれて、現在も静かに販売しています。
初版5000部の販売はまもなく終了してしまいそうですが、ブームが去ったあとも愛らしいグラスウェアを心から楽しんでいる人々が残り、新たにコレクションを始めるファンが増えているのではと、写真集の販売動向から推測しています。

次回はファイヤーキングの創成期にスポットを当て、もう少し各シリーズにフォーカスしていきたいと思います。まずはアメリカのディナーテーブルを席巻したシリーズ 「ジェーンレイ」 からお話していきましょう。

※ウェブショッピングマガジン『rumors』にて、いまでは幻となったスタイリッシュで美しいヴィンテージアメリカングラスウェアショップ『kitsch-n』を再現しました。
当連載のなかで触れたアイテムや、入手困難なアイテムを中心に展開していきますので、ぜひご覧ください。

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