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2024年11月29日
クルマは「1日95%が止まっている」時間に着目したシャープの逆転発想
SHARP LDK+|シャープ エルディーケープラス
一般的な乗用車は1日の大半を駐車場で過ごしている。その事実に着目したシャープが、EV(電気自動車)コンセプトカー「LDK+」を提案する。これまで家電メーカーとして培った技術を駆使し、止まっている時間を豊かな生活空間へと変える。モビリティの新たな価値を創造する画期的なプロジェクトとは?
Text by YAMAGU Koichi
リビングルームの拡張空間としてのクルマ
私たちは長らく、クルマを移動手段として捉えてきた。加速力、ハンドリング性能、快適性──。自動車メーカーが競い合ってきた価値基準は、常に「走る」という機能を中心に据えていた。
平均的な乗用車が実際に走行している時間は、1日のうちわずか5%程度だというデータがある。残りの95%の時間、クルマは駐車場や車庫で「止まっている」時間なのだ。
この「止まっている時間」に着目し、クルマの価値の転換を図る興味深い提案が登場した。家電メーカーのシャープが発表したBEV(電気自動車)のコンセプトモデル「LDK+」(エルディーケープラス)は、クルマの可能性を広げる意欲的な提案として注目を集めている。
「LDK+」の最大の特徴は、その名が示す通り、クルマを「リビングルームの拡張空間」として捉え直したことにある。後部座席は後ろ向きに回転し、両サイドの窓には液晶シャッターを搭載。ドアを閉めた瞬間、車内は落ち着いたプライベート空間へと生まれ変わる。
65V型の大型ディスプレイと格納式テーブルを備えた車内は、シアタールームやリモートワークスペース、子どもの遊び場など、多彩な用途に対応する。まさに「もう一室」を手に入れるような体験を提供するのだ。
注目すべきは、単なる空間の転用にとどまらない点だ。シャープは独自のAI技術「CE-LLM(Communication Edge-LLM)」を活用し、住空間、人、エネルギーの3つの要素を有機的につなぐことで、より豊かな暮らしの実現を目指している。
家電を通じて学習したユーザーの好みに応じて、空調や照明を自動調節する機能や、家族とのシームレスなコミュニケーションを可能にする大画面インターフェース。さらに、車載のバッテリーと太陽光発電システムを家全体のエネルギーマネジメントと連携させることで、環境に配慮しながら快適な暮らしを実現する。
「LDK+」の開発には、シャープの親会社である台湾のフォックスコンが持つEVプラットフォームの技術が活用されている。しかし、シャープが目指すのは、既存の自動車メーカーとの性能競争ではない。
同社の沖津雅浩社長は「シャープは人々の生活空間を主な事業領域としており、モビリティもひとつの生活空間としてとらえ、シャープらしい新たな価値創出に挑戦していく」と語る。この言葉には、クルマという存在を「移動手段」から「生活空間」へと転換させようとする、明確な意思が込められている。
主なターゲットは戸建て住宅のオーナー。開発チームは社内モニタリングを通じて「もう一室あったら」という潜在的なニーズを丹念に拾い上げ、その解決策として「LDK+」を構想したという。
95%の「止まっている時間」に着目し、そこに新しい価値を見出そうとするシャープの試みは、モビリティの未来に対する私たちの想像力を大きく広げる。それは同時に、テクノロジーの進化が既存の常識をいかに塗り替えていくのかを示す、象徴的な例となるだろう。
移動手段としてのクルマから、暮らしを豊かにする空間としてのクルマへ。シャープが投げかけたこの大胆な価値転換は、これからのモビリティのあり方を考える上で、重要な示唆を与えてくれる。
EV(電気自動車)コンセプトモデル「LDK+」紹介動画:シャープ
via www.youtube.com
問い合わせ先
シャープ
sharp_ev@mail.sharp