クリーンディーゼルの真実(前編) ディーゼルは悪者だったのか?
CAR / NEWS
2015年3月19日

クリーンディーゼルの真実(前編) ディーゼルは悪者だったのか?

クリーンディーゼルの真実(前編)

ディーゼルは悪者だったのか?

かつて空気を汚す悪者というレッテルを貼られ、日本市場から締め出されたディーゼル車だったが、ここにきて内外の自動車メーカーから、最新型ディーゼルモデルがぞくぞくと発表され、わが国でもリリースされる。
日本にとって、世界にとって、ディーゼルとはどんなパワーソースとなるのだろうか。また以前のディーゼルと最新クリーンディーゼルのちがいとはどんなところにあるのだろうか。最新ディーゼル事情を前後編にわたっておとどけします。

文=森口将之

石原都知事のパフォーマンス

2008年9月18日に発売された「日産エクストレイル」
のディーゼル仕様。
日本の厳しい排出ガス規制「ポスト新長期規制」
(2009年10月から施行)に適合した最初のモデル

石原都知事のパフォーマンス

ディーゼルと聞いて連想する有名人は誰か。多くの日本人が石原慎太郎東京都知事を思い浮かべるのではないだろうか。黒いススの入ったペットボトルを振りかざした9年前のパフォーマンスは、いまなお強烈に記憶に残っている。
一部の国民はあの瞬間から、都知事はディーゼルがきらいだと認識するようになった。ヨーロッパでは環境にやさしいエンジンとして認められているのに、正反対の主張をするなんて無知無教養だというひともいた。

どちらも大いなる誤解である。東京都の主張は「ディーゼルはダメ」ではなく、「汚いディーゼルはダメ」だった。現にホームページには当初からそう書いてあった。

そういった内容を確認せず、「ディーゼル車NO作戦」というタイトルだけ見てディーゼルを悪者と決めつけた国民が多かったというわけだ。

その後、商用車の世界では厳しい排出ガス規制をパスしたクリーンなディーゼル車が登場し、有害ガスが出にくい低硫黄軽油が販売されるようになったが、これらは当初から都が自動車会社や石油業界に要望していたことだった。近年わが国でディーゼルにたいする風向きが急に変わりつつあるのは、石原パフォーマンスのおかげともいえるのである。

日欧の認識のちがい

ではどうしてヨーロッパと日本では、ディーゼルに対する認識にちがいが生じたのか。

ディーゼルはガソリンエンジンにくらべると、CO(一酸化炭素)やHC(炭化水素)の排出量は少ないが、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)は多い。東京のように狭い土地に多くのクルマが走る場所では、空気中に占めるこれら有害物質の濃度が高まり、人体に深刻な影響をおよぼすとされる。ところがヨーロッパでは、東京ほど自動車が過度に密集する場所はほとんどない。よってNOxやPMの濃度が危険水準まで高まらない。

一方、地球温暖化については、海面より低い土地が多いオランダや氷河が残るスイスなどを抱えるだけあり、ヨーロッパにとっては日本よりも切実な問題。ゆえにCO2排出量の少ないディーゼルが環境にやさしいエンジンと考えられている。

つまり、どちらが正しいという問題ではなく、地域差である。日本料理とフランス料理のどちらがすばらしいかを議論するようなものだ。それが近年、わが国でもディーゼルを認める考えにシフトしてきたのは、NOxやPMの対策にメドがついたからであって、日本の考えがまちがっていたわけではない。

ヨーロッパ人がディーゼルを好む理由

ヨーロッパでディーゼルが受け入れられているのは、環境だけが理由ではない。ドイツとフランスという、隣りあう二国の状況をくらべれば一目瞭然。日本人はドイツのほうが環境に熱心でディーゼル車も多いと思っているかもしれないが、ディーゼル比率はフランスのほうが高いのである。

その理由を考えてみると、まずCO2排出量が少ないということは、つまり燃費がいいということになる。しかも低回転で大トルクを発生するディーゼルの特性は、乗りやすさにもつながる。ヨーロッパで広く普及しているマニュアルトランスミッション車に乗るとなれば、ギアチェンジの回数は半分以下になるのだ。

つまり、地球にもお財布にもやさしくて、運転がラク。ヨーロッパ人がディーゼルを好むのは、それがクルマの理想形に近いと考えているからなのである。

ヨーロッパ人がディーゼルを好む理由

欧州自動車メーカーはもちろん、日本のメーカーも
ヨーロッパではディーゼルモデルを設定。
いまや同地域では新車登録の2台に1台がディーゼル。

           
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