フォルクスワーゲンがディーゼルに注力し続ける理由|Volkswagen
CAR / NEWS
2018年3月8日

フォルクスワーゲンがディーゼルに注力し続ける理由|Volkswagen

Volkswagen|フォルクスワーゲン

パサートTDI導入に際して行われた基調講演

フォルクスワーゲンがディーゼルに注力し続ける理由

フォルクスワーゲン グループ ジャパンは、「パサート」のディーゼルモデル導入にあたり、国際モータージャーナリストの清水和夫氏と、このために来日したドイツ本国のフォクルクスワーゲンAG先進ディーゼルエンジン開発部長、Dr.エッケハルト・ポット氏による基調講演を開催した。その中で、同社がディーゼルエンジンに強くこだわる理由、技術研究、そして将来の展望などが語られた。

Text & Photographs by UCHIDA Shunichi

基調講演を開催し、よりディーゼルの認知度を深める

冒頭において、フォルクスワーゲン グループ ジャパンのシェア社長により「現在自動車業界を大きな変化を迎えています。特にパワートレインの分野においては何年にもわたって内燃機関が支配してきましたが、いまや電動化、プラグインハイブリッドが台頭してきて、社会全体がエネルギー供給の課題に注目しています。その中で、ディーゼルエンジンの役割を語っていきたいのです」と、今回の基調講演の位置づけを説明した。

s_001_vw_passat_TDI_lec

フォルクスワーゲン グループ ジャパン シェア社長

日本の空は一番青い

清水和夫氏は、サスティナブルなモビリティをテーマに、グローバルでの共通項とともに、日本の中でどのように交通問題、あるいは自動車の次世代の話を考えていくべきなのかについて語った。

地球温暖化に関してはグローバルな問題で、どこの国に住んでいる人でも同じような被害や災害を受けるが、大気汚染に関してはクルマがたくさん走っている都市部の問題、ローカルな問題だとし、「国や都市の政策によってさまざまな大気汚染の問題について解決の方法を模索しています。しかし、大気が汚れたからきれいにしようというのは今までの対策の仕方で、これは対処療法に過ぎません。しかし我々は1970年代の排気ガスの問題時、日本社会はアメリカのマスキー法に端を発した公害問題で嫌というほど経験していますので、これからは対症療法ではなく、予防という方向で考えていかなければいけません」と述べた。

s_003_vw_passat_TDI_lec

国際モータージャーナリスト 清水和夫氏

s_018_vw_passat_TDI_lec

清水氏はさまざまな取材旅行で各国を周ると、東京の空が一番青いことに気付いたという。その理由は、日本が排ガス規制のマスキー法を受けて、53年規制により厳しいNOx規制を施行した結果だと評価。続いて、1980年頃に起きたオイルショックでは省エネというテーマで、低炭素、脱CO2につながったと語った。

つまり、「かなり早い時期からNOxとCO2の両方を低減する技術を開発してきたのが日本の自動車メーカーです」とする。一方、アメリカはCO2よりもNOxを重視。ヨーロッパはNOxよりもCO2を重視してきたという歴史があるが、日本はその両方を削減する政策と技術のチャレンジの結果、「東京の空が一番青いことにつながっているのです」とした。

パワートレインの多様化

さて、清水氏は、「重いクルマを高速で連続走行をするとメリットがあります。つまり、負荷の大きいところで強いのです。例えばアウトバーンを160km/hで走行して16km/ℓぐらいで走れるエンジンはディーゼルエンジンしかないでしょう。一方でガソリンは負荷の大きいところで連続走行すると効率が落ちますので、小さいクルマで市街地のストップアンドゴーという状況では、ガソリン車のハイブリッドが最適です。つまり、それぞれのパワートレインがどういうところに最適に使われるといいのかを考えていかなければいけないのです。ここにパワートレインの多様化があります」と述べた。

s_016_vw_passat_TDI_lec

Volkswagen Passat TDI

s_017_vw_passat_TDI_lec

Volkswagen Passat Variant TDI

ゴットリーブ・ダイムラーやカール・ベンツがガソリンエンジンを考案したのは1886年。そのわずか6年後にルドルフ・ディーゼルが、ディーゼルエンジンを考案した。そのきっかけは、ガソリンが手に入らないドイツの片田舎でも動くエンジンが欲しいという想いから研究に取りかかったことだった。ピーナッツ油であればその辺りの畑で穫れるので、それを使って動く内燃機関を開発していたところ、偶然、自着火するエンジンを発明することとなった。

それがディーゼルとしてパテントを取ったのが始まりだ。清水氏は、「ディーゼルエンジンは生まれた時からバイオマスエネルギーを使っていました。つまり、生まれた時からエココンシャスのエンジンだったのです。今の時代でもそのようなDNAを持ちながら新しい時代にふさわしいディーゼルに進化していかに興味があります」と期待を寄せる。

そして、「最近GMはディーゼル燃焼をタイタンと呼ばれるスーパーコンピューターを使ってモデリングして開発をしています。ディーゼルは自着火するので実はよく分からない部分があるのです。そこで燃え方の研究をしています。まだまだこういうことをやっていけばディーゼルに可能性はあるでしょう」と結んだ。

Volkswagen|フォルクスワーゲン

パサートTDI導入に際して行われた基調講演

フォルクスワーゲンがディーゼルに注力し続ける理由 (2)

ディーゼルエンジンの2つのメリット

さて、もう一人、Dr.エッケハルト・ポット氏は、ディーゼルエンジンにフォーカスし、一般的な長所や現行世代のディーゼルエンジンのハイライト、そして長期的な展望について講演した。

ディーゼルエンジン技術には2つの長所があるとポット氏。「出力が同じでトルク特性を比較すると、ディーゼルエンジンはより大きなトルクを1,000rpmから3,500rpmくらいの低回転から発生しています。そうするとファン トゥ ドライブと同時に、特に混雑した状況、都市部における運転で、そのトルクを有効に感じてもらえるでしょう」と、日本の道路環境を踏まえ説明。

また燃費についても、ドイツのネットサイトを例に挙げ「ディーゼルとガソリンを同じ出力で比較するとディーゼルエンジンの燃費はおよそ20パーセント良くなっています。特に長距離においては有効です」とし、また、このサイトではディーゼル車の割合が全体の80パーセントを占め、ドイツでの販売実績も同様のイメージであると、ディーゼルが主流派であることをコメントした。

s_005_vw_passat_TDI_lec

s_006_vw_passat_TDI_lec

低燃費・運転する楽しさ・低排出ガスを成立

現行世代のディーゼルエンジンの特徴についてポット氏は、「低燃費、運転する楽しさ、低排出ガスレベルの3つを成立させるべく開発しています」という。

日本仕様のモデルは2本のバランサーシャフト付きで、バルブ、駆動系モジュールを組み込んだシリンダーヘッドからなっており、新しい吸気システムとインタークーラーが組み込まれ、さらに高効率な排ガス後処理システムを備えている。

エンジンからの排出物を減らし燃料消費を削減するために、吸気する空気はEGRで排ガスと混合される。

「この技術は長年にわたって採用されてきたもので、最大の性能を達成するために2つのEGRシステムを採用しています」とポット氏。

まずは高圧EGRだ。排ガスはターボチャージャーの手前から、最短距離でインタークーラーとシリンダーヘッドのあいだの吸気マニホールドに送り込まれる。もう一つは低圧EGRだ。DPFから出てきた浄化済みの排ガスをターボチャージャーの手前で送り込む経路である。

s_007_vw_passat_TDI_lec

冷間始動の直後は、高圧EGRが作動し暖かな排ガスで吸気を加熱するが、これには大きなメリットがある。温度が上がると HC(ハイドロカーボン)と、COが大幅に減少するのだ。また排ガスが熱くなるので、触媒コンバーターの性能も上げられ、結露も防止できるのだ。

次にエンジンが温まってくると高圧と低圧EGRの両方を用いる。「ステップバイステップで低圧EGRの割合を高めていきます。そうすることで CO2の排出を最適化し、排ガス処理の温度管理をサポートすることができるのです」とポット氏。

s_008_vw_passat_TDI_lec

s_009_vw_passat_TDI_lec

またエンジンが通常の作動温度で回転している時には、高圧EGRからのサポートは不要となり低圧EGRのみとなる。これによりエミッションとCO2を削減するとともに、ターボチャージャーのレスポンスを改善することもできる。

ポット氏は、「エミッションを抑え燃費を向上させるためには燃焼行程中のシリンダー圧力を制御する方法が有効です」という。そして、「これは我々のすべてのディーゼルエンジンで実現されています」とし、第1世代では4つの圧力センサーを使って燃焼制御を行い、第2世代では、エンジンスピードセンサーを使った。これによりスピードを制御するとともに、燃焼騒音を低減させることも可能となった。

「しかし厳しい排ガス基準を満たすためには、さらに効率的な排ガスの後処理が必要でした」とポット氏。そこで、「排ガスの後処理コンセプトを従来のものから一新しました」という。具体的には、全てのコンポーネントを可能な限りエンジンの近くに配置。温度損失を最小限に抑え、排ガスの後処理装置の機能を最大限に発揮させるための方策である。

Volkswagen|フォルクスワーゲン

パサートTDI導入に際して行われた基調講演

フォルクスワーゲンがディーゼルに注力し続ける理由 (3)

実証実験で優秀な成績

さて、これら多くの技術はフォルクスワーゲンが世界中で使っているものだ。実際のドライビング時にはどのような効果があるのか。ポット氏は、「テストベンチ、実路走行の両方でこの2年間、多くの独立機関が競合車とフォルクスワーゲンを比較しています。2017年の夏にドイツのADACが約200の異なるクルマによる自走状態での排ガステストの結果を公表しました。その結果フォルクスワーゲングループは上位3台の一角を占めています。つまり、机上だけではなく、実路走行でもフォルクスワーゲン車は強いということが証明されているのです」とアピールする。

そして、「この数年間、フォルクスワーゲンはあってはならないことから多くを学びました。我々はエンジンECUを改造することなく、最も厳しい排ガス基準を満たすことができることを証明しています。フォルクスワーゲンは日本をはじめとする国々の厳しい基準を満たし、お客様の期待に応えていきます」と述べた。

s_011_vw_passat_TDI_lec

s_012_vw_passat_TDI_lec

より厳しくなるエミッションに向けて

今後、フォルクスワーゲンのディーゼルエンジンに対する取り組みについてポット氏は、「さらに排ガスの基準値が引き下げられるでしょう。そのために、既にディーゼルエンジンを将来的に適合させているための方法と、その可能性、そして課題についての評価に取り組んでいます」という。その重要なポイントは、はるかに厳しいNOxの目標基準を満たせるかどうかだ。

フォルクスワーゲンとしては、SCRシステムの高いポテンシャルをさらに改善すべく取り組んでいる。「排ガスの温度が220度を下回る場合にはまだそのアドミックスのコンバージョンでは検討が必要です。特に冷間始動時と市街地走行可では排気温度が低いために SCRの機能を最大限発揮することができないからです」という。そこで、「SCRシステムと上流のNOx吸蔵触媒を組み合わせることで、NOxの処理範囲を150度未満の作動域にまで広げられ、冷間始動後及び市街地走行時の処理能力を大きく改善することができました。そのほかの方策を含め、引き続き開発をしていきます」とした。

s_013_vw_passat_TDI_lec

s_014_vw_passat_TDI_lec

もう一つの大きなチャレンジは、「エンジンの長時間高負荷運転です。エンジンから高濃度のNOxが排出され、同時に高い処理温度になります。従って最適な温度から外れて作動するリスクがあるのです」と話す。これは速度無制限のドイツのアウトバーンを走行する際のリスクを踏まえてのことだ。そのための対策としてSCR、ディーゼルパティキュレートフィルターに加え、AdBlue付きのSCR触媒を床下に装着するとともに、もうひとつAdBlue噴射モジュールを床下のSCRの触媒の上流に設置することでNOxを低減させ、性能が格段に向上します。このツイン噴射システムは来たるべき規制に向けた有効な技術になるでしょう」と将来に向けての期待を述べる。

なぜ今後より厳しいエミッションコントロールが導入されるのか。ポット氏は、「世界中の大都市での大気の状況はこの数年間あまり改善されていません」と現状を述べ、その理由を「クルマの増加によって各車両が排出する排ガスの削減効果が相殺されているためです」と分析。「従って我々としては長期的には大幅な排出量削減規制が実施されると予測していいます。フォルクスワーゲンは今後10年間以内に実施されるであろうこのシナリオに対する準備を進めているのです」と、今後も開発の手を緩めないことを強調した。

2025年、内燃機関は75パーセントのシェア

フォルクスワーゲンは2025年に向けて電気自動車の比率を25パーセントまで高めることを目標にしている。そしてハイブリッド車両はおよそ30パーセントと想定。現在は電気自動車及びハイブリッドのシェアは3パーセントなので非常に高い目標だ。

その一方、「多くの人たちからフォルクスワーゲンは過去数十年と同じように内燃機関の開発を続けるのかと聞かれるのですが、“はい”と答えています。

s_015_vw_passat_TDI_lec

電気自動車が25パーセントということは内燃機関のパワートレインが75パーセントということです。当然その中では複数の技術を組み合わせたハイブリッドが占める割合も大きいでしょう。しかしこの75パーセントという数字は、内燃機関のさらなる開発が不可欠であるということを明確に示しているのです。

そして、重量の重いSUVや商用車、長距離を走るクルマにとってはディーゼルエンジンが最も費用対効果の高いドライブトレインだといえます。このようにフォルクスワーゲンは長期的視野に立って今後もお客様からの要望に応え、同時に法的要件を満たしていくためにもディーゼルエンジンを長期的視野に立って開発を続けていきます。そして、いかなる厳しい排ガス目標に対しても我々は開発の手を緩めません。そして最後に最も重要なポイントとして、ディーゼルエンジンはフォルクスワーゲンの長期的パワートレイン戦略の中で今後も重要な位置を占め続けていくのです」と、ディーゼルエンジンへの大きな期待を語った。

問い合わせ先

フォルクスワーゲン カスタマーセンター

0120-993-199

           
Photo Gallery