HONDA INSIGHT|ホンダ インサイト(前編) | 生まれながらにしての低コスト体質
CAR / IMPRESSION
2015年4月20日

HONDA INSIGHT|ホンダ インサイト(前編) | 生まれながらにしての低コスト体質

HONDA INSIGHT(前編)

生まれながらにしての低コスト体質

「次世代の動力源が軌道に乗るまでのあいだ、内燃機関を延命させるための措置」ととらえられていた欧米においても、ハイブリッドカーが大きな潮流を巻き起こしつつある昨今。トヨタ・プリウスに挑むべく、ホンダが満を持して投入したハイブリッド専用車、インサイトは、189万円というリーズナブルな価格もあって、好調な売り上げを記録している。はたしてその価格以上の価値をたたえているのか。未来への架け橋となり得るのか。気鋭の自動車ジャーナリスト、渡辺敏史がその真価をたしかめる。

文=渡辺敏史写真=吉澤健太

ここ10年はハイブリッドが環境技術を主導する

EVに燃料電池に水素燃焼にバイオフューエルに……と、自動車の次世代を担う脱・化石燃料技術の本丸は果たしてなんなのか?

その答えを知るひとはいない。来るべきときに備えて、主要な自動車メーカーはほぼすべての考えられる可能性に対してひたすら投資と研究を重ねているのが現状だ。

そんななかでひとつ、方向性がかたまりつつあるのが「ハイブリッド」に関する姿勢だろう。次世代の動力源が軌道に乗るまでのあいだ、従来の内燃機関を延命させるための措置。つまりは一時しのぎと、そういうふうに見ていた欧米の自動車メーカーは一斉にハイブリッドの開発に動いている。メルセデス然り、VWグループ然り、そしてビッグ3然り。少なくともここ10年はハイブリッドが環境技術を主導する。それが自動車メーカーの今の「読み」だ。

インサイトにとっての第一義とは

トヨタがここで大きなアドバンテージを築いているのはご存知の通りである。この春デビューする新型プリウスでは大小合わせて1000の特許を出願する。1月のデトロイトショーでのアナウンスも衝撃的だった。もちろん、これまでつくりつづけ、売りつづけてきたぶんだけ、ノウハウは膨大に積み重ねている。もはや隙なし……。と思われていた状況に一点の突破口を見いだしたのがホンダだ。

189万円。インサイトの値札をフォローできるトヨタのハイブリッド車は今のところない。そう、インサイトの第一義、それは間違いなくコストパフォーマンスである。「普通の人びとに広くに手が届く価格を目指した」というホンダの建前の裏には、トヨタの牙城を切り崩すにはまずそこを攻めるしかないという本音が見え隠れする。

結果的にトヨタは、新型プリウス発売後も償却の進んだ旧型プリウスを併売し、価格でインサイトを牽制するという奇策を繰り出すことになりそうだ。ともあれ「いいものかもしれないけどちょっと高い」というイメージだったハイブリッドを、完全に普及モードに乗せたという点だけでもインサイトの功績は褒められるべきだろう。

なぜ189万円という低価格が実現できたか

ではインサイトが、どうして189万円を実現できたのか? 主因はハイブリッドシステムの差だ。極端にいえばプリウスのそれがモーター駆動主導で練られた半EV的なものであるのに対して、インサイトのそれはあくまでエンジンを主導とし補助としてモーターを使うという考え方でつくられている。

たとえばプリウスはモーターのみで走行できるモードをもつほか、高速領域でも積極的にモーターが走行の加勢を行うなど、常用域においてエレキの依存度が非常に高い。これによって独自のドライバビリティがもたらされ、そこがプリウスの個性となってもいる。

対するインサイトはアイドリング時や街中で多用する低回転域など、エンジンの効率が低いエリアでの仕事率をカバーするという目的でハイブリッドシステムを構成している。それゆえ、プリウスほどわかりやすい未来感=モーター走行感を味わうことはできない。が、システムはシンプルかつ小型・軽量にしつらえられる。つまりは生まれながらにしての低コスト体質であり、多車種展開を前提にしたものだといえる。たとえるなら、プリウスが電動スクーターに近いものであるのに対し、インサイトは電動アシスト自転車的なところを開発の目的にしているといってもいい。

           
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