ロータス エヴォーラ 2014年モデルに試乗|Lotus
Lotus Evora S Sports Racer IPS
ロータス エヴォーラ S スポーツレーサー IPS
熟成を重ねるラグジュアリー ロータス
ロータス エヴォーラ 2014年モデルに試乗
ロータスといえばライトウェイト スポーツ「エリーゼ」をはじめ、スパルタンなモデルの印象が強いブランドだ。しかしながら、2009年に発表された「エヴォーラ」は、より日常使いに重きをおき乗り心地や快適装備を盛り込み、さらに小さいながらも後席をそなえた2+2モデルとして登場。2011年にはAT仕様「エヴォーラ IPS」も追加され、より快適にロータスの世界をたのしめるようになった。登場から5年、熟成を重ねた2014年モデルの「エヴォーラ スポーツレーサー IPS」に大谷達也氏が試乗した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki
ロータスらしさを残した使い勝手のいいスポーツカーをつくりたい
1990年代に誕生した新生ロータスといえば、アルミの押し出し材などでシャシーの骨格を作り、そこにコンパクトで極めて軽量なボディを組み合わせたミドシップ オープンスポーツカー「エリーゼ」が代表作である。このエリーゼをクローズドクーペとし、さらにパフォーマンスを追求したのがエキシージ。
どちらも快適装備をできる限り省き、軽量・コンパクトにすることでスポーティなハンドリングのみにフォーカスしたクルマ作りとなっている。その発想は、シンプルなデザインで理想のハンドリングを追求した、1950年代から1960年代にかけて創業者コーリン・チャプマンが生み出した初代ロータス「エリーゼ」や初代「エラン」、そして「ヨーロッパ」などと軌を一にするものだった。
とはいえ、便利装備が満載され、快適性が徹底的に追求された最新のスポーツカーに馴染んでいる現代人にとって、現行型のエリーゼやエキシージの味付けはややスパルタンに過ぎた。
いやいや、実際はそのあまりの小ささ、もしくは簡素なつくりのインテリアを見てそう思い込んでしまうだけで、いざ路上を走らせてみれば意外なほど乗り心地がよく、ノイズレベルも小さくて、近所の買い物にも使えるほど扱いやすいクルマであることに気づく。
けれども、エリーゼやエキシージをベースにしながら、もうちょっとだけ豪華なインテリアで飾られたスポーツカーがあってもいい。そのせいで多少重くなって、ハンドリングはエリーゼやエキシージほど俊敏ではなくなるかもしれない。けれども、この2台より静かで乗り心地がよくて室内も広くて、いっそのこと+2でもいいからコンパクトなリアシートも追加してあげたら、ロータスらしい良さを残した使い勝手のいいスポーツカーができるにちがいない……。
そんな風にロータスの現経営陣が考えたのはごく自然なことだし、そこには少なくない数の需要も存在したことだろう。
Lotus Evora S Sports Racer IPS
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ロータス エヴォーラ 2014年モデルに試乗 (2)
初期の弱点を一掃し、コンセプトに忠実な2014年モデル
このようなコンセプトで開発されたエヴォーラがデビューしたのは2008年のこと。滑らかな曲線で構成されたエクステリアデザインは優雅で視覚的な軽快さをあまり失っていなかったし、ミドシップされたトヨタ製3.5リッターV6スーパーチャージャー付きエンジンもなかなか力強くてロータスの名に恥じないパフォーマスを発揮してくれた。
けれども、サスペンションは快適性に重きを置きすぎたせいでロータスらしい歯切れのよさに欠けていたほか、エンジンの反応はさほどシャープではなく、1,400kg近いボディ(エヴォーラ S スポーツレーサー IPSの車重は1,460kg)が実際の車重以上に重く感じられたものである。
こうして、軽い失望感を味わいつつ改めてエヴォーラを見つめてみると、室内の居住性を追求したボディは天地方向にやや厚すぎるように思えなくもなく、インテリアのクォリティ感だって決していいとはいえない。
つまり、ほんのわずかな快適性を追求した結果、ロータス本来の良さも少しずつ失われてしまったように思えたのだ。しかも、仕立てのよさや技術的な洗練度の面から見ると最新のスポーツカーにもかなわない。結果として、立ち位置がやや不明瞭なクルマができあがってしまったのである。
こうした反省を踏まえ、ロータスはエヴォーラの改良に取り組んだ。その作業はパワートレーン、サスペンション、インテリアなど多岐にわたったが、ロータスはこれをマイナーチェンジとは特に謳っていない。
けれども、2014年モデルのエヴォーラ スポーツレーサー S IPSは、エリーゼやエキシージとの深い血のつながりを思い起こさせるダイレクトなドライビングフィールを手に入れただけでなく、インテリアのクォリティ感は大幅に向上。ちょっとずんぐりしているように思えたエクステリアは、ちょっとしたお化粧直しにより見違えるほどシャープな印象を与えるようになった。言い換えれば、デビュー当時のエヴォーラの弱点が一掃され、当初のコンセプトに忠実なスポーツカーができあがったのである。
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ロータス エヴォーラ 2014年モデルに試乗 (3)
ロータスはこんなクルマを作りたかったんだ、と思わせる
実際に試乗してみると、軽々と吹き上がるV6エンジンのフィーリングにまず驚かされる。その鋭いレスポンスは、ピストンやクランクシャフトなどのムービングパーツを軽量化して作り上げたレーシングエンジンを思い起こさせるもので、右足の動きに気持ちいいくらい即応してくれる。これと組み合わせられるギアボックス“IPS”はトルコン式6ATがベースだが、これもデュアルクラッチ式と見紛うばかりのレスポンスのよさ、そしてダイレクト感を手に入れている。
そしてサスペンションは、快適性を追求するあまり足回りの動きにある種の“あいまいさ”が感じられた初期型とことなり、限られたサスペンションストロークを有効に使いつつも、ハーシュネスを巧みに遮り、それでいてシャープなハンドリングを実現している。その意味では、マクラーレン「MP4-12C」に近い感触といっていいかもしれない。
おなじくMP4-12Cと似ていると思わせるのが、その視界の良さだ。まるでパノラマ写真のように水平方向が広く見渡せるだけでなく、上下方向にもじゅうぶんな視界を有しているので、頭上のごく近くにある信号機も見えるし、ボディ直前の路面状態も確認しやすい。斜め後方の視界にしても、この種のミドシップスポーツカーとしてはかなり良好だ。
改めて見直して見れば、アルカンタラできっちりと覆われたインテリアは実に魅力的で、タッチ式スイッチを多用した操作系は斬新なだけでなく使い勝手もいい。シートは室内スペースを浸食しないように薄く作り込まれているけれど、シェイプが適切なのでハードなドライビングをしてもドライバーをしっかり支えてくれるうえ、レザーの質だって高い。全体的に現代的なテイストを手に入れたことも好感が持てる。
「ああ、ロータスはこんなクルマを作りたかったんだ」
新型、いや失礼、2014年モデルのエヴォーラは、そんな印象をわれわれに与えてくれる新世代のスポーツカーである。
Lotus Evora S Sports Racer IPS|ロータス エヴォーラ S スポーツレーサー IPS
ボディサイズ|全長 4,380 × 全幅 1,850 × 全高 1,230 mm
ホイールベース|2,575 mm
トレッド 前/後|1,560 / 1,555 mm
重量(EU値)|1,460 kg
エンジン|3,456cc V型6気筒 スーパーチャージャー付き
最高出力| 257.5 kW(350 ps)/ 7,000 rpm
最大トルク|400 Nm(40.8kgm)/ 4,500 rpm
トランスミッション|6段オートマチック(IPS)
駆動方式|MR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|ダブルウィッシュボーン
タイヤ 前/後|235/35R19 / 275/30R20
ブレーキ 前/後|φ350mm ベンチレーテッドディスク / φ332mm ベンチレーテッドディスク
トランク容量|160 リットル
最高速度|266 km/h
価格(8パーセント消費税込み)|1,131万4,200円