新型ディスカバリーに北米ユタ州で試乗|Land Rover
Land Rover Discovery|ランドローバー ディスカバリー
新型ディスカバリーに北米ユタ州で試乗
現代のSUVのベンチマーク
4月5日に日本でも発売されたばかりの新型ランドローバー「ディスカバリー」。日本への導入に先立ってアメリカはユタ州で開催された国際試乗会で、モータージャーナリスト、金子浩久氏がその進化を確かめた。
Text by KANEKO Hirohisa
マッシブで表情豊かなデザイン
ランドローバー「ディスカバリー」がフルモデルチェンジした。モデルとしては5代目になる。ディスカバリーはランドローバーの中核を成すSUVで、車高調整が可能なエアサスペンションと副変速機を装備した本格派である。
シャシーのメカニズムの形式だけを見れば、同社トップモデルの「レンジローバー」と変わるところがない。大きく違うのは、ディスカバリーは3列7人乗りシートを備えているところだ。
これまで筆者はディスカバリーの初代から4代目までを国内外のオンロードとオフロードで走らせた経験を持ち、その変遷を体験してきた。
その変遷のなかで最も大きな変化は2回あった。前述したエアサスペンションの採用と、現在ではすべてのランドローバーに装備されている、路面コンディションの違いによる走行モード切り替えデバイス「テレインレスポンス」システムがディスカバリーに装備されたことだ。
その2つによってオンロードの走行性能とオフロードでの悪路走破性がまず向上し、さらにはその2つを矛盾することなく高い次元で両立させることを実現してきた。
だから、初代と4代目を今乗り較べると天と地ほどの開きがあって驚かされる。もちろん、その間に技術の進化があって、世の中のSUVのほとんども性能向上が著しかったわけだけれども、どの節目にあってもディスカバリーがリードしてきたことに変わりはない。
では、5代目は4代目とどれだけ変わったのだろうか? アメリカ・ユタ州で行われたメディア試乗会でそれを確かめてきた。
発表時の画像だけで、「ディスカバリー スポーツ」との近似性を感じたが、実物は大きく異なっている。兄はマッシブで表情豊かだ。先代ディスカバリーのデザインを発展させながら、新しいイメージを構築するのに成功している。
ステップドルーフとそのウインドウがサイドまで回り込んでいる造形や左右非対称に切り欠かれたテールゲートなどのディテイルもモダンに昇華されて継承されている。
しかし、それらよりも本質的なのは全体のプロポーション、特に垂直に近い角度に切り落とされたボディ後部の造形だ。
ほぼ直立に立ち上がって、ウインドウのやや下から少しだけ前傾している。写真で眺めると、反対にこの直立ぶりは伝わりにくいが、これこそが歴代ディスカバリーのアイデンティティなのである。
直立したテールゲートは過酷なアウトドアアクティビティでの最大限の積載量の確保のためだ。それが同時に多用途性を高め、3列7人乗りにも貢献することになる。
コクピットのデザインは、先代ディスカバリーや現行のレンジローバー、レンジローバースポーツの延長線上にあるものだ。センターコンソールの一番上の10インチスクリーンはインフォテインメントを司るもので「インコントロール・タッチ・プロ」と呼ばれる。
タッチコントロールのほか、ボイスコントロールも可能だ。シフトレバーの手前にはテレインレスポンス2のロータリースイッチが来て、その隣にはヒルディセントコントロールや車高調整スイッチ、後述するATPCスイッチなどが並んでいる。素材や仕上げ、張られた革の素材と仕上げなどはレンジローバー並みに高級になったのも大きな変更点の1つだ。
意外だったのは、スピードメーターとタコメーターがスクリーン式でなく、針のあるコンベンショナルなものだったこと。オフロード走破性や高級感などは限りなくレンジローバーに近付いたが、あえてコンサバティブに残したのかもしれない。
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現代のSUVのベンチマーク(2)
レンジローバーをも凌ぐ静粛性となめらかな乗り味
3リッターV6ディーゼルターボエンジンを搭載した「HSE Lux」(アメリカ仕様)で走り出して最初に驚かされたのが、静粛性の高さとなめらかな乗り心地だった。
タイヤから聞こえてくるはずのロードノイズがほとんど聞こえてこないし、同じように細かな振動も伝わって来ない。車体からも、ハンドルからも伝わって来ない。SUVとしてはもちろん第一級の、そしてサルーンも含めたすべてのカテゴリーのクルマのなかでもかなりの上位に位置する静粛性の高さとなめらかさである。
一般道からフリーウェイに乗って速度を上げてもそれは変わらない。「TdV6」ディーゼルターボの排気音と振動も見事に遮断されている。ディーゼル特有のノイズと振動はアイドリング領域で認められるが、そこから少しでも回転を上げれば霧消してしまう。
走り出して最初に受けたのは、そうした静粛性の高さとなめらかな乗り心地だった。それらは先代のディスカバリーと較べると長足の進化であることはもちろん、もしかしたら旗艦レンジローバーをも凌ぐのではと思わされたほどだ。
考えられるのは、新型ディスカバリーが採用している新しいアルミモノコックと改善されたエアサスペンションなどの効能ではないだろうか。いずれにせよ、オンロードでのクルージングは極めて上質なものになった。
258psの最高出力と61.2kgmの最大トルクを発生する3リッターV6ディーゼルターボと8段ATの組み合わせも申し分なく、必要とあらばハンドル裏のパドルによってマニュアル変速も行えて、この点でも申し分ない。
ガソリンの3リッターV6「Si6」エンジンを搭載した「HSE」にも乗った。前述した静粛性や乗り心地などの快適性の高さは変わらず、エンジンの違いを大きく意識させられることはなかった。
もちろん、ディーゼルのほうが最大トルクが太い代わりに最高出力がガソリンよりも小さいという違いがあるので、高速での加速などでわずかな違いがあるが、実用上はまったく問題はない。
個人的には、停止や低速域での加速に優れるディーゼルのほうが、大人数と大量の荷物を積みながらオフロードや雪道を進むような状況に好適だと思った。当初の日本仕様では、これらのガソリンとディーゼルのV6の2種類のエンジンが設定されるなので、装備も含めて検討する必要があるだろう。
また、ディスカバリーの特徴である3列7人乗りシートの折り畳みもトランクルームに設けられたボタンで操作できる範囲が広がったのは朗報だ。
弱点を強いて挙げれば、大きなドアミラーに遮られることになる直近斜め前の視界ぐらいだろうか。
現在のランドローバーのSUV群を大きく2つのグループに分けると、エンジンを縦置きにレイアウトしているレンジローバー、同スポーツ、ディスカバリーなどと、横置きしている「ディスカバリー スポーツ」「イヴォーク」などとなる。
エンジンの置き方自体に意味があるのではなく、縦置き各車は副変速機とエアによる車高調整式サスペンションを備えている点が本質的に異なっている。
副変速機のローレンジモードを使えば、より低回転域での駆動力を活用することができるし、センターデフをロックすることもできる。運転中に車高を上下させられれば、岩や溝、轍などを越えながら走ることもできる。
ブームと言われたところで、世界のSUVを眺め回してみても副変速機とエアサスペンションを備えている本格派というのは数少ない。当然だ。誰もが自分のクルマで岩山に登ったり、轍を越えようだなんて考えているわけではないからだ。
また、車高調整可能なエアサスペンションは車高を下げることもできるので、実はオンロード性能との両立にも役立っている。
ローレンジモードは初期のディスカバリーも備えていたが、エアサスペンションは途中からだ。
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現代のSUVのベンチマーク(3)
SUVの近未来をも予見させるポテンシャル
その2つのデバイスに加え、ランドローバー各車にはもう1つ決定的なデバイスがある。「テレインレスポンス2」だ。縦置き系ランドローバーの「テレインレスポンス2」には、5つの走行モードにオートモードが加わっている。5つとは、オンロード、草と砂利と雪、泥と轍、砂、岩。オートモードは、それらのなかからどれを選ぶかを、クルマが路面を判断して自動的に選んでくれる。
選んだ走行モードによって、スロットルやギア、4輪への駆動力配分、その他の電子制御を統合してコントロールする。
テレインレスポンスがなかった時代のディスカバリーを運転したことがあるけれども、過酷なシーンでは、お手上げだった。エキスパートの運転を助手席から見せてもらうと、千手観音のように両手両足を駆使し、最適のタイミングで最適の操作をして、難所を切り抜けていた。
そうしたエキスパートによるオフロード走行の超絶テクニックをすべて電子制御によって再現しているのがテレインレスポンスなのである。過酷であればあるほど、その魔法は効いてくる。
ユタ州の大自然のなかに設営されたセクションで、新型ディスカバリーはそれらのデバイスの能力を100パーセント発揮して走り切った。岩山を登り、急峻な砂山を駆け上がり、深い轍を辿っていった。ボディを高圧噴水で洗車しなければならなくなるほどの泥も浴びた。
クルマを降りて立って歩けないところでも走れるのだから、その驚異的な走破性の高さを想像してもらえるだろう。ここに掲載した数々の写真は決してトリックではないのだ。
感心したのは、すでにレンジローバーに搭載されている「ATPC」の追加だ。この機能をオンにすることで、ゴツゴツの岩山でも設定した速度で走り続けることができる。
実際に、険しい岩山の登りで試してみると、このデバイスのありがたみが良くわかる。岩山ではタイヤをパンクさせないためにセンチ単位でどこを通るか吟味に吟味を重ねるものだが、その時にアクセルワークから解放される意味はとても大きい。
ランドローバーの開発陣が実際の使用例を良く知っていることの表れだ。この技術は遠くないうちにオフロードでの自動運転に発展していくだろう。新型ディスカバリーは、そうしたSUVの近未来をも予見させるポテンシャルを内包している。
2015年のニューヨークオートショーで発表したコンセプトカーは、カメラで路面をスキャンしながら、最も安全に通りやすいところを走ることを可能としていた。その様子をフロントガラスに投影しながらクルマに任せる自動モードもできるし、ドライバーがハンドルを切りつつクルマが支援する半自動モードも備わっていた。
「テレインレスポンス2」をはじめ、先代ディスカバリーやレンジローバー、同スポーツなど縦置きエンジン系のランドローバー各車は本格的なオフロード走行のためのデバイスを備えているが、ディスカバリーではそれらが一層と使いやすくなっている。
一般的には、ここまでの走破力を必要とすることはなかなかないかもしれないが、大自然にスマートに対峙できる能力を備えているのが新型ディスカバリーの魅力と実力だ。それは変わらない。
そうしたオフロードの走破性能と併せて、前述したオンロードでの快適性向上はディスカバリーを現代のSUVのベンチマークに返り咲かせたと断言できるだろう。新型ディスカバリーは5代目となってそのルックスを大きく変えてきたが、それに伴って内容と性能がより上級に移行した。日本仕様が待ち遠しい。