ボルボ S60 ポールスターに試乗|VOLVO
VOLVO S60 Polestar|ボルボ S60 ポールスター
ボルボ S60 ポールスターに試乗
これまでのボルボの常識を覆すモデル
ボルボのハイパフォーマンスモデルを手がけるポールスター社。いわば、メルセデスにおけるAMGともいえる存在である。その同社が手がけたコンプリートモデル「S 60 ポールスター」に、モータージャーナリストの大谷達也氏が試乗した。
Text by OTANI TatsuyaPhotographs by ARAKAWA Masayuki
メルセデスとAMGの関係にウリふたつ
それはまったくの偶然だったのだが、今回の試乗会のおよそ2週間前に私はスウェーデン・イエテボリ郊外にあるポールスター社を訪ねていた。ボルボに買収されて組織を再編成中ということもあって社屋はこぢんまりとしたものだったが、そこで耳にしたポールスターの成り立ちはなかなか興味深いものだった。
ポールスターの母体は1996年に設立されたフラッシュ・エンジニアリングという名のレーシングチーム。彼らは当初よりボルボだけを走らせていたが、意外にも資本関係は一切なかった。その後、ボルボとの関係を深めながら2005年には現在のポールスターに社名を変更。2009年には、正規ディーラーで購入できるROMチューンとして日本でも好評を博しているポールスター・パフォーマンス・オプチマイゼーションを発売し、量産車事業にもビジネスを拡大することになった。
そうした歩みに大きな変化が起きたのは2015年7月のこと。ボルボがポールスターの株式を100パーセント取得すると発表したのである。ただし、買収するのは量産車部門とブランドの使用権のみで、もともとあったレース部門はそれまでのオーナーであるクリスチャン・ダールの手元に残され、サイアン・レーシングとして再出発を図ることになったのだ。
ここまでの話を聞いて「おや?」と思われた方は相当のエンスージャストであるはず。なにしろ、1)特定のメーカーのレース活動を担うために誕生、2)レース活動と並行してロードカーのチューニングも行う、3)やがてメーカーにロードカー部門のみ買収され、レース部門は元のオーナーの手元に残される、という流れは、メルセデスとAMGの関係にウリふたつだからだ。
もっとも、ポールスターの規模はAMGとは比べものにならないほど小さい。なにしろ従業員は45名ほどで、その多くが事務職。このためロードカーの開発に関しては、もともと同僚だったサイアン・レーシングのエンジニアたちに大きく依存しているのが現状という。
VOLVO S60 Polestar|ボルボ S60 ポールスター
ボルボ S60 ポールスターに試乗
これまでのボルボの常識を覆すモデル (2)
エンジンは標準の304psと440Nmから350psと500Nmへとチューンアップ
ここまでの説明でおわかりのとおり、ポールスターはそもそもレーシングチームとして誕生した組織であり、そのDNAは今もまったく変わっていないといえるだろう。
ところで、今回紹介する「S60 ポールスター」は、単なるROMチューンとはまったく趣の異なるコンプリートカーで、エンジンだけでなくシャシー、ボディ、インテリアなどにも広範に手が加えられている。スウェーデン本国では2013年にデビューし、日本にも2014年にS60とV60のあわせて90台が特別限定車として発売されたところ、これまたまたたく間に完売したという経緯がある。そこであらたに2016年モデルが用意されたのだが、導入2年目とあってS60は10台、V60は40台と台数は半減。というわけで、このモデルに関心をお持ちの方は早めに行動を起こす必要がありそうだ。
スタンダードなS60/V60とポールスター仕様でどのように異なるのか、ここで簡単にご説明しよう。
エンジンはT6と呼ばれる直6 3.0リッター ツインスクロールターボ付きで、標準の304psと440Nmから350psと500Nmへとチューンアップ。ただし、いたずらにパワーを追い求めるのではなくレスポンスの改善に力を入れている点はポールスターのROMチューン版と同様である。
シャシーはオーリンズの減衰率可変型ダンパー(30段階)を装備し、「S60 T6 AWD R-DESIGN」との比較でスプリングは80パーセント、スタビライザーは15パーセントも固められている。さらにサスペンションのマウント部やブッシュを強化したほか、カーボンファイバー製ストラットバーを追加。ブレーキはブレンボ製6ピストン(フロント)にグレードアップし、ディスク、パッド、マスターシリンダー、ブースターなどを専用品に置き換えられ、ESCやABSにくわえて4輪駆動システムのセッティングも変更された(そう、ポールスターのコンプリートカーは全車4WDなのである)。さらに前後に空力パーツを追加するなど、クルマ全体のバランスを重視したチューニングが施されている。
では、そのコンセプトはどのようなものなのか? ポールスター広報のヨハン・マイスナー氏はこんな風に説明してくれた。「ポールスターのエンジニアたちが毎日乗りたくなるようなクルマをテーマに開発しました」。つまり、サーキット走行を念頭に置いたガチガチのチューンドカーではなく、日常的な快適性も考慮した味付けになっているというのだ。ただし、そこはレース集団のポールスター、一般のドライバーとは微妙に好みがことなる可能性も考えられるので、まずはその辺に注目しながらS60 ポールスターに試乗することにした。
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ボルボ S60 ポールスターに試乗
これまでのボルボの常識を覆すモデル (3)
BMWのような後輪駆動モデルによく似ている
最近のレーシングカーはスプリングよりもダンパーを重視したセッティングが主流となっており、そのためレーシングカーとはいえ驚くほど乗り心地がいいケースが増えている。そんな先入観があったから、S60 ポールスターに乗り始めたときには、正直「ちょっとこれ、硬すぎないかなあ」と感じた。
サスペンションが強く締め上げられているためにしなやかにストロークする印象が薄く、路面からのショックがはっきりと感じられるのだ。もっとも、ボディがしっかりしているうえ、ダンパーが強力なために振動の収束は早いから嫌な感じはしない。ファミリーカーに乗り慣れたドライバーは面食らうかもしれないけれど、昔からスポーティモデルに乗り続けてきた硬派だったら何とも思わない、というくらいの硬さだ。
肝心のエンジンはパワフルなうえにレスポンスも良好。ちなみに、S60 T6とV60 T6は直列6気筒エンジンを横置きするというユニークなレイアウトが特徴だが、現在、ボルボはエンジンラインナップを新開発の4気筒に集約する(将来的には3気筒も追加される)パワートレインの改編作業中で、この直列6気筒エンジンもほどなく消えゆく運命にある。その意味では貴重なパワーユニットといえるだろう。
一般道から自動車専用道に足を踏み入れたところで少しペースを上げてみる。すると、それまで軽くヒョコヒョコしていたクルマの挙動がすっと落ち着き、フラットで快適な乗り心地に感じられるようになった。ヨーロッパでは片側一車線の道でも制限速度が60-80km/hのところが少なくないが、どうやらポールスターのエンジニアたちもこの速度域を念頭においてサスペンションをセッティングしたようだ。
続いて高速コーナーが連続するワインディングロードを攻めてみる。うねった路面をかなりのペースで通過してもボディは煽られることなく、フラットな姿勢を保ったまま。また、決してサスペンションが大きくストロークしているようには感じられないものの、ギャップを乗り越えても接地感が薄れることはなく、安心してステアリングを握っていられた。
もっとも、そんなことよりも印象的だったのが、このS60 ポールスターがボルボとは思えないほど重心が後ろ寄りで、フロントタイヤよりもリアタイヤのほうが多くの仕事をしているように感じられることだった。そのフィーリングは、前輪駆動ベースの4輪駆動というよりは、BMWのように注意深く仕上げられた後輪駆動モデルによく似ていたのである。
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これまでのボルボの常識を覆すモデル (4)
後輪駆動と4輪駆動の“いいとこどり”
実は、スウェーデンで試乗した際にも同様のことを感じていたので、前出のマイスナー氏にその印象をぶつけてみたところ、「エンジニアたちはまさにそれを狙っていました」との答えが返ってきた。聞けば4WDの前後トルク配分にも特別なチューニングが施されていて、コーナリング中にはスタンダード仕様に比べてより多くのトルクが後輪に分配されるという。
そうしたセッティングの恩恵なのか、ワインディングロードを走っているときの軽快感は後輪駆動車を操っているときとまったくおなじ。ただし、ロードホールディングが良好なうえ、リアのグリップレベルが思いのほか高いのでコーナリング中に姿勢を乱すようなことは滅多になく、安心してスポーティドライビングを味わえる。つまり、後輪駆動と4輪駆動の“いいとこどり”をしたような感触なのだ。
そうやって散々ワインディングロードで楽しんだ後で、もときた道を戻っていくと、乗り始めた当初ほどハーシュネスなどが気にならなくなっている自分を発見する。実際には、タイヤの温度が上がって内圧が上がり、ハーシュネスには厳しい方向になっているはずなのに、それと反対の印象を抱いてしまうのは、これがワインディングロードでいかに楽しめるクルマかを思い知ったからだろう。
それでも「ハンドリングがいいのはわかったけれど、自分は当たりが柔らければ柔らかいほど嬉しい」と考えるOPENERS読者には奥の手が残されている。前述したとおり、ポールスターのコンプリートカーには30段階の減衰力可変式のダンパーが装着されている。しかも、この日は前後とも10のセッティングとされていた(数字が小さくなればなるほど硬くなる)。つまり、乗り手の好みにあわせて幅広く対応できることが、S60/V60 ポールスターのもうひとつの魅力なのである。
では、S60/V60 ポールスターの直接のライバルとなりそうなのは何だろう? 本来であればおなじ4WDを採用するアウディ「S4」と答えるべきところだが、軽快なハンドリングという意味ではBMW 3シリーズの、なかでも「340i」あたりと性格が似ている。いずれにせよ、これまでのボルボの常識を覆すモデルであることだけは間違いない。
Volvo S60 Polestar│ボルボ S60 ポールスター
Volvo V60 Polestar│ボルボ V60 ポールスター
ボディサイズ│全長 4,635 × 全幅 1,885 × 全高 1,480 mm
ホイールベース│2,775 mm
トレッド前/後│1,580 / 1,575 mm
最低地上高│130 mm
車両重量│(S60)1,780kg、(V60)1,810kg
エンジン│2,953cc 直列6気筒 ターボチャージャー
最高出力│258 kW(350 ps)/5,250 rpm
最大トルク│500 Nm(51.0 kgm)/3,000-4,750 rpm
トランスミッション│電子制御6段AT
サスペンション前│マクファーソンストラット
サスペンション後│マルチリンク
タイヤ│245/35ZR20
燃費(JC08モード)│9.6 km/ℓ
販売台数│(S60)限定10台、(V60)限定40台
価格│(S60)829万円、(V60)849万円
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