BMWの屋台骨、BMW 5シリーズに試乗
BMW 5Series|ビー・エム・ダブリュー 5シリーズ
追求されたコアバリュー
BMWの屋台骨、5シリーズに試乗(1)
日本国内において、BMWがラインナップするセダンのなかで、トップの販売台数を記録しているという5シリーズ。全長5メートルになんなんとする余裕あるサイズのボディに、保守的だが万人受けするスタイリング。アンダーステートメント(控えめ)ぶりが、多くのひとに受け入れられる要因だろうか。
Text by OGAWA FumioPhoto by ARAKAWA Masayuki
BMWの金看板「ストレートシックス」
5シリーズセダンのラインナップは、523iにはじまり、528i、535i、そして550iと豊富だ。523iの2リッターユニットにはじまり、550iの4.4リッターまで、排気量の幅は比較的大きい。
スポーティなクルマづくりをつねに目指すBMWにあって、大きなパワーと太いトルクは重要だが、近年では環境性能との両立をはかるため、ターボチャージャーを使って排気量を縮小し、燃費向上にも熱心に取り組んでいる様子だ。
535i(835万円)は、BMWがこだわる直列6気筒を搭載した後輪駆動。前後の重量配分を50対50に近づけることを狙ったパッケージングといい、このメカニカルレイアウトは、おそらく電気自動車になるまで不変だろう。「ストレートシックス」は60年代からBMWの金看板で、実際の効率はさておき、昔からのBMWファンには価値ある「アイコン」だ。
排気量を3リッターに抑えつつ、可変バルブタイミングのダブルVANOSと、可変バルブリフト機構のバルブトロニックといったヘッドまわりの制御技術にくわえ、容量を変えることで低回転域から高回転域まで幅広く対応することをねらったツインスクロールターボを装着。305psの最高出力を実現している。
BMW 5Series|ビー・エム・ダブリュー 5シリーズ
追求されたコアバリュー
BMWの屋台骨、5シリーズに試乗(2)
M Sportパッケージ搭載車を試乗
535iのよさは、圧倒的なパワーをもつエンジンを搭載しつつも、クルマのキャラクターをスポーティな方向へ強く振らず、快適性と両立させたところにある。端的にいうと、いいクルマ、なのだ。
ここで紹介している試乗車は、スポーツサスペンションを備えた「M Sportパッケージ」なるオプション(37万円)が組み込まれているが、乗り心地も悪くない。ごく低回転域からトルクがたっぷり出て、広い室内空間におさまっていると、快適な気分でドライブを楽しむことができる。静粛性も高く、排気音はやや強調されているように思えるものの、風きり音などは低く抑えられている。高級車の印象が強い。
いっぽう、「その気」になれば、かなり速い。「M Sportパッケージ」にふくまれる「8段スポーツオートマチックトランスミッション」の恩恵もさることながら、回転が多少低かろうが、アクセルペダルに載せた足の動きに即座に反応して6気筒エンジンはたっぷりのトルクを供給し、1,820kgの車体は軽快に加速してゆく。
BMWエンジンのよさは、低回転域でもトルクに余裕を感じさせつつ、まるで小さなスポーツカーエンジンのように、高回転までまわりパワーを出す楽しさを味わわせてくれるところにあった。それは最新世代のストレートシックスでも同様。3,000rpm、4,000rpm、5,000rpm、と回転があっといまに上がるのに即応して、車体がすさまじい速度で加速してゆく。全長5メートルの4ドアセダンとはまさにミスマッチ。これがBMWの真骨頂なのだろう。
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BMWの屋台骨、5シリーズに試乗(3)
大型のボディながら、十分に体感できる、スポーツドライビングの極み
535iのハンドリングについても、特筆すべき点が多い。ハンドルを切りはじめたときの姿勢制御にはじまり、正確なライントレース性、コーナーを抜けていくときの安定性、そして直線へと立ち上がっていくとき、後輪へ最大限に駆動力がかかるジオメトリー制御……。BMWをBMWたらしめている、すばらしい要素がここに結実している。
ボディサイズを感じさせないのも535iがいかにナチュナルなハンドリングをもっているかの証明だ。ハンドルを切ったときに車体が即座に反応し、そのあとも微妙な動きにみごとに追従してゆくのと、どこからでもたっぷりしたトルクが出る感覚が、幸福な気分をドライバーにもたらしてくれるのだ。
アウディA6やメルセデスEクラスといったライバルにたいして、5シリーズの特長は、いってみれば迷いがないところか。スポーツドライビングを追求するという、BMWのコアバリューを追求した結果が、このサイズにもかかわらず、うまく具現されている。
BMW 5Series|ビー・エム・ダブリュー 5シリーズ
追求されたコアバリュー
BMWの屋台骨、5シリーズに試乗(4)
普遍的なスタイリングと個性的な走りのマッチング
惜しい点は、スタイリングだろうか。オランダ人のデザインダイレクター アドリアン・ホーイドンク率いる、BMWのスタジオは、5シリーズにしごくまともな、いってみればシャシーにスキンをかぶせて空力的な要件を満たしただけのようなスタイリングを与えた。
かつてアメリカ人のクリス・バングルがデザインスタジオに君臨していた時代に、専門用語でいうとサーフェス デベロッピングなるアイディアを大々的に採り入れ、ラインでなく、面でデザインを表現する考えを実行した。先代のZ4などがその好例といえる。
しかし最近のモデルではボディ側面に、大胆なキャラクターラインを入れるなど、BMWデザインが過渡期に入ったのか、それとも迷いがあるのかわからないが、変化を見せている。5シリーズのスタイリングも、そんな傾向を感じさせる。
べつの言葉でいえば、おとなしいやや没個性なスタイリングだが、ひとたび走らせると、ほかにない強い個性を感じることができる。その組み合わせは、スタイリングにも強い個性を演出してきたBMWがどこまで意識してのことだかわからないが、日本市場では吉とでている。そういうクルマの楽しみもあるのだ。
BMW 535i Sedan|ビー・エム・ダブリュー 535i セダン
ボディサイズ|全長4,910×全幅1,860×全高1,475mm
ホイールベース|2,970mm
車輌重量|1,820kg
エンジン|3.0リッター直列6気筒
最高出力|305ps(225kW)/5,800rpm
最大トルク|400Nm/1,200-5,000rpm
トランスミッション|電子油圧制御式8段AT
10・15モード燃費|12.8km/ℓ
価格|840万円