2012年の輸入車市場における台風の目─新型BMW 3シリーズに試乗
BMW 3Series|ビー・エム・ダブリュー 3シリーズ
2012年の輸入車市場における台風の目──新型3シリーズに試乗(1)
2011年10月、facebook上でのストリーミング中継によって、アンヴェールされた6代目BMW 3シリーズ。ダウンサイジングやさまざまなデバイスを装備したことにより、大幅に改善された環境性能。快適性の向上や、のちに発表されるハイブリッドモデル用のシステムを積むために拡大されたボディサイズ。BMWのデザインの文法をきっちりと守りながらも、よりシャープになった顔立ちなど……。この6代目には、トピックが数多く用意されている。自動車 ジャーナリスト 渡辺敏史氏による同車のインプレッションをお送りする。
Text by WATANABE Toshifumi
BMWの精神的支柱
日本市場においてBMWの3シリーズといえば、実はフォルクスワーゲン ゴルフと人気を二分せんほどのメジャーネームであることをご存知だろうか。実際、ゴルフのモデルレンジ端境期には輸入車の販売台数で1位となることもある、そのくらい、日本市場に溶け込んだ存在となっている。
BMWが戦後、誰もが認める乗用車の量販メーカーへと成長するきっかけとなったのは60年代前半のことだ。当時メジャーだった大衆車よりはちょっと大きく立派ながら、高級車のように高くはない──というマーケットの隙間を狙ったBMW 1500は、ドイツ語であたらしいクラスを意味するノイエ・クラッセのコードネームも広く浸透させるほどのヒット作となった。
日本でもマルニと呼ばれるほど馴染み深い2002シリーズも、このノイエ・クラッセの末裔ということになる。
その成功を引き継ぐべく、フルモデルチェンジにともなって名前を改められた、初代3シリーズが発売されたのは1975年のこと。以来、過去5代にわたって販売された同シリーズの総台数は1200万台以上にのぼるという。BMWのビジネススケールを考えると、その数字は破格といっても過言ではないだろう。彼らにとっては屋台骨を超えて精神的支柱ともいえる存在。とあらば、日本市場での成功も、当然といえば当然なのかもしれない。
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2012年の輸入車市場における台風の目──新型3シリーズに試乗(2)
328iにも2.0リッター直4エンジンを採用
あたらしい3シリーズの概要をみるに、最大のテーマは彼らの推し進めるプロダクトポリシー=エフィシエント・ダイナミクスを徹底的に浸透させることにあったと思われる。それを象徴する事例が、直列6気筒エンジンの搭載グレードが上位機種に絞られ、販売主力の320iはもとより328iにも直列4気筒エンジンが採用されたことだ。いわゆる「ダウンサイジング」の傾向はBMWにおいても顕著で、5シリーズにおいても2012年モデルからは同系の4気筒ユニットが積極的に展開されている。ちなみに直列6気筒は、後に発売される335iや、これも発売が公言されているアクティブハイブリッド3に搭載される予定だ。
ライバルにたいし、破格ともいえる環境性能を記録
試乗車の328iに搭載された4気筒ユニットは2リッターの排気量ながら、直噴&ツインスクロールターボのデバイスがくわえられ、最高出力は245psを発揮。エンジン&変速マネジメントやスロットル開度、パワーステアリングアシスト量などをセンターコンソールのボタンひとつで統合制御するダイナミック・ドライブ・コントロールには、1シリーズと同様、電装品やエアコンの稼働までも効果的にセーブし燃費を絞り出すエコプロモードが設けられる。これにスタート&ストップシステムもくわわって、8段AT仕様のCO2排出量は147g/km。250km/hの最高速や6.1秒の0-100km/h加速といった動力性能と同居する数字として、これは直接のライバルにたいしても破格といってもいいだろう。
単に衝突安全要件の対策やルックスの問題だけでなく、後にハイブリッド用のリチウムイオンバッテリーや、ユーロ6対応ディーゼル用の尿素SCRシステムといったデバイスを搭載するスペースを稼ぎ出すべく、新型3シリーズの全長は95mm、ホイールベースは50mm、先代にたいして伸ばされた。トレッドにかんしても前37mm、後47mmと大幅な拡大をみている。現物を目にするとずいぶん立派になった印象を受けるのは、そのトレッドを包み込むための意匠によるところが大きい。現に実寸での全幅は1,811mmと先代と同様で、日本仕様にかんしてもドアノブなどを専用設定として1,800mmで導入されるというから、タワーパーキングなどのインフラにも充分対応できるコンパクトさは健在となる。
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2012年の輸入車市場における台風の目──新型3シリーズに試乗(3)
乗り心地、静粛性が大幅に進化
今度の3シリーズには、これまた1シリーズと同様で「スポーツ」「ラグジュアリー」「モダン」と、テーマにおうじて調度された3つの内外装トリムラインが好みで選択できるパーソナライズシステムも用意されている。おもに試乗した328iは19インチの前後異寸タイヤを履く「スポーツ」だった。
走り出してまず驚かされるのは、乗り心地や静粛性といった快適さが従来型にたいして大きな進化を遂げていたことだ。路面の凹凸をきれいに丸めながら転がる感覚はヒタヒタという言葉を使ってもいいほどになめらかで、フラットなライドぶりも申し分ない。ワインディングを気持ちよい速度で流してみても、適度なロール感とともにギャップを寛容にいなしながらピタリと安定した挙動をみせる。この点においては併せて乗った18インチタイヤを履く「モダン」でも大きくは変わらず、明らかにシャシーの側で充分なダンピングが得られていることがわかる。
それでは、BMWの持ち前ともいえるスポーツカーにも匹敵するシャープなハンドリングはどうなったのか。今回の試乗は、カタルーニャ・サーキットの本コースを用いての全開走行もふくまれていた。しかも公道試乗とおなじ車輌を用いての……というところに、あたらしい3シリーズの運動性能とともにタフネスぶりも感じ取ってほしいという彼らの狙いが垣間見える。
ダイナミック・ドライブ・コントロールを、もっとも敏捷性を高めるスポーツプラスモードにセットしてみても、コース上でうかがえるのは、操作にたいする車体の動きが、まるでレーシングカーのように鋭かった前型にたいし、まろやかにしつけられているということだ。ロールにたいする考え方は明らかに許容側に振られていて、タイヤをしっかりと路面につけながら粘り強くコーナーを捉えていることがわかる。コーナリング中の安定性の要となるリアサスの踏ん張りも見事で、姿勢はやすやすとは崩れない。努めてニュートラルなハンドリングをキープしようという点においては前型も相当なものだったが、新型ではそこに動きのしなやかさがたっぷりとくわわったことがわかる。そしてその所作は、単にステアリングによる舵角の入力だけでなく、クルマの四肢を使って曲がっているというある種の生なましさをもってドライバーへと伝わってくる。
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日本導入は来年春を予定
かといって、曲がりの反応がもっさりしているということはまったくない。むしろ、ねっとりと粘り抜いた挙げ句に次のコーナーへとアプローチする際の切り返しなどは、柔道でいうきびすを返したかのような軽妙さが味わえる。このあたりの見事な身のこなしは、4気筒化もふくめての重量低減も一助しているのだろう。
その4気筒エンジンのフィーリングも、懸念は杞憂に過ぎなかった。
わずか1,250rpmで最大トルクを発生するというそれは、8段ATのワイドなギアリングも手伝って、ごく低回転域からでもギアのポジションを気にさせないほどの力強い押し出しをみせる。いっぽうで、ピークに向けてのパワー感は半ばでタレることなく上りつづけ、7,400rpmのレッドゾーンまでスッと綺麗に吹け上がるなど、その味つけは数多の4気筒ターボと比しても充分にスポーティなものだ。さすがに6気筒のように心地よいサウンドを奏でるにはいたらないが、先述したとおり、ノーズの軽さを利しての自在かつ上質なハンドリングがBMWのあらたな官能性としてくわわったとみれば、結果オーライとすべきだろう。
あたらしい3シリーズの日本導入は意外とはやく、来春早々を予定しているという。もちろんプレミアムDセグメントにおいてだけでなく、2012年の輸入車市場においても台風の目となることはまちがいない。
BMW 328i|ビー・エム・ダブリュー 328i
ボディサイズ|全長4,624×全幅1,811×全高1,429mm
ホイールベース|2,810mm
エンジン|2.0リッター直列4気筒
最高出力|245ps(180kW)/5,000-6,500rpm
最大トルク|350Nm/1,250-4,800rpm
燃費|6.4ℓ/100km
CO2排出量|149g/km