上海モーターショー2019 プロダクションカー編|Auto Shanghai 2019
CAR / FEATURES
2019年5月16日

上海モーターショー2019 プロダクションカー編|Auto Shanghai 2019

Auto Shanghai 2019|上海モーターショー 2019

上海モーターショー2019 プロダクションカー編

“白鳥”に変わる瞬間を見た

4月末に開催された上海オートショー2019は、巨大な自動車市場である中国において、北京と隔年で交互に開催される中国最大のモーターショーであり、国内メーカーはもとより国際ブランドも熱い視線を注ぐ。今年も、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏が現地取材を行い、その様子を2回にわけて総括する。第1回はプロダクションモデルを中心にリポート。

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Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA

レクサス初のMPV登場

第18回上海モーターショーが2019年4月25日に終了した。ワールドプレミアは129台、電動車を中心とした新エネルギー車76台、そしてコンセプトカー76台が展示され、来場者99万3千人を迎えた。

参考までにお伝えすると、1カ月前のジュネーブショーの入場者数は60万2千人だから、その1.6倍が訪れたことになる。

米国との貿易摩擦で経済成長率が鈍化する中国であるが、依然自動車への関心が窺える数字だ。中国語でいうところの「円満閉幕」である。

今回はプロダクションカーと、生産を前提としたコンセプトカーを中心に紹介しよう。

Lexus LM

Lexus LM

日本のメディアでも話題になったレクサス初の高級MPV「LM」は、中国と一部のアジア地域で発売される。写真でご覧いただくとおりベースとなっているのは、トヨタ「アルファード/ヴェルファイア」である。

エクステリアでは、ハイ/ロービーム一体型LEDヘッドライトと "L"デイタイムランニングライト、スピンドルグリル、さらにサイドの「L」クロームトリムなどで、アルファード/ヴェルファイアとの差異性を強調している。ボディカラーはブラックとパールホワイトの2色が設定されている。

ただし、シートはアルファード/ヴェルファイアが7-8人分なのに対して、LMはわずか4席だ。サスペンションも他のレクサスに搭載されているスイングバルブダンパーが採用されている。

後席と前席はグラスウィンドウで仕切られている。室内で即座に目に入る26インチディスプレイは、スマートフォンやタブレットなどが接続可能で、ブルーレイディスク再生もサポートしている。サウンドシステムはマークレビンソンの特別設計による19スピーカーが奢られている。容量14リッターの冷蔵庫は、2本のシャンパーニュやワインが収納可能だ。

Lexus LM

Lexus LM

レクサスによると、中国におけるLMは同ブランドのグローバル戦略における中国市場の重要性を強調するだけでなく、中国の消費者により多くのぜいたくと、ぜいたくな旅行体験をもたらすという。

レクサス インターナショナルの澤良宏プレジデントはリリース(原文は中国語)で「中国市場の急速な発展に伴い、今日の消費者はより高い品位を求めている。彼らは、もはや自動車が単なる輸送手段としての機能を果たすだけでは満足しない。代わりに、より広いスペース、優雅なテイスト、そして究極の快適さを期待している。 LMは彼らのために特別に設計されたニューモデルであり、仕事、レジャー、娯楽を共にし、心地よい温度の中、集中する時間のインスピレーション空間である」としている。

レクサスの中国マーケティングディレクター、陳忱氏によると、中国のレクサスユーザーは、間もなく100万人を超えるという。LMは従来のレクサス オーナーにも魅力的に映るに違いない。

同時に中国・アジア地域で拡大するライドシェアビジネスにも、こうした高級MPVは訴求力があるだろう。これまで軽自動車と並んでガラパゴス自動車市場 日本の典型だったミニバンが海を越えて評価されようとしているのは一種痛快であるまいか。

Auto Shanghai 2019|上海モーターショー 2019

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“白鳥”に変わる瞬間を見た(2)

果敢に取り込むパワー

中国で外資合弁系メーカーが狙う、次なるマーケットを端的に示したくれたのはフォルクスワーゲングループだ。彼らは今回の上海で新ブランド「ジェッタ」を発表した。

詳しい人ならご存じのとおり、ジェッタとは2ボックスの初代ゴルフをベースに1979年に誕生した3ボックスセダンに端を発する。最新の7代目ジェッタは、メキシコと中国で生産されている。

今回のジェッタは、そうした40年の歴史をもつ「フォルクスワーゲン ジェッタ」とは別に、新ブランドとして設定されたかたちだ。フォルクスワーゲンと長年にわたるパートナーである中国第一汽車で製造される。

Jetta VS5

Jetta VS5

マーケットに関して、メーカーは人口100万人以上の中国都市を挙げる。そうした街の多くにおいて、クルマの普及はより規模が大きな北京や上海といった都市よりかなり遅い。だが、同時に着実に増えているミドルクラス層は、個人のモビリティとして、これから自動車を初めて購入する意欲がある。ジェッタは、そうした若いカスタマーたちがターゲットという。

運転席に座ってみると、ドアポケットのプラスチックの縁など、やや粗い加工が目立つ。しかし思えば、初代フォルクスワーゲン ビートルの内装など、たとえ1970年代に入っても同程度のものであった。そうした意味では原点回帰の潔さが感じられる。

Xiaopeng G3

Xiaopeng G3

“テスラ キラー”と称される中国系スタートアップも数々見ることができた。好例は、広州をベースとする新興EVブランド、小鵬(シャオペン)と、彼らがリリースしたSUVタイプの電気自動車「G3」である。

スマートフォンアプリとの高度なコネクティビティ、インタラクティブ式ボイスコマンド、テスラを思わせるセンターコンソールの大画面ディスプレイに加え、PM2.5を意識した空気清浄システムもアピールしている。ベース価格は22万7800元(約378万円)だ。

最高なのは、ルーフ上にポップアップするデバイスだ。何のためかといえば、その答えはカメラ。車両の周囲の映像を撮影し、ネット上でシェアできる。「だから何だ」といえばそれまでのギミックだが、欧米車が考えないエンターテインメントをプロダクションカーへ果敢に盛り込んでしまうパワーには脱帽する。

BYD e2

Zotye A16

デザインも、BYDのヴォルフガング・エッガーにみられるように、外国人デザイナーの重役起用を進めた結果、驚くべき進歩を遂げている。かつて“コピー車”で苦笑を買った衆泰(ゾーティエ)も、MG英国デザインセンターのダイレクターだったアントニー・ウィリアムズ-ケニーを2018年9月にスカウトした。

次に上海で開催される2021年の展示車には、話題の次世代通信規格「5G」が、欧米のショーに先駆けてデフォルトで搭載されているに違いない。

デザインしかり、テクノロジーしかり。中国の自動車産業が、みにくいアヒルの子から白鳥に変わる瞬間を見た——そうしたニュアンスさえ浮かぶ、2019年春の上海であった。

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