上海モーターショー2019 コンセプトカー編|Auto Shanghai 2019
Auto Shanghai 2019|上海モーターショー 2019
上海モーターショー2019 コンセプトカー編
ゲームチェンジャー
4月末に開催された上海オートショー2019は、巨大な自動車市場である中国において、北京と隔年で交互に開催される中国最大のモーターショーであり、国内メーカーはもとより国際ブランドも熱い視線を注ぐ。今年も、イタリア在住のジャーナリスト、大矢アキオ氏が現地取材を行い、その様子を2回にわけて総括する。第2回はコンセプトカーを中心にリポート。
Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA
アバターとドライブ
上海国際モーターショー2019が4月16日から25日まで開催された。同ショーは今年で隔年開催で第18回。毎年開催という違いこそあれ、前月開催されたジュネーヴが第89回であったのからすると、依然若いショーであることを実感する。
筆者自身をいえば、中国取材は早くも9年目となるが、これまでプレスセンターに足を踏み入れる機会がなかった。今回初めて訪れ、そこにいるジャーナリストたちの若さに気がついた。欧州のショーでは近年、自動車ジャーナリズムの衰退を反映して高齢記者が目立つ。それからすると実に対照的であり、再び自動車新興国のショーであることを感じた。
コンセプトカーの話をしよう。ピニンファリーナ、ジョルジェット&ファブリツィオ・ジウジアーロ率いるGFGスタイル、そしてイコーナといったトリノのデザインハウスが一堂に参加したところは、彼らのクライアントである中国メーカーへの期待が継続していることを感じさせる。とくにピニンファリーナは、トリノ・上海各スタジオの新作を、別々の現地メーカーとのコラボレーションで披露した。
なお、メーカーではルノーがショー直前に世界で6番目のデザインスタジオを上海に開所した。独・米ブランドからするとかなり遅めの進出だが、いまでもこの巨大市場に向けたデザインの模索が続いていることを示している。
中国メーカーのコンセプトカーでは「CASE(=コネクティビティ、自動運転、シェアリング、電動化)」のいずれかが、もはや“デフォルト”といってよい。
まずはC(connectivity)。一汽のプレミアムブランド「ベスチューン」の「E2コンセプト」では、車内にあたかも恋人や家族のごとくアバターが現れ、外部との“つながり”をアシストするデバイスが提案されている。2019年1月にラスベガスCESで日産が提示したものに近いが、その果敢かつ素早い取り組みに脱帽する。
A(autonomous=自動運転)は、ほぼすべてのコンセプトカーで想定されている。
S(sharing)を目指したモビリティもいくかつみられた。東風によるその名も「シェアリングバン」は、第一印象がトヨタのCES2018出展車「e-Palette」に見えるのが惜しい。ただし、河北省ですでに計画されている巨大自動運転都市にみられるような政府の強力なバックアップがある国だ。日本の研究を早いうちに追い越すことも充分考えられる。
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上海モーターショー2019 コンセプトカー編
ゲームチェンジャー(2)
ポストSUVを探る
上海ショーは北京とともに、この国の自動車トレンドを常に提示してきた。
たとえば2013年は欧州ブランドによる中国市場専用ロングホイールベース、2015年はSUVが全開となり、そして前回の2017年は現地メーカーのプレミアムブランドが雨後の筍のように現れた。
次のトレンドは何か?
「SUVはすでに飽きられ始めている」と語るのは、奇瑞汽車系のプレミアムブランド「クオロス」の現エクステリアデザイン部長、黄永誠(ファン・ユンチェン)氏である。過去にピニンファリーナにも在籍した彼が今回提案したのは、シューティングブレーク「マイルII」だ。
黄氏は「フロントを斜めから眺めると、高いショルダーラインのおかげでセダンに見える。ところがサイドに回り込むに従いクーペ状になり、最後にリアに視線を移すとシューティングブレークであることが分かる」と、筆者に熱っぽく解説した。その絶妙なトランジションは、従来の同様のボディ形状より明らかに高度な造形だ。プロダクションカーにどこまで再現できるか、お手並み拝見といきたい。
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上海モーターショー2019 コンセプトカー編
ゲームチェンジャー(3)
マスクに見る予感
いうまでもなく、E(electrify=電動化)もお約束だ。コンセプトカーのほぼすべてがEVであった。その電動化にちなんで、もうひとつデザインに関して記しておこう。
ドイツ系ブランドのEVは、メルセデス・ベンツ EQのような量産車はもとより、今回フォルクスワーゲンが公開した「ID.ROOMZZ」のようなコンセプトカーに至るまでラジエターグリル風ガーニッシュをフロントに備えている。
ラジエターグリルは不要なはずなのに、である。
そもそも内燃機関車も冷却効率向上により、1980年代には巨大なフロントの開口部は必要なくなっていた。にもかかわらずラジエターグリル風のパネルが継承されたのは、自動車先進国の人々にとって長年グリルの大きさ・立派さは高級車のバロメーターであったためだ。そうした慣習を打破すべく初代インフィニティ「Q45」のように大胆にもグリルレスに挑戦した高級車もあったが、成功例は数少ない。同車も後期型から、いきなりグリルが付加された。
対して中国独自ブランドの最新コンセプトカーは、上海汽車系のブランド「ロエヴェ」の「ヴィジョンI」をみればわかるように“グリルの呪縛”にとらわれていないものがみられる。西洋的自動車史とは別の、これまた若いデザイン感覚。中国の自動車はカーデザイン カルチャーという意味でも、もはやゲームチェンジャーになる可能性を帯び始めた。