マクラーレン オートモーティブ  セールス&マーケティング 責任者にインタビュー|McLaren
CAR / FEATURES
2017年7月3日

マクラーレン オートモーティブ セールス&マーケティング 責任者にインタビュー|McLaren

McLaren|マクラーレン

スポーツカーメーカーの矜持、マクラーレンの描く未来像とは

東京や名古屋、大阪、福岡と積極的に日本でのディーラー展開を行っているマクラーレン。このたび名古屋のショールームとサービスファクトリーがリニューアルオープンした。それを機にマクラーレン オートモーティブ グローバル セールス&マーケティング エグゼクティブ ディレクター、ジョリオン・ナッシュ氏が来日。彼はCEOのマイク・フルイット氏の直下でグローバルのセールスおよびマーケティングを統括している人物だ。そこで、マクラーレンの現状や今話題の電気自動車や自動運転などについて話を聞いてみた。

Interview & Photographs by UCHIDA Shunichi

大きな伸びを見せる日本市場

―― 現在マクラーレンは積極的に日本市場でディーラー展開をしています。そこで、本社から見て日本市場の特徴を教えてください。

ジョリオン・ナッシュ氏(以下敬称略) そうですね。日本市場は昨年179台を販売し、前年比198パーセントの伸び(2015年はJAIA調べで90台の実績)を示し、急成長しています。日本はアメリカ、イギリス、中国に次いで4番目の市場です。

この伸びの最大の要因はスポーツシリーズの導入にあります。2015年に導入したスポーツシリーズは、2016年に初めて通年で販売をしました。スポーツシリーズはスポーツカーセグメントの価格帯で、スーパーカーを買えるところが魅力となっています。

もうひとつのポイントは、スポーツシリーズのお客様のうち、75から80パーセントが初めてマクラーレンを購入したユーザーなのです。

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マクラーレン スポーツシリーズの最新モデル「570S スパイダー

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スポーツシリーズの中でもエントリーモデル「540Cクーペ

―― その新規流入ユーザーはどういったセグメントやクルマからの乗り換えが多いのですか。

スポーツカーセグメントのほぼ全てのメーカーからいらしていただいています。アストン・マーティン、ポルシェ、アウディ、メルセデス・ベンツなどが挙げられますが、フェラーリやランボルギーニからのお客様もいらっしゃいます。全体の傾向としては、とりわけドイツブランドのお客様にマクラーレンをお選びいただいています。

特にポルシェユーザーにとってマクラーレンは、初めて代替してもいいかなと思っていただけるクルマのようです。これまで代替車両としてポルシェのライバルは存在しなかったのですが、スポーツシリーズが登場したことにより、ポルシェのお客様に真剣に買い替えを検討していただいています。特に911シリーズでもコアなモデルである、「ターボ」、「ターボS」、「GT3、GT3RS」などのユーザーがその傾向が強いようです。

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スポーツカーメーカーの矜持、マクラーレンの描く未来像とは (2)

マクラーレンはSUVを作らない

―― 近年フェラーリを除くさまざまなハイパフォーマンスカー、ラグジュアリー カーブランドがSUVモデルを投入していますが、マクラーレンとしてはこれをどう受け止めていますか。

確かにSUV市場は成長セグメントで、ブランドが許すのであればそこにいかない理由はありません。例えばベントレーはすでにベンテイガを導入しており、ベントレーにとってその判断が正解であれば、ロールス・ロイスもSUVを手がけるころになるでしょう。ただしスーパーカー、スポーツカーメーカーとしてはいかがなものかという気がします。

SUVというのは、ライトウェイトでもなければハイパフォーマンスでもありません。ということはマクラーレンのコンセプトとは合わないのです。また、現在ほぼ全てのクルマが効率を意識していますが、SUVはもともと効率とはかけ離れたところにいますよね。もちろんお客様がそれを購入するのを我々は止めることはできませんが。

つまり、マクラーレンというのは、 軽量のハイパフォーマンススポーツカー、あるいは軽量のハイパフォーマンススーパーカーメーカーです。そしてラグジュアリーでなければなりません。従ってSUVを作る気はまったくないのです。

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ベントレー初のSUV「ベンテイガ」

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ロールス・ロイスも「プロジェクト カリナン」としてSUVモデルの開発を行っている

―― では、自動運転についてはどう考えていますか。

我々にとってのテクノロジー、あるいはイノベーションというものは常にドライビングエクスペリエンスを増強してくれるものであることがひとつの条件です。そう考えると自動運転というのものが果たしてドライビングエクスペリエンスをさらに増強するものであるのかどうかは十分に検討する必要があります。

一方、市場によって自律走行のうちの一部の機能が義務付けられることになった場合は、我々もそれについては改良しなければならないと思ってはいます。

少し極端な例を考えてみましょう。将来的にテクノロジーや法規がそれを許すとして、今、東京の市街地にいてマクラーレンに乗っている。ピピっと入力をして富士スピードウェイまで市街地を抜けて、高速道路を通って自動運転で行きましょう。そして、富士スピードウェイについたらオートを解除してドライバーが自分でサーキットを走る。そういうことは考えられると思います。

しかし、個人的にはそういうの時代は来てほしくないと思ってはいます。というのもマクラーレンのお客様は、ドライビングするという行為、そのスリルを求めてマクラーレンを買っているのです。もしこれが自動運転になってしまったら、単なる移動手段になってしまうでしょう。そうなってしまったらマクラーレンを買わずにむしろ公共交通機関を利用してもらったほうがいいのかなという気もしてしまいます。

せっかくですから、電気自動車のお話もしましょう。自動車業界は、早晩、電気自動車の方向に向かうのは間違いないでしょう。そこで、マクラーレンが電気自動車を作るとしたら、どういうものがふさわしいかを考えねばなりません。まずは、電気自動車のスーパーカーはエモーショナル性があるか。そして、ドライバーが積極的に運転に関わることができるクルマかということです。つまり、現代のマクラーレンを運転した時と同じように五感に訴えてくるか。そこがポイントなのです。

もうひとつバッテリーの問題もあります。航続距離とパワーを両立したものは現在ないのです。そこで我々はプロトタイプを作り、電気自動車はどのようにしたらスーパーカーになるのか、スーパーカーになる可能性があるのかを探っていきたいと思っています。

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スポーツカーメーカーの矜持、マクラーレンの描く未来像とは (3)

戦前のコーチビルダーの時代が到来!?

―― さて、マクラーレンではMSO(マクラーレン スペシャル オペレーション)という、いわゆるパーソナライゼーションが存在し、日本では2割ほど利用されています。他のラグジュアリーブランドでも注力しているこのような個別のお客様対応、パーソナライゼーションは今後マクラーレンにおいても重要になってくるとお考えですか。

重要というよりも必須なレベルです。現代のラグジュアリー市場のお客様は、パーソナライズすることが必須です。つまりMoney can buyの精神、お金で買えるものは何でも買ってしまうということです。自分の“指紋”、自分の手形を自分のクルマに残したいというのが現在のお客様の精神だと思います。

お客様は自分のクルマを差別化したいと考えています。そこで、MSOの人気が急激に高まっているのです。

今のラグジュアリー市場は、1920年代や30年代に回帰しているように思います。この時代はいわゆるコーチビルダーの世界ですよね。その辺りに戻りつつあるような気がします。

―― そうするとお客様が独自で思い描いたデザインをマクラーレンにオーダーすることは可能なのですか。

まずは十分な資金があることが必要です(笑)。お金が必要というのは、マクラーレンが儲けようということではなく、現代流のコーチビルドをするとすれば、しっかりとした安全性が確保できるのか、あるいは環境対策は大丈夫なのかなどをワンオフで精査していかなければいけないので、当然ながらお金がかかってしまうのです。

2013年にマクラーレン「X-1」というクルマを登場させました。これはお客様のオーダーに従いMSOで作ったワンオフのクルマです。基本は「12C」ですが完全に新しいボディに生まれ変わっています。こういうことがMSOでは可能なのです。もちろん大きな投資にはなりますが。

X-1は1930年代の古き良き時代にインスパイアされたデザインで、こういうのもパーソナライゼーションとしてありなのです。

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―― マクラーレンにとってパーソナライゼーションがワンオフを含め可能だということはとてもよくわかりました。では、マクラーレンブランドのイメージを大切にするために、制限を設けることはありますか。

まず、MSOでどこまでできるかですが、それは“お客様のイマジネーション”がその限界だという言い方をしておきましょう。基本的にはパフォーマンスに影響が出てはいけませんし、また安全面で何か支障があっても絶対にダメです。このふたつさえ守ってもらえればあとはお客様次第です。例えばお客様が何かデザインを持ち込んだ時に、いやーこれはないな(と顔をしかめながら)ということはいいません。お客様がOKであれば我々はそれを作るでしょう。

―― それではパフォーマンスや安全面で影響がなければSUVでも作りますか。

うちのプラットフォームに合うかどうかですね。まずはそこが問題です。

MSOは通常、お客様が何か図面を持ってきてこれを作ってほしいということはありません。お客様とMSOのデザイナーが膝を突き合わせて相談します。お客様の話に耳を傾け、何からインスピレーションを得たのかなどを聞き出します。そして我々からこんなデザインはどうかと提案するのです。その後、どんどん修正しながらお客様のアイデアに近づけていくというイメージです。

また、カラーについてのオーダーも多いです。今ちょうどそのクルマを当社のファクトリーで作っているのですが、お客様が花を一輪持ってきて、この花と同じ色に塗ってくれというオーダーでした。

またお父さんと息子で、「P1」を1台ずつ持っていて、まず1台をアイルトンセナのヘルメットの感じで作ってほしい、もう1台をプロストの感じで作ってほしいというオーダーもありました。このようにMSOはさまざまな可能性を実現しているのです。

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ラインナップは増えるかも

―― 少しラインナップについてうかがいます。現在、アルティメット、スーパー、スポーツと3つのラインナップを持っていますが、今後増やす、あるいは減らすということはありますか。

減らすことはありません。もしかしたら増やすという可能性はあるかもしれませんが、まだ、ターゲットを含め残念ながらそれには明確に答えられません。

―― それでは2022年までに期待をしてもいいですか。

Truck22の時代の中でこのプロダクトシリーズがどのような方向に発展していくか、その方向性は見えると思います。

―― 最後にあなたにとってマクラーレンとはどういう会社ですか。

素晴らしい仕事の場だと思います。グローバルブランドのセールスとマーケティングを統括する立場におり、そして、製品戦略についてもその意思決定に関われる立場という、素晴らしいとポジションにいると思います。

そして、私はクルマが好き、運転することも好きで、マクラーレンに入社してからサーキット走行のライセンスも取得しました。スポーツカー好きにとってマクラーレン以上の仕事の場というのはあるのでしょうか。

           
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