ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る| ROLLS-ROYCE
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2014年12月11日

ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る| ROLLS-ROYCE

Rolls-Royce Phantom|ロールス・ロイス ファントム

これが世界最高級のサルーン

ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る

ジュネーブ国際モーターショーにて、マイナーチェンジをうけ、シリーズIIとなってデビューした、ロールス・ロイスのフラッグシップモデル「ファントム」。ロールス・ロイスの最高級、ということは、いってみれば世界最高級のサルーンだ。その「ファントム シリーズII」の、報道陣向け試乗会が、さきごろ南仏ニースを舞台に開催された。

Text by OGAWA Fumio

大きく変わらない姿

「時間を超越した魅力を持つクルマ」と本社の広報部長が定義するファントム。シリーズIIと対面しても、大きな変化は見つけられない。

「顧客がそれを望んでいるからです。私たちがおこなった顧客を対象にしたアンケートで、多くのひとがファントムにはあまり変わってほしくない、と願っていらっしゃったので、今回は洗練性を高めることに腐心しました」

戦前から現在にいたるまで、欧米の俳優やミュージシャンに愛されてきたという高級ホテル、ル・キャップ・エステルの庭で実車を前に、ロールス・ロイスの開発陣はそう語るのだった。

いま、ファントムのファミリーは、大きくいうと、「サルーン」と呼ばれる4ドアセダンと、「クーペ」と呼ばれるプライベートユーザー向けの2ドアとに分かれる。さらにサルーンには、3,570mmものホイールベースを3,820mmにまで延ばした「エクステンデッド ホイールベース」と呼ばれる仕様がある。いっぽう、サルーンが5,842mmもの全長を持つのにたいして、3,320mmのホイールベースに5,612mmと比較的コンパクトなボディを載せたクーペには、電動でトップが開閉する「ドロップヘッドクーペ」もくわえられている。

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今回のマイナーチェンジでは、ギアが8段になり、リヤディファレンシャルも変更。これによって燃費は10パーセント向上したそうだ。さらに、ボディ各所に手がはいり、「シャシーをしっかりさせた」(開発担当責任者)のが特徴だ。くわえて、ヘッドランプの意匠とともに、リアバンパーの形状も変更された。ボディ側面のコーチランプとRRと書かれたエンブレムが一体化されたのも、今回のシリーズIIの特徴だ。

Rolls-Royce Phantom|ロールス・ロイス ファントム

これが世界最高級のサルーン

ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る(2)

ドライブの楽しさはファントムにもある

試乗したのは、サルーン(標準ホイールベース仕様)と、ドロップヘッドクーペ。フレンチ リビエラと呼ばれるル・キャップ・エステルからなら、バス・コルニッシュと呼ばれる海岸沿いの道をモナコまで行って、また引き返してせいぜいコートダズール空港ぐらいが試乗コースだろう──と考えていた。

ところが、ロールス・ロイスが用意したコースは400km近い山岳路。丘の上から地中海を遠くに眺めるレストランでのランチをはさみ、コースを変えて、快適性の強いサルーンと、どちらかといえばスポーティなクーペとをそれぞれ楽しめるようになっていた。

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現在ロールス・ロイスのラインナップには、3,295mmのホイールベースに5,400mmの4ドアボディを載せた「ゴースト」がオーナードライバーのために存在する。つまりファントムは、自分でステアリングホイールを握るというより、後席を選ぶべきクルマだ。もちろん、そこはすばらしい場所だ。シートの材質、ドア内張りのウッドの種類、そして外部の眼からさえぎってくれるカーテンにいたるまで、好みで自分の居心地のよい場所をつくりあげることができるのだから。

ただしそのいっぽうで、ダイナミックパッケージとよばれ、シャシーに補強を施したモデルもファントムには準備されている。「ドライブの楽しさはファントムにもある」とロールス・ロイスでは語るのだった。

Rolls-Royce Phantom|ロールス・ロイス ファントム

これが世界最高級のサルーン

ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る(3)

夢のクルマだ

ファントム シリーズIIのサルーンを運転したときの魅力は──アルミニウムを多用しているとはいえ、2,560kgにおよぶ車体による重厚な乗り心地がまずあげられる。21インチという巨大なタイヤを履いていても、ゴツゴツ感はいっさいない。どんな路面でもフラットライドというべき、乱れない乗り心地は、すばらしいものだ。これは後席にひとを乗せるクルマの真骨頂。

しかしハンドリングもすぐれている。BMWが全体をみているだけあって、「ドライブの楽しさはファントムにもある」とさきに開発陣が胸を張ったのは事実だと、運転してすぐわかった。やや細巻きのステアリングホイールと車体との関係は良好。反応速度は速く、スポーティなクイックさはないが、ドライバーの意思に忠実に車両は動き、ゆえに6mになんなんとする車体の大きさを感じさせない。

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ニースの奥の山岳地帯は、狭い道が多い。日本とちがってガードレールはなく、高さ10センチ程度の石が並べられて、その下は崖であることをしめしている。対向車が来ると、思い切り減速してすれちがわなくてはいけない個所も多い。ファントムはそんな場所よりモナコのカジノあたりが似合いそうなクルマだが、運転している身にとってはけっして「場ちがい」の印象はなかった。

みごとに制御されたサスペンションと、正確なステアリング、それにわずかなアクセルペダルの踏み込みに即座に反応して加速する720Nm/3,500rpmの超強大な最大トルクをもつV12。そのコンビネーションが、じつに気持ちよくクルマを走らせる。乗ったモデルがダイナミックパッケージといって、フロントにクロスメンバー(補強材)を入れて、シャシーのねじれを補強した仕様だったせいもあるだろうか。くいくいと曲がり、力強く加速する。

直立に近いような角度のバックレストを持つ後部座席も、他車にはない特長で、太いピラーが外界からの視線をさえぎってくれる空間はすばらしい場所だが、運転席も捨てたものではない。ファントムに乗って家族で南仏を旅行することが夢とおもえるほど、そのドライブの内容は濃い。東京にも自分でステアリングホイールを握るオーナードライバーがいると聞くが、正しい選択といえる。

Rolls-Royce Phantom|ロールス・ロイス ファントム

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ドロップヘッドクーペとともに南仏の香りを楽しむ

ロールス・ロイスはユニークなクルマづくりの思想を持つ。マニュアルシフトを採用しないのもそのひとつだろう。減速はあくまでブレーキで。ならばスーパースポーツカーのようにセラミックブレーキを採用してもいいのではないかとおもうが、従来のブレーキの自然なフィールこそ、乗員に不快感を与えないというのがロールス・ロイスの哲学のようだ。坂道の下りではブレーキをそれなりに使うことになるが、けっしてフェードの兆候は見せなかった。

おなじことは、ドロップヘッドクーペにもいえる。こちらはサルーンよりホイールベースが短く、ボディもコンパクト。基本的にはふたり乗りというパーソナルな仕様で、かつハンドリングもよりスポーティに仕上げるため、フロントには最初からクロスメンバーが入っている。

ステアリングホイ-ルの径はサルーンより小さく、ドライバーズシートは多少タイトにつくられ、みずから運転をするひとのためのクルマだ。世界中から富裕層が集まるリビエラ海岸のようなところがよく似合う。インテリアにもヨットを連想させる合板を使うなど、雰囲気がぴったりだ。

挙動もサルーンより軽快で、加速のときの出足は速いし、ハンドルも切りはじめでボディの反応はより早い。オープンにしていると、潮の香り、樹木の香り、花の香り、さらにパンの焼けた香りなど、南仏の町を構成している、さまざまな匂いが気分をよくしてくれる。

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僕は以前、おなじクルマのシリーズIで、米西海岸の海岸線を、いまはしゃれたリゾートホテルも建つビッグサーを超えてずっとくだっていったことがある。それもすばらしい体験だったが、景色がどんどん変化する楽しさでいえば、南仏でのドライブに軍配を上げたい。

おなじファントムでもサルーンは葉巻のような渋い茶系の内装が、昔からの住宅や格式あるホテルのレセプションをおもわせて好感が持てるが、ドロップヘッドクーペはあくまでもオープンで走ることをベースに内装を選ぶことをメーカーでは勧めているフシがある。コートダズールの湾に停泊しているパワーボートは白いシートが美しいが、まさにそれと色合いを合わせてドロップヘッドクーペの内装を選ぶのが粋だ。この場所で試乗会を開いたわけがよくわかる。

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ただしドロップヘッドクーペは、スポーツカーとはちがう。タイトなコーナーではステアリングの復元力が弱いので、どうしても半回転ほど戻し遅れがちになるし、コンパクトといっても、5.6mの全長に2mの全幅のボディは大きいことにちがいはない。

ステアリング特性はほぼニュートラルだが、それでも小さなブラインドコーナーにはやい速度で飛び込んでいくのは躊躇してしまう。この点は、おなじクラスではないが、ベントレーの「コンチネンタルGT」などのほうが運転する楽しさが濃い。

Rolls-Royce Phantom|ロールス・ロイス ファントム

これが世界最高級のサルーン

ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る(5)

ファントムをつくる要素

南仏は、ロールス・ロイスのみならず、英国人や米国人にとって、特別なおもい入れのある土地のようだ。今回の試乗会を開催するにあたって、ロールス・ロイスでは「コートダズールは、(創設者のひとりである)フレデリック ヘンリー ロイスが別荘を持っていて、夏のあいだはロールス・ロイスのエンジニアたちを招いて、ここで新車開発のための討議を重ねた場所です」と説明した。ロールス・ロイスにも、コルニッシュをはじめ南仏の地名が車名として活かされているものがある。

ちなみにファントムやゴーストは、日本だと幽霊とかあまりぞっとしない名称におもえるが、英国では、「人間を超越したパワーを持つ存在」としてけっこうポジティブな意味があるという。19世紀の英国の小説家、チャールズ・ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』に出てくる3人のゴーストをおもい浮かべると、すこしはネーミングの妙が理解できるだろうか。

ロールス・ロイス ファントム シリーズIIで南仏を走る| ROLLS ROYCE

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クルマは総合芸術と言われるが、このように、南仏という土地、ブランドの持つヒストリー、文学作品など、さまざまな要素がファントムをつくりあげているのだ。親会社のBMWはそのことをよく理解している。外国の眼に映った英国ということか、ファントムは世界観が少しクラシックすぎるかもしれない。しかし、「必要にして充分なパワー」や、低い室内騒音と快適な乗り心地による粛々としたドライブなど、独自の価値を確立しているのは、深く感心する。

spec

Rolls-Royce Phantom SeriesII|ロールス・ロイス ファントム シリーズII
ボディサイズ|全長5,842×全幅1,990×全高1,638mm [全長5,612×全幅1,987×全高1,566mm]
ホイールベース|3,570mm [3320mm]
最小回転半径|6.9m [6.55m]
トランク容量|460リットル [315リットル]
重量|2,560kg [2,630kg]
エンジン|6.75リッター直噴V型12気筒
最高出力|338kW (460ps)/5,350rpm
最大トルク|720Nm/3,500rpm
最高速度|240km/h
0-100km/h加速|5.9秒 (5.8秒)
燃費|14.8ℓ/100km (約6.75km/ℓ)
CO2排出量|347g/km

※[]内はドロップヘッドクーペのもの

           
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