東京モーターショーに集結した、キーパーソンにインタビュー|CITROEN
CITROEN|シトロエン
シトロエン CEO リンダ・ジャクソン氏
シトロエンとは人びとをインスパイアするもの
DSラインがあたらしいブランドとして独立したいま、シトロエンはなにを目指すのだろうか。東京モーターショーに合わせてい来日したCEOのリンダ・ジャクソン氏に話を聞いた。
Text by OGAWA FumioPhotographs by ARAKAWA Masayuki
“ちがっていたい”ひとのためのブランド
東京モーターショーには、欧州のベストセラー、「C4カクタス」をもちこんだシトロエン。丸みを帯びたシェイプに、「エアバンプ」と呼ばれるゴムのよう樹脂がドアに貼り付けてある。キュートでかつ躍動的なスタイリングが目を惹く。しかし彼の地であまりに売れていて、なかなか日本に輸入されないのが残念だ。シトロエン車の魅力は、多様性にある。ミニバンを作っても、遊び心もあるし、独自の機能もある。ユーザー本位なのだ。
フランスのシトロエンから今回のショーに合わせて来日したのは、リンダ・ジャクソンCEO。2014年6月に就任し、DSが独立したブランドになったいま、プジョーをふくめて3つのブランドのあいだの舵取りが重要な仕事になっている。日本では販売ネットワークが評価に追いついていないと見ることもできるが、まだまだ伸びしろのあるブランドだけに、これからの日本戦略は大いに気になるところだ。
――これまで、トンガッたイメージでシトロエンのいっぽうの極を牽引していたDSラインが、あたらしいブランドとして独立したいま、シトロエンの戦略はどのようなものになりますか。
私はシトロエンの未来にポジティブです。2014年6月に、シトロエンとDSが切り分けられたのは、とてもいいチャンスだと思っています。“シトロエン”のブランディングに集中できますから。DSとで2つの方向に引っ張られることなく、本来の価値を顧客に伝えていくことに、いまは専念しています。
――シトロエンをどのようなブランドにしたいと思っていますか。
ひとことで言うと、“ちがっていたい”ひとのためのブランド。同時に“いい気分になる”ブランドです。ライバルが多い市場で戦うブランドですから、目立たなくてはならないというのが私たちの考えです。そこで見た目でも、他車とはちがう個性をもつ必要があります。それはなにかというと創造性。たとえばスタイルですね。C4カクタスには個性的なスタイルで、何にも似ていません。それがシトロエンにとって重要です。
――日本で売られている「C4ピカソ」や、「C4グランドピカソ」は、日本やドイツのミニバンとはちがう,独自の機能があって、そこは強みになるように思いますが。
スタイリングが、市場で成功するための第一の手段だとしたら、二番めは、機能性だと思います。そこには乗り心地もあるし、室内の作りこみや荷室の大きさなど日常的に使うなかで、シトロエンでなくてはと感じられる要素を重要視しています。たとえばC4ピカソは、シートアレンジの多様性や、スペース効率を考えぬいたモデルです。
――さきに「いい気分になる」という言葉が出ましたが、もうすこし詳しく説明していただけますか。
英語だと“feel good”と言っているのですが、べつの言葉だと”より楽ちんに生きられるように”となります。クルマだと、コネクティビティ、つまりワイアレスの技術と、多様なアプリを車内で使えるように、車内の機能とインフラストラクチャーを整備することです。それで日常生活でクルマの使い勝手をよりよくすることを狙います。あいにく通信がからんでいることなので、市場によって差が出てしまいますが。
シトロエンは、同時に、ヘリティッジを大事にすると言う。ハイドロニューマチックサスペンションの可能性もあるそうだ。
CITROEN|シトロエン
シトロエン CEO リンダ・ジャクソン氏
シトロエンとは人びとをインスパイアするもの(2)
現在も2CVやメアリを大いに参考にしている
シトロエンのリンダ・ジャクソンCEOは、現在、プジョーとDSというおなじグループ内でのブランドのあいだで、独自のブランディングを進めている。
――いま海外の自動車メーカーは、若い世代に自社のヘリティッジを理解してもらうことに熱心に取り組んでいます。シトロエンも、DSのほかに、「2CV」や「メアリ」という人気車種をいろいろもっています。これらヘリティッジをどう取り込んでいきますか。
シトロエンはパリにコンセルバトワール(保管庫)をもち、過去のモデルを100台以上保存しています。私がCEOに就任したさい、私のチームをそこに集めて丸一日過ごし、シトロエンとはなんなのかを、じっくり考えました。私たちは幸運なことに、世界中にファンをもっています。日本にも熱心なシトロエニストがいますよね。ブラジルにもいます。シトロエンとはなにか。ヘリティッジから学んだことは、人びとをインスパイアするもの、ということでした。
――2015年のフランクフルトの自動車ショーに、「カクタスMコンセプトカー」と名づけた、カクタスのオープンモデルを出しましたね。Mはメアリの頭文字だとか、この往年のモデルとの関連性が取りざたされました。なぜ、メアリなのでしょうか。
往年のメアリをまたつくる気はあるのかと訊かれたら、ノーと言うでしょう。1949年から82年まで生産した2CVについても、今後またつくる気はあるのかと訊ねられることがあります。私はこう答えます。あんないいものは二度つくれない、と。ただ、2CVにしてもメアリにしても、現在も大いに参考にしています。これらのオリジナルは、シルエットが個性を生むという大事なことを教えてくれました。街でシルエットを見かけただけで、すぐシトロエンとわかってもらえる。それが大事なのです。
――では、かつてのシトロエンの高級モデルの代名詞ともいえる油圧と窒素ガスによるユニークなハイドロニューマチックサスペンションについてはいかがでしょう。現行のラインナップでもはやこの仕組みをもったサスペンションは採用されていませんが、将来、同様のシステムが採用されることはあるでしょうか。
もちろん、ないとは言えません。可能性はつねにあります。シトロエン車にとって重要なのは、快適な乗り心地です。これからそこに強くフォーカスしていきます。そのためのあたらしい技術に前向きです。従来の電子制御と組み合わせたハイドラクティブ・サスペンションは高価すぎます。より安価で。ただし効果的な技術を開発し、すべてのモデルに採用していければ、あらたなキャラクターが作れるでしょうね。