ROLLS-ROYCE 102EX - PHANTOM EXPERIMENTAL ELECTRIC 試乗
ROLLS-ROYCE PHANTOM EXPERIMENTAL ELECTRIC|
ロールス・ロイス ファントム エクスペリメンタル エレクトリック
もっとも大型でもっとも豪華なロールス製EVに試乗(1)
ロールス・ロイス・モーター・カーズでは、さきごろ「102EX」別名「ファントムEE(エクスペリメンタル エレクトリック)」という、電気自動車の実証実験用モデルを発表。日本においても2011年9月30日に、東京・キャピトル 東急ホテルにおいて報道陣にお披露目された。
文=小川フミオ写真=荒川正幸
ロールスにとって電気自動車とは相容れる概念なのか?
ファントムEEの特徴は、従来の6.75リッターV12エンジンに代わり、電気モーターとバッテリーパックを搭載していること。
「超高級セグメントにおける世界初のバッテリー駆動電気自動車です」と、ロールス・ロイス・モーター・カーズ(以下RR)でコーポレートコミュニーケーション マネージャーを務めるハル・セルディン氏は、誇らしげに語る。
「RRは自動車の世界における最高のラグジュアリーを体現するクルマを製造しています。いっぽうで未来に目を向け、ブランドの長期的かつ持続的な成長をはかる必要性も認識しています。(電気自動車のような)代替ドライブトレインを調査・検討することは、そうしたプロセスの重要なステップだと考えています」
日本にもちこまれたファントムEE。これまでに欧州や中東をまわり、このあともアジアや欧州へ行き、そこの路上を走り交通状況や電磁波の影響などを調査するという。同時に、顧客やジャーナリストなどと接触し、「ロールス・ロイスというブランドにとって電気自動車とは相容れる概念なのか、意見を集めたい」(セルディン氏)とする。
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ロールス・ロイス ファントム エクスペリメンタル エレクトリック
もっとも大型でもっとも豪華なロールス製EVに試乗(2)
71kWhの総容量をもつリチウムイオンバッテリーを搭載
ロールス・ロイスのブランドロゴ「RR」は、1933年にそれまでの赤から黒に変更された歴史をもつ。変更理由について、車体の色とのマッチングのよさとか、創設者のひとり、エンジニアのヘンリー・ロイスの喪に服すためとか、諸説ある。ファントムEEの「パルテノン」と通称されるフロントグリルに刻まれたRRの文字は赤。ロールス・ロイスの実験車に与えられる色だ。赤いRRを掲げたロールス・ロイスはみな特別なモデルということになる。
ファントムEEも、外観はガソリンエンジン搭載のノーマルとなんら変わるところがない。しかし、フロントボンネットの下には、「乗用車に搭載されるバッテリーとしては世界最大」(RR)という、96個のセルで71kWhの総容量をもつリチウムイオンバッテリーが搭載される。
非接触式の充電方法も検討
リアには1基あたり145kWの出力をもつ電気モーターが2基とインバーター。合計して290kWの電気モーターの出力は、デフを介して後輪を駆動する。
充電に要する時間は、3相で8時間、単相で20時間とされている。同時に、インダクション充電といって非接触式の充電方法も検討されていて、地面に設置されたトランスファーパッドの上に車体を移動させると、車体がわのインダクションパッドが反応し、伝送パッドによって電力周波数を磁気的に連結するというもの。
ファントムEEで現在想定されている走行距離は、一回の充電で約200km。いっぽう静止状態から100km/hまで加速するのに要する時間は8秒以内と、パワーとエコノミーの両立が重要な課題のようだ。
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もっとも大型でもっとも豪華なロールス製EVに試乗(3)
800Nmという大トルクが、2.7トンの車体を軽がると動かす
ファントムEEの試乗は都内でおこなわれた。用意されたコースは、赤坂のキャピトル 東急ホテルを出て、赤坂見附から迎賓館の前をとおり、外苑前の銀杏並木まで。そのあと撮影のために、神宮外苑の周回路を数周することができた。
ファントムEEは、乗り込んでも、一見しただけでは従来のガソリン車との差異を見つけ出すのがむずかしい。白い文字盤に細い針が高級時計のような美しさを見せる計器類をたんねんに眺めると、バッテリー残量を示すメーターが、控えめにこのクルマの特殊性を語っている。
走り出しはスムーズ。車重は2.7トンというから、かなりのヘビー級だが、800Nmという最大トルクゆえ、重さはいっさい感じない。アクセルペダルの動きに敏感に反応して、全長5.8メートルの車体は、軽がると動く。
さらにペダルの踏み込み量を増やすと、今度は乗員にも明確にわかる力強さでそのまま加速にうつる。しかも無音で。この感覚がファントムに「EE」とつくゆえんだろう。そもそも静粛性が高く、圧倒的なトルクをもつファントムだが、電気自動車版は、その特長がさらに強調されているのが印象に残る。
「ガソリン車がそもそもウルトラスムーズだから、電気モーターを搭載しても、あまり印象は変わらない」と、と同乗したファントムEEの開発マネージャー、アンドリュー・マーティン氏に告げると、氏も笑いながら「そうかもしれない」と相づちを打つ。この印象が正しければ、ロールス・ロイスこそ、もっとも電気自動車化になじみやすいモデルかもしれない。
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もっとも大型でもっとも豪華なロールス製EVに試乗(4)
EVとブランドとの整合性をはかるべく、短時間で進められた開発
ファントムEEを開発するにあたって、よくある電気自動車のようにバッテリーパックを床下に収めるなどはしなかった。その理由として開発マネージャーのマーティン氏は、「そこに投資をするより、今回は、ロールス・ロイスと電気自動車の整合性を、市場がどうとらえるか、意見を集めるのが目的として、短時間での開発を目ざしたため」とする。
だからといって、やっつけ仕事のようなモデルでないことは、たとえばガソリン版とおなじ、51対49という重量配分が守られていることからもわかる。結果、操縦感覚はガソリン車とよく似ている。まあ、ファントムについては、良くも悪くもだが。というのも、ファントムの、すくなくともリムジンは、ドライバーズカーというより、ショファードリブンが向いている設定で、気持ちのよい感触の革で巻いた細い径のハンドルを握ったら、送りハンドルによる操作が基本。通常のセダンのように、えいっと大きく舵角をあてると、車体のロールも大きく、同乗者を不愉快にしかねない。それをあらためて認識した。