試乗|Bentley Mulsanne|ベントレー ミュルザンヌ
BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ
勝利を証す、ミュルザンヌの真骨頂(1)
ベントレーのフラッグシップになる、大型4ドアサルーンがミュルザンヌ。2010年春の日本国内発表を追いかけて、さきごろ試乗の機会が設けられた。気筒休止システムを採用した新設計の6.75リッターV8エンジンを搭載し、価格を3,380万円とする同車の試乗インプレッションをモータージャーナリスト 小川フミオがお送りする。
文=小川フミオ写真=荒川正幸
唯一無二のキャラをもつV8エンジンを搭載
「イギリスの自動車業界の頂点に立つ堂々とした、あたらしいベントレーを生み出すというコンセプトのもとにつくられたクルマ」と、日本法人であるベントレー・モーターズ・ジャパンが謳うミュルザンヌ。5575mmという威風堂々たるボディに、512psの最高出力と、1020Nmという強大なトルクをもつターボチャージドV8を搭載。スポーティな操縦感覚を追求するとともに、クラフツマンシップを見事に反映させたエレガントな仕上がりも特徴である。
1750rpmから1020Nmものトルクを発生する設定は、サイレントスポーツカーを標榜するベントレーならでは。近い出力をもつハイパフォーマンスカーはほかにもあるが、ここまでのハイトルクは類を見ないだろう。同時に、あらゆる回転域で洗練されたパフォーマンスを発揮するキャラクターをエンジンにあたえるのも命題だったという。さらに今回から環境適合性を高めるべく、気筒休止システムが導入されたのも注目点。高速巡航時などには4気筒が休止する。
「ドライブダイナミックコントロール」による柔軟なハンドリング
3266mmものロングホイールベースをもつだけに、後席空間は乗員にとって快適な場所だ。戦前の創立時よりスポーティなセダンづくりを目指してきた方向性をブランドの核としているベントレーでは、剛性感の高いシャシーに、エアサスペンションを組み合わせることで、快適からスポーティまで、広い範囲でドライバーの志向性にこたえるようなクルマづくりを目指している。
1台のなかにラグジュアリーからスポーティさまでを包含するための施策として、ベントレーが採用したのは「ドライブダイナミックコントロール」。ダンパーとステアリングの重さを4段階で制御するシステムだ。「コンフォート」は快適性重視、「スポーツ」はハンドリングがよくなり、「カスタム」はサスペンションやハンドリングの設定を任意で組み合わせられるもの。そして車両が状況におうじて最適に制御するのが「ベントレー」モード。ギアセレクター横のロータリースイッチで設定を変更することができる。
BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ
勝利を証す、ミュルザンヌの真骨頂(2)
精緻にデザインされた複雑なアウトライン
スタイリングは、過去のヘリティッジと現代的な洗練性を組み合わせたもの、とベントレーでは強調する。1930年代のモデルを彷彿とさせるDピラーからトランクにかけてのラインには、たしかな心配りがなされており、美しく融合している。同時に、丸型4灯のヘッドランプは、小さなLEDを環状に埋め込まれたインナーランプが、強烈な個性を醸しだしている。コンピューターを駆使して複雑なカーブを採り入れたこだわりのマトリックスグリルとともに、ほかのなににも似ていない最高級サルーンの特徴となっている。
インテリアは、ミュルザンヌにおけるまさに白眉ともいえる。シートの位置、ハンドルのポジション、セイフティベルトの高さなどからはじまり、サイドウィンドウのブラインドの開け閉め、お気に入りのラジオ局のプリセットなど個人情報をすべて記録させることができるキーシステムや、60GBのハードディスクドライブを備えたGPSつきナビゲーションシステム、それに8インチの大型マルチメディアスクリーンなど最新の装備を備える。
存在価値を主張する、荘厳なインテリア
そしてウッド、クローム、レザーをみごとに調和させたインテリアはまさにクラフツマンの技といった趣だ。磨かれるべきものは美しく磨かれ、柔らかくあるべきものはあくまでも柔らかく、といったぐあいに、手触りや視覚、さらに香りにいたるまで、丁寧につくりこまれている。触覚でいうと、あらたにガラス製スイッチが採用されるなど、人間の感覚を上手に刺激する最高級のもてなしが考え抜かれている。とくにシートのレザーは、クラシックベントレーのような伝統的ななめし製法によって、質感とつかいこまれたような風合いを出すことにこだわったとか。ひとつの革巻きハンドルを縫い上げるのに、熟練したクラフツマンがかける時間は、なんと15時間だそうだ。
それだけに乗り込んだときから、主張ある空間に圧倒される。「サイレントスポーツカー」を出自とするだけあって、ドライビングポジションは、脚を前に投げ出すような、スポーツカーライクなもの。ジャガーにも共通する、スポーツカー好きな英国らしさが息づいている。親会社のアウディではこの伝統を「よくわかっている」というべきか。
BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌ
勝利を証す、ミュルザンヌの真骨頂(3)
洗練された走りを実現する「気筒休止システム」
室内の静粛性の高さもミュルザンヌの特徴のひとつで、スターターボタンによって6.75リッターV8を始動させても、拍子ぬけするぐらい静かだ。走り出しても遮音が徹底しているため、その感覚は変わらない。ただし外から聞いていると、走行音はかなり迫力があるが。「ドライブダイナミックコントロール」で「スポーツ」を選択しないかぎり、ハンドルを切ったときの動きも穏やかで、ショーファードリヴンでも快適だろうと想像できる。
高速でのクルージングは動きもしなやかで、じつに快適。静粛の高さは前述したとおりだ。いつ半分の4気筒が休止して、いつまた“起きる”のか、注意していたが、移行はどうやらとてもスムーズで、感知するのはむずかしい。それだけ洗練されているということだ。いっぽう路面からハンドルへのフィードバックもそれなりに残され、パーシャルスロットルからの踏み込みへの反応も速く、ハイスピードクルージングを積極的に楽しむこともできる。
ヘビーな車体を快適にしたトルク
トルクは強大で、2585kgもある重量級の車体を動かすのにも、かったるさはいっさい感じさせない。さらにそれが驚きに変わるのは、「スポーツ」モードを選んだときだ。ハンドルへの反応がシャープになり、足まわりは硬く、ボディのロールが抑えられ、アクセルペダルを踏み込むと、ミュルザンヌはまるで矢のように走りを見せる。ターボチャージャーが効きはじめるのは2500rpmの手前からといった印象で、そこからの加速はまさに目をみはるものがある。
ただし車体の重さゆえ、早いペースでコーナリングをしたときは、ハンドルを切るタイミングに慎重さが要求されるのも事実。少し切り遅れると重い車体は外側にふくらもうとするからだ。このとき、電子制御技術が働き、車体の動きは修正される。優雅でたしかな操縦こそ、ベントレーのフラッグシップに似合うということだろう。
ワインディングロード、高速道路にくわえ、市街地で運転する機会もあった。狭い路地はわからないが、通常の道路では、ハンドル操作に対して車体の追随性が遅れることはなく、そのため、大ぶりに車体をもてあますこともない。現代の欧州の大型高級車は、スポーツ性も兼ね備えていることが必須条件となっている感がある。もちろんよりスポーティなベントレーを好むひとは、コンチネンタルGTのようなスポーツクーペを選ぶが、5.5mを超える4ドアボディといえども、あくまでもドライバーズカーというのが、ミュルザンヌの真骨頂。現代的水準を超えていく新世代の超高級サルーンだ。
BENTLEY MULSANNE|ベントレー ミュルザンヌボディ|全長5,575×全幅1,926×全高1,521mm
エンジン|6.75リッターV型8気筒DOHC+ターボチャージャー
最高出力|377kW[512ps]/4,200rpm
最大トルク|1,020Nm/1,750rpm
燃費|16.9ℓ/100km
CO2排出量|393g/km
駆動方式|後輪駆動
トランスミッション|8段オートマチック
価格|3,380万円
ベントレーコール
0120-97-7797