LOOM NIPPON|加賀美由加里さんの復興に掛ける想い
BEAUTY / THE EXPERTS
2014年12月26日

LOOM NIPPON|加賀美由加里さんの復興に掛ける想い

LOOM NIPPON|ルームニッポン

宮城県南三陸町を東北随一の桜の名所に

加賀美由加里さんがファッションを通じての復興に掛ける想い。Part 1

東日本大震災で大きな被害を受けた人々を支援したいという想いから、2011年7月に設立された一般社団法人「LOOM NIPPON(ルームニッポン)」。この組織の理事長を務める加賀美由加里さんは、ドーメル・ジャポン、及び、MCMファッション・グループ・ジャパンの代表取締役でもある。ファッションを媒介に、被災地の雇用創出や復興支援を行う、ルームニッポンを設立した経過とプロジェクトの内容について話を聞いた。

Text by MURAMATSU Ryo(OPENERS)

2011年3月11日。そして、プロジェクトの始まり

フランスを代表するメゾン、ランバンの日本のエージェントに入社したことを切っ掛けに、40年以上に渡り、国内外のファッションに携わってきた加賀美由加里さん。2011年3月11日、震災が発生した直後の状況について「テレビで宮城県気仙沼が火に包まれていることを知りました。私のなかで特に思いの深い、ランバンブティックの制作に協力してくれた造船所のある場所です。本当に心配でした」と振り返る。

2004年に誕生した東京・銀座のランバンの旗艦店。水玉模様を思わせる約3000個の小さな穴が空いた、巨大な鉄のファサードは、気仙沼の造船所、高橋工業が作ったものだ。その代表を務める高橋和志さんと連絡が取れたのは4月の半ば過ぎ。電話で状況を確認する中で、高橋さんから「津波で流された庭の桜の枝に一輪の花が咲いた」と聞き、加賀美さんは「桜は希望の象徴」だと感じた。そして、世界の人々が知っている桜を「津波で多くの木が流された場所にたくさん咲かせたい」という想いは日に日に強くなっていく。

LOOM NIPPON 02

加賀美さんは、桜を植える場所を探すなかで、南三陸町出身の友人から、宮城県議会議員を務めた方を紹介してもらった。かつて南三陸町が仙台藩養蚕の発祥地としてシルクで栄え、1900年のパリ万博でグランプリを受賞したことを聞かされ「鳥肌が立ちました。フランスがはじめてファッション館を作ったことでも知られる万博です。その館長は、ジャンヌ・ランバンでした。私はジャンヌに魅せられて、今に至るまでランバンの仕事をしてきました。話を聞いて、彼女に南三陸町へ行きなさいと言われているようでした」。気仙沼の隣でもある南三陸町に、加賀美さんの心は惹かれていった。

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それから間もなく南三陸森林組合との話し合いを通じて、桜の植樹が決まった。目標は、20年を掛けて、東北で一番の桜の名所として知られる青森県弘前より多い3000本を植えること。たくさんの人々がこの桜を見るたびに、被災した人たちを偲び、その記憶を永遠に受け継いでくれるように願ったものだ。桜の植樹は、ルームニッポンの核となるプロジェクト「SAKURA PROJECT」に発展していく。

LOOM NIPPON|ルームニッポン

宮城県南三陸町を東北随一の桜の名所に

加賀美由加里さんがファッションを通じての復興に掛ける想い。Part 2

次世代につなぐ愛のタペストリー

時間の経過とともに震災の全貌が見えてくるなかで、加賀美さんはランバンのクリエイティブディレクターであるアルベール・エルバスがいつも言う「ファッション・イズ・エモーション」という言葉を思い出した。震災後の日本人の秩序ある行動を知った世界中の友人から「普通だったら暴動が起きる。大震災が発生したなかでも整然とお互いを助け合うことは他国ではありえない」と言われた時、「私のなかのエモーションが郷土愛だと気づかされた」と語る。

“郷土愛”を英語で表現すると“Love Of Mother Land”。この頭文字を取って「LOOM NIPPON」は名付けられた。「LOOMという言葉には織機という意味があります。想いをつないで行くという意味で様々な世代を縦糸に、私たち同世代を横糸に使った、愛のタペストリーを織っていきたいと思っています。生地は横糸がデザインを出します。だから、私たちが作ったデザインをしっかり次世代につないで行きたい」。“織る”という作業を通じて、加賀美さんはファッションの最もメジャーな製品であるバッグを作ることを考え、南三陸町の雇用創出と復興を目的とした組織「LOOM NIPPON(ルームニッポン)」を2011年7月に立ち上げた。

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バッグを製作する企業には、南三陸町の精密機械の部品メーカーであるアストロ・テック社が名乗りを上げた。ファッションを手がけた経験は無く、津波で工場の機械が流される被害にあったが、東京のメーカーであるヤマニが技術を支援。バッグは、アストロ・テック社の女性スタッフがレザーを一つひとつ丁寧に手作業で編んで作られている。デザインの特徴でもあるボディに施された白の2本のラインは、3月11日の明かりの存在しない、東北の夜空に瞬く星をイメージしたものだ。現在では、全工程を自社で手掛けるようになり、アストロ・テック社の売上は震災前の約160パーセントを記録している。

バッグの売上の一部は、桜の植樹の費用に充てられる。「20年を掛けて3000本の植樹を目標にしていたのが、早くも852本を植えました。“SAKURA PROJECT”のスタートから10年後の2021年には、大きな花見大会をやろうと考えています」。ルームニッポンがスタートして3年が経過した。パリのドーメル社やオンワード樫山をはじめ、国内外の企業がこの取り組みに賛同。今年5月には3回目となる植樹祭が開かれた。被災地の継続的な支援が求められる中で、ルームニッポンの独自の取り組みから目が離せない。

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LOOM NIPPON

http://loom.or.jp/

KAGAMI Yukari|加賀美由加里
ドーメル・ジャポン、及び、MCMファッション・グループ・ジャパンの代表取締役。東京生まれ。1997年、ランバン ジャパン社長に就任し、2003年に同社の代表取締役に。現在は、ランバンのビジネスアドバイザー。数々の功績が認められ、国際連合世界食糧計画WFP協会顧問、また、子供地球基金理事も務める。2011年、一般社団法人「LOOM NIPPON」を設立。

           
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