ARQUISTE|建築家が手がけるNY発の新進フレグランス日本初上陸
BEAUTY / THE EXPERTS
2015年6月8日

ARQUISTE|建築家が手がけるNY発の新進フレグランス日本初上陸

ARQUISTE|アーキスト

建築家が手がけるNY発のフレグランスブランド、日本初上陸

まるでタイムカプセルのように、あの場所へ、想いが蘇る(1)

2011年のデビュー以来、世界展開を進めるニューヨーク発のフレグランス「ARQUISTE(アーキスト)」。建築家として、歴史的建造物の修復・保存に携わってきたCarlos Huber(カルロス・フーバー)氏が手がける香りは、各国のフレグランス市場で高い評価を得ている。そんな話題のブランドが、ついに日本初上陸。この春、都内4店舗での販売をスタートさせた。“時、場所、感覚”に訴える斬新な香りはどのように生まれたのか──初来日を果たしたカルロス氏に聞いた。

Photograph by JAMANDFIXText by SOMEYA Harumi

歴史を現在に蘇らせる建築家と、売れっ子パフューマーの出会い

もともとは建築家であり、歴史的建造物の修復・保存を専門に活動をつづけてきたカルロス・フーバー氏によるフレグランス「アーキスト」は、まさに歴史と現代が交差するコレクション。フローラル、スパイシー、パウダリー、シトラス、ウッディベースからなる7種のフレグランスは、まとうたびに、私たちの心の奥に眠る記憶や風景を呼び覚まし、歴史の旅へと誘う。そのクオリティは誰もが認めるところで、2013年6月には、フレグランスのオスカー賞といわれるフレグランス財団に、トップ5の香りとして「Boutonniere mo.7(ブートニア ナンバーセブン)」が選ばれた。

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Boutonniere no.7|ブートニア ナンバーセブン

香りの背景は1899年5月、パリのオペラ座メインロビー。壮麗なボザール装飾の石壁、まばゆいシャンデリア。オペラ座のメインロビーはパリのエリートたちが集う社交場だった。オペラの幕間、人が溢れるロビーの情景はスモーキーな香りで表現。爽やかなベルガモットとラベンダーがブラックタイに身を包む男たちのスマートな身のこなしを思わせる。当時の流行りはブートニエール(ラペルに挿したコサージュ)に生花を用いること。とくに柔らかな白さが映えるクチナシは人気で、“オペラの花”と呼ばれていた。これが本作の鍵となる香り。ちょうど女性の顔の位置にあたる胸元にクチナシの甘い香りを飾り、上品にリードする姿が浮かぶ。

調香を担当するのは、ヤン・ヴァズニエ氏とロドリゴ・フローレス・ルー氏。ヤン氏は、LE LABO(ル ラボ)の「Aldehyde 44(アルデヒド44)」をはじめ、Marc Jacobs(マーク ジェイコブス)、TOM FORD(トム フォード)などを。ロドリゴ氏は、Elizabeth Arden(エリザベス アーデン)のグリーンティシリーズをはじめ、トム フォードやJohn Varvatos(ジョン バルベイトス)など、いずれもヒット作を多数手がける有名なパフューマー(調香師)である。歴史を現在に蘇らせる建築家と売れっ子パフューマー。その出会いは些細な偶然だった。

──ヤンとロドリゴとの出会いは?

カルロス・フーバー(以下カルロス) 昔から香水が好きでした。いつもなにかしらつけていたし、香りにとても敏感だった。そんな土壌があったうえで、きっかけとなったのがメキシコ時代からの友人です。彼女は、パフューマーの作ったフレグランスを世に広める役目を担う“エバリュエーター”として活躍していました。8年前にニューヨークへ引っ越すと、数年後、彼女もあとにつづきます。つまり舞台はニューヨーク。

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あるパーティでヤンに出会いました。彼はとても有名なパフューマーですから、会話はもちろん香水の話題。そんななか、エバリュエーターの友人について話をしたところ、なんと彼も彼女を知っていたのです。そこから輪がつながり、ロドリゴにも出会うことができました。

──彼らとの出会いを機に香水作りの道へ?

カルロス 以来みんなで食事をする機会が増え、そのたびに私は、ロドリゴに香水についての質問をつづけたのです。すると、あるとき彼が「そんなに興味があるのなら、授業をやってあげるよ」といってくれて、結果的に1年半、彼のもとで専門知識を学んだことがいまにつながりました。勉強中ももちろん、建築の仕事は続けていましたし、やめるつもりもなかったのですが、深く学ぶことでより興味が増し、最終的には香水の道に進むことを決めたのです。

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まるでタイムカプセルのように、あの場所へ、想いが蘇る(2)

遠い過去、想い出、アーキストはその場所、その時、その想いへいざなう

その1年後、カルロス氏は、ひとりで「アーキスト」をスタートさせた。チームの一員にくわわるのではなく、自分でやろうと決めた理由は、建築のキャリアも継続したかったから。その経歴から、歴史的な建築に興味があったカルロス氏は、“時、場所、感覚”に訴える香りをつくりたいと考えたのだ。

──「アーキスト」の最初の作品は?

カルロス さっそくコンセプトを考え、ヤンとロドリゴにアイデアを見せました。そのときの香りが「Infata en flor(インファタ・アン・フローラル)」と「Fleur de Louis(フルール・ド・ルイ)」です。2つの香りは、同じ“1660年6月のスペイン・フランス国境バスク地方”が舞台なのですが、「インファタ・アン・フローラル」がスペインから見た物語なのに対し、「フルール・ドゥ・ルイ」はフランス側の視点。こうしたコンセプトについて意見を求めると、彼らは「素晴らしい!」と賛同してくれた。そして「これはブランドとしてやるべき、自分たちも協力するから」と背中を押してくれたのです。

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では具体的に、アーキストの香りはどのようにして生まれるのか──香りの背景にあるのは歴史的なストーリー。カルロス氏は、綿密なリサーチをもとに、その時代の風景や空気感、そして想いを切り取って、香りとして再現している。

──「アーキスト」の香りはどのように作られる?

カルロス まず一冊の“情報ブック”をパフューマーに見せ、そこにどんなストーリーがあるかを伝える。たとえば、こういう木が生えていたとか、こんな建造物が残っているとか、お城に入ったときの匂いはきっとこうだとか、ブックにはさまざまなディテールが収まっているので、パフューマーたちはそれを吸収して、香りを具現化していきます。その際、具体的に使いたい香りはリクエストしますが、ヤンもロドリゴも最高のプロ。素材の調達については2人に任せています。自分は、デザインとクリエティブリサーチを担当。パフューマーにストーリーとインスピレーションを与える役割に徹しているのです。

──ひとつの香りが完成するまでどのくらいかかるのですか?

カルロス 構想がまとまってから完成までは約1年かかります。毎回5つのサンプルが上がってくるので、私はそれを試して、香りの変化を確かめ、いろいろな意見を添えて、つぎの試作をお願いするという流れ。「これだ!」と思えるまで、このプロセスを繰り返します。

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まるでタイムカプセルのように、あの場所へ、想いが蘇る(3)

お薦めの香りは「インファタ・アン・フローラル」と「レ エトログ」

カルロス自身の香りとの出合いは学生のころ。資生堂(ザ・ギンザ)のフレグランスブランド、SERGE LUTENS(セルジュ・ルタンス)の「Ambre Sultan(アンブル・スルタン)」が初めての香りだ。

──自身はどのような香水がお好みですか?

カルロス パリで購入した「アンブル・スルタン」は、当時とても好きな香りでしたが、ちょっと強いというか、つけるときにふらっとくるようなハードさを感じることもあって、その経験が香水づくりの意欲をかきたてた。もっと気軽に使える、複雑さとレイヤーをもつ香水を作りたいと思ったんですよ。

CHANEL(シャネル)の「SYCOMORE(シコモア)」やD'ORSAY(ドルセー)の「Le Nomade(ル・ノマド)」を愛用した時期もありましたが、いまは、サンプルを試す毎日で、ほかの香水をつける機会はだいぶ少なくなりました。アーキストのなかでもっともよく使うのは「フルール・ド・ルイ」かな。ウッディかつソフトな香りで、とてもつけやすい。あらためて、私はフローラル系の香りが好きなのだと実感しています。

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「フルール ド ルイ」フローラル パウダリー ウッディノート(オレンジブロッサム、フィレンツェオリス、ジャスミン、シダーウッド)

「インファタ アン フローラル」フローラル レザー パウダリーノート(オレンジフラワーウォーター、スペインレザー、シスタスレジン、イモーテル)

香りの舞台は1660年6月スペインとフランスの国境、バスク地方のフェザン島。政治的な目的のためスペイン王女マリア・テレジアとルイ14世は結婚しようとしていた。“もっとも甘い香りの君主”と呼ばれた華やかなルイ14世、白い頬を紅潮させる無垢なマリア。ふたつの香りはそれぞれ両者の空気感をよく捉えている。

──日本の女性にお薦めの香りは?

カルロス 「フルール・ド・ルイ」は先ほども言ったように、1660年6月のフランスから見たスペイン国境バスク地方が舞台。じゃあ、もういっぽうの、スペインから見た物語である「インファタ・アン・フローラル」はといえば、こちらは女性向き。とくに日本の女性にお薦めです。フレッシュとフローラルでありながら、清潔かつパウダリー。ベビームスクが少し入っているので愛らしく、素肌のような感じで、思わずハグしたくなる心地よい香りに仕上がっています。

「L’Etrog(レ・エトログ)」も日本の市場に合いそうです。1175年10月のイタリア・カラブリアを舞台とするエトログは、フレッシュな柑橘の香り。甘くパウダリーなハートがあって、なめらかで深さと複雑さをもっている。コロンだけれど、ユニセックスで、親しみやすい香りです。

──香水をつける時のポイントは?

カルロス 香りの上手な使い方ですか? そうですね、アドバイスするならずばり、“相手に近づいてもらいたいところ”につけること。たとえば、手をよく動かす人なら、前腕や手の甲につけるといいでしょう。1、2回プッシュしてみてください。つけすぎはNG。多くて3回までですね。ぜひお薦めしたいのが首筋。このあたりは“好きなひと”に近づいてほしい場所。とくに女性は首の匂いを嗅ぐ傾向があるので、男性の場合、これは押さえておくべき重要ポイントです(笑)。

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ARQUISTE|アーキスト

建築家が手がけるNY発のフレグランスブランド、日本初上陸

まるでタイムカプセルのように、あの場所へ、想いが蘇る(4)

待望の日本上陸。日本をテーマにした香りの構想も

あらためて、カルロス氏に“建築”と“香り”の関係性について問うと、「つながっていると思う」と即答。建築家として、つねに頭で鍛えている“構造”と“建設”は、香水づくりにおいても欠かせない重要なものだと語る。

──建築と香水作りは似ている?

カルロス 建築家はドラフトマンだけではなく、全体の組織を作るプロジェクトマネジャーです。建材選びから仕上げるまで、そして基盤や窓の設計、さらにはデコレーターの役割も担う。一連の流れは、香水という商品づくりに通じるものがありますね。また香水は、ビューティと自然にかかわるアートでありながら、肌につけるものなので、きちんと機能しないといけない。その点も建築と近いと思う。建築もアート、だけど(鑑賞するだけの)彫刻とちがい、作る際には必ず機能面を考えます。

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今後、日本をテーマにした香りをつくる予定もあるという。物語の舞台は、日本の使節団がヨーロッパに旅をする1600年代。現在は、使節団を率いた支倉常長(はせくらつねなが)のリサーチに取り組んでいるところだ。歴史的資料を読み込み、取材して、勉強を重ねる。「香水をつくるために、こんなことをしている人はなかなかいないでしょうね」と彼は笑う。

──“イメージソース”という以上に熱心にリサーチされていますね

カルロス リサーチは大変だけれど、好きな作業なので苦ではない。なにより、リサーチすることで、香水の方向性がより明快になります。トレンドと関係なく、本当に起こったストーリーを参考にしている。そんな確実性がアーキストの最大の魅力だと思っています。

この春、「アーキスト」の日本での販売がスタートする。私たちが待ち望んだように、カルロス氏にとっても日本市場への参入はようやく実った展開だ。6月にはまたあらたに2つの香りが生まれる予定であり、ベストなタイミング。いまのラインナップに対する喜びと誇りをもちながら、新しい香りもどんどん届けていきたいと語る。

カルロス 「アーキスト」の香りはストーリーをもち、オーセンティックで正直。ぜひ日本のみなさんにも、香りが誘う歴史の旅を楽しんでほしいと思います。

Carlos Huber|カルロス・フーバー

Carlos Huber|カルロス・フーバー
1980年メキシコ生まれ。コロンビア大学で建築を専攻し主席で卒業。その後は歴史的建造物の修復を専門に活躍するほか、ラルフローレンの店舗設計にも広く携わるなど、つねに歴史を尊重し、現代に蘇らせる独特の感性が光る作品は、専門家たちに高く評価されている。


ARQUISTE|アーキスト 全7種[各55mL] 各1万7000円(税別)
「L’Etrog(レ・エトログ)」/1175年10月、イタリア・カラブリア
「Flor y Canto(フローラル・ワイ・カント)」/1400年8月、メキシコ・テノチティトラン
「Fleur de Louis(フルール・ド・ルイ)」/1660年6月、フランス-スペイン国境バスク地方フェザン島
「Infata en flor(インファタ・アン・フローラル)」/1660年6月、スペイン-フランス国境バスク地方フェザン島
「Anima Dulcis(アニマ・ダルシス)」/1695年11月、メキシコシティ
「Aleksandr(アレキサンドル)」/1837年1月、ロシア・サンクトペテルスブルク
「Boutonniere no.7(ブートニア ナンバーセブン)」/1899年5月、パリ・オペラ座メインロビー

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