番外編 スペシャル トム・フォード
Beauty
2015年3月6日

番外編 スペシャル トム・フォード

番外編 スペシャル トム・フォード

フレグランス道場、番外編は来年に日本でも発売されるTOM FORDの香り。12種類もが居並ぶさまは壮観です。それぞれは単体でも十分な完成度ですが、使う人が自由に「調香」して楽しむこともできるのだそう。

文=中野香織Photo by JAMANDFIX

これぞラグジュアリー、という圧倒的迫力

キリストの使徒の数、ギリシア・ローマ神話にでてくる主神の数、新エルサレムの門と柱の数、羅針盤の方位の数、1年の月の数……。
12という数は、どこか宇宙の秩序や心霊的安心とつながるような、「完璧感」を与える。

完璧主義のトム・フォードも、フレグランスコレクション「プライベート・ブレンド」を創るにあたり、12種類をいちどに出した。

魔法の薬瓶のような重いラリック製のボトルの中には、濃厚で絢爛豪華な12の香り。こっくりとリッチでアグレッシブで、瓶を開けたとたん、女豹が真正面から容赦なく挑んでくる感じ。とはいえ、その後、女豹は心地よさそうに暖炉のそばで横になる……のだが。

優雅な退廃がスパイスになった、官能的で贅沢な心地よさが、あとあとまでつづくのである。

上のボトルはすべて250ml(価格未定)、現在阪急百貨店メンズ館にて販売されているのは50ml(各2万6250円)

絵にたとえるなら、フォーヴィズム(野獣主義)を内包するキュビズムのジョルジュ・ブラック。文学にたとえるなら、うずまく情念を緻密で凝縮された文体で描くヘンリー・ジェイムズか。

見る側、読む側にも相当の力量が求められるように、トム・フォードの香水も、つける側にそれなりの人間力と経験と覚悟を求めているように感じる。エアリーでライトなカルチュアはおよびでない、というトムの声が瓶の中から聞こえる気がする。

ちなみに、フレグランスはすべてユニセックス、というか、フェミニンとかマスキュリンといった性別の垣根など、はるかに超えている。

「アンバー・アブソリュート」や「モス・ブレッシュ」、「ボワ・ルージュ」などの超個性的ライン、「ウード・ウッド」や「ネロリ・ポルトフィーノ」、「ジャポン・ノワール」などの強烈エキゾチックラインも それぞれに印象深く忘れがたいのだが、それらをさらりと楽しめるだけの迫力にはいちじるしく欠ける私のような初心者でも、ちょっと背伸びしてみたいなという夢を与えてくれたのは、次の4つ。

1.Purple Patchouli(パープル・パチョリ)

東南アジアのシソ科の植物がパチョリ。トップノートは蘭のまわりにおいしそうなシトラス。ミドルにレザー、パープル・パチョリに東南アジア風のスパイスが混ざり、ペチバーやアンバー、ブルー・バルサムが深みを加える。1960年代をイメージしたフローラル・ウッディという説明だが、今回の12種類のなかではいちばんフレッシュで親しみやすい気がした。クリーンな、石鹸のようなすっきり感(たぶんパチュリ)と甘いセクシーさが、からみあいつつずっと残る。紫の布を頭にかけた、女神アフロディテを連想した。

2.Noir de Noir(ノワール・ド・ノワール)
黒のなかの黒。前回のフレグランスも「ブラック・オーキッド」(黒い蘭)だったことだし、黒好き(に見える)トム・フォードにとっては、これは12種類のなかでもっとも「らしい」香りなのではないかと思う。ベースは白檀。でも予想されるほどオリエンタルオリエンタルしていない。トップノートにサフラン、ブラックトリュフ、ブラックローズ、ミドルにはバニラやパチョリ、ツリーモス(不老草)も加わり、えもいえぬ豊かで神秘的な世界が広がる。中世の肖像画のなかの権力者が着る、光沢のある黒いヴェルヴェットを連想した。堂々として、勝ち誇った、孤高の栄光に輝く権力者のイメージ(まさしくトムね)。

3.Black Violet(ブラック・ヴァイオレット)
ジューシーなフルーツのまわりをさわやかなシトラスが囲み、さらにブラック・ヴァイオレットと融合するという、はずむような小粋な楽しさにあふれる香り。オーク・モスが錨となって、包み込まれるような幸福感が長く続く。12種類のなかではもっとも若い明るさを感じた。

4.Tobacco Vanille(タバコ・バニラ)
タバコなら男くさいのかなとの予想に反し、意外とさわやかで、甘く優しい。トップにタバコの葉のエッセンス、ミドルにトンカビーン、バニラとカカオ。ラストにドライフルーツと樹液の香りが加わり、なんというか、りりしい甘さがずっと残る。宝塚の男役のような、リボンの騎士のような。こんな香りには今までに出会ったことがない!

番外として、Velvet Gardenia(ヴェルヴェット・ガーデニア)
ガーデニア(くちなし)系で有名な定番にシャネルの「ガーデニア」があるが、あの名香にさらに悩ましいひとひねりを加えたような感じ。トップにはブラック・ガーデニアとオレンジ。ミドルにジャスミン、ローズ、ミューゲ(すずらん)が加わり、月下香とダーク・プラムにハニーが、ラストのインセンスとラブダナムに融合する。12種類のなかではもっとも「クセ」が少ない、包容力の大きな(=多くの人がこなせる)香り、という印象をもった。

以上は、あくまで私の個人的な印象批評にすぎませんが、12のフレグランスそれぞれが、羅針盤の12の針のようにはっきりと異なる方向を示し、かつ、トム・フォード世界の秩序のなかでみごとに調和している。これぞラグジュアリー、といった圧倒的迫力をたたえるコレクションです。

問い合わせ先|TOM FORD JAPAN|03-5466-1166

           
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