Chapter1 雄大な自然が育む「more treesの森」
Lounge
2015年5月14日

Chapter1 雄大な自然が育む「more treesの森」

Chapter1

雄大な自然が育む「more treesの森」

2007年11月、「more treesの森」第一号が高知県梼原町に誕生。そして翌年8月、ふたつめの森が同県の中土佐町にできた。モア・トゥリーズと高知。両者を引き合わせるチカラの秘密を探りに、オウプナーズ取材班は現地へ飛んだ。

文=有吉正大(本誌)Photo by JAMANDFIX

more trees

高知の全国一

太平洋に向かって扇形に広がる高知県。東側に室戸岬、西には足摺岬が突き出し、そのあいだの土佐湾では黒潮により豊富な海の幸がもたらされる──高知は海と縁が深い県と思われているが、じつはそれ以上に「森の国」であることをご存知だろうか。

県の面積のうち山が占める割合は89%。そして森林は84%と全国一の数字を誇る。四国山脈を背に太平洋と向き合う高知は、海と山、そして「日本最後の清流」と称される四万十川を擁する、自然に恵まれた土地なのである。

実際、高知龍馬空港に降り立ち、ささやかな都市である高知市を抜けると、ひたすら山と森、そして海を眺めてのドライブがつづいた。山には美しいく整備された棚田が広がり、農作業にいそしむひとたちを目にすることができた。自然と自然につきあう、土佐のひとたちの姿だった。

四万十の清流の秘密

四万十川は、高知県西部を流れる全長196kmの河川である。この川が「日本最後の清流」と呼ばれるようになった背景には、大規模なダム開発が行われなかったことが影響している。Nの字を描きながら太平洋に注ぐこの川は、全体的に緩やかな流れゆえにダムの立地にはそぐわなかった。こう教えてくれたのは、この川で屋形船を出す船頭さんだった。

「かつて政治家が『ダムひとつできない役立たずの川、四万十』と揶揄していたくらいなんですよ」

それがいまでは、貴重な観光、自然資源として大切にされているのだから人間は勝手なものだ。

more trees

319もの支流が集まる四万十川は豊富な水量を誇るが、近年ではその量も減りつつある、と船頭さんはこぼす。
「温暖化などの影響なのかもしれませんが、僕の親父の若いころにくらべれば、50cmから1mちかく水位が下がっているといわれます」

文字どおり川の水量が増すと沈んでしまう「沈下橋」は、四万十川のシンボル的存在であり、生活文化遺産として保存対象となっている。台風などで大雨が降ると水かさが増し、沈下橋をゆうに越える高さまで水が流れる。この大きなチカラで川底があらわれ、結果、川水の清らかさが保たれるというのだ。

「でも今年は洪水がなくて、これでも水の状態はあまりよくないんですよ」といいながら、船頭さんは清流に棲息するテナガエビを供してくれた。

more trees

絶品のカツオのたたき

土佐の男性をさして「イゴッソウ」(頑固者)、女性のことを「ハチキン」(勝気)と呼ぶらしいが、実際に高知でであったひとたちはとても気さくであたたかく、そして、酒豪なかたがたばかりだった。
夜、雄大な太平洋を眺める「黒潮本陣」にて、モア・トゥリーズ一行の歓迎会を開いてくださった。

「more treesの森」第二号の地に選ばれた高知県中土佐町の池田洋光町長自身が、名物カツオのたたきをさばいてくれるという。

とれたままの姿に包丁が入れられ、きれいにさばかれたカツオは、なんと坂本龍一さんの手により藁の火であぶられ、それをまた池田町長が切り分け、あら塩をふって完成した。

「うまい!」という坂本さんの一言で、全員がカツオに手を伸ばし、頬張りはじめた。いや、本当にうまい。ほのかにあたたかく、しかし生の風味が活きているカツオは、いままで食べたどんな魚料理ともくらべものにならないくらいの絶品だ。

「これには酒だな!」
坂本さんの言葉が号令となり、歓迎の宴はいよいよはじまったのである。

最初の「more treesの森」が高知に誕生したわけ

高知が森の国であることは冒頭でふれたが、じつはその森は危機的状況に瀕している。戦後の復興を名目に、政府は拡大造林を推し進め、成長のはやい針葉樹を中心とした人工林が全国に広がった。しかしその後、海外からの安い木材に追いやられ、国内の林業は衰退の一途をたどった。高知県が発表したところによると、林業就業者数は約30年で4分の1まで減少したという。

ひとの手によってつくられた森は積極的な手入れが必要なのだが、手を入れる人手が足らない。全国的に森は荒廃し、とくに森の国である高知にとっては深刻な問題となっている。

そこで高知は、県をあげて森林の復興に乗り出している。そのひとつが、モア・トゥリーズもパートナーとして参加している「協働の森づくり事業」。環境先進企業と地域が協働で、地球温暖化の問題を視野に入れながら、森林の再生と人的な交流の促進に取り組んでいる。
今回、「more treesの森」第一号の“梼原の森”と第二号“中土佐の森”を訪れてみたが、森のなかに身をおいてみると、森林の再生というミッションの大変さが、リアリティをもって感じられる。

more trees

中土佐町に誕生したふたつめの「more treesの森」で
がっちりと握手する坂本龍一氏(左)と池田洋光町長

深い山にわけいり、余分な木を切り、森に十分な光を入れるいわゆる「間伐」という作業には、マンパワーとコスト、そして時間がかかるだろう、と。そして同時に、こうも感じた。この森が整えられ、林業が環境、ビジネス両面において継続性を保てるようになれば、高知という場所は21世紀的なユートピアになれるのではないかと。

森と川、そして海が育む理想郷。それが夢に終わらないよう、モア・トゥリーズと高知の活動を応援したい──高知から戻ってきたあとの、いつわりのない想いである。

雄大な自然が育むmore treesの森

           
Photo Gallery