AUDI|アウディ|松井龍哉 vs アウディR8 (2) 「エンジンで問われるセンス」
Vol.1 松井龍哉 vs アウディR8
Chapter2 エンジンで問われるデザイナーのセンス
スーパーカー最大の見せ場はエンジン──。細部に宿るデザインの引力を求め、「アウディR8」のディテールにフォーカスを。
──視点を細部に移しましょう。気になるポイントはどこですか?
松井 自動車メーカーがフラッグシップ・モデルに投影するのは、自社の未来へのアイデンティティですよね。それをもっとも表現できるのは、エンジニアリングの粋を集めたエンジンです。
このR8も、ガラスのフード越しにエンジンがのぞける仕掛けになっている。スーパーカーとしての誇りを表現していると感じました。
──職業的観点でエンジンを見るとき、どういう部分に関心をもちますか?
松井 エンジニアの主張に対してデザイナーがどういう折り合いをつけたのか、ですね。
とくにこうしてエンジンを見せる場合は、いかに洗練されたプロダクト化が達成できているか。そこはデザイナーの思考プロセスを読み解こうとする愉しみでもあります。
──なかなかユニークな見方ですね
松井 やはりR8にもバウハウスの流れを感じますね。主張しすぎないシンプルで整然としたデザインは、近代デザインのモラルですから、とても理解しやすいです。
現代のエンジンは、もはや素人が手を出せるメカニズムじゃないけれど、どこに何が置かれているのか、手に取るようにわかる配列からは、結果として「美しさ」が感じられます。
アウディのファンとして身分もわきまえず言わせてもらえば、エンジン上部にあるアウディのマーク、1個じゃいけなかったのかなあと。想をめぐらせます。
──V型8気筒なので、シリンダーの数を表したのかもしれませんね
松井 そうだとしても、ロゴの見せ方に関しては、正面1個だけにしなかった意味が何なのか気になります。デザイナーの心理まで見ようとすると、また深くクルマを愛せるから楽しいのです。
それと、塗り分け。エンジニアリングを素直に表現するなら、素材の異なるパーツなら塗り分けを行いますが、このエンジンは同じ素材でも2色の配色を採用しています。そうした試みは、機能主義を超えようとする想いなのでしょうか。
──整然としている点では、インテリアもまたシンプルですね
松井 人工的な、幾何学的なラインを多用していますね。ユーザーとして思うのは、クルマの運転席の場合、ハンドル越しに見えるメーターのインターフェイスのデザインが重要ですが、全体的に正円を感じられるようなラインは、アウディのロゴに見られる特徴と機能が計算されて、安全な運転を約束している表れではないでしょうか。
あと、思ったより視線が低くなく、室内も窮屈な感じがしない。そのあたりも日常性を意識した、研究成果の結果だと思います。ワイルドな印象を打ち出していても、家柄は隠せないというか、やはりアウディらしい生真面目さに満ちていると思います。