第6回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 2
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2015年3月18日

第6回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 2

第6回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 2

text by NAKANO Kaoriphoto by TATSUNO RinSPECIAL THANKS:GAGA COMMUNICATIONS INC.

「パフューム ある人殺しの物語」より

香りを、美女を、集めたい。 男の願望にも応える天才の仕業

関口裕子  生物から、というか、肉体から、あんなふうに、香りを抽出するなんてこと、ほんとにできるんでしょうか?

中野香織  う~ん。原作を読んだときやってみようと思いましたけど、獣脂ってねっとりしてそうで(笑)。

GAGAトキムラくん あ、ぼくやってみましたよ。

一同 えーっ!?

GAGAトキムラくん けっこう、いいにおいなんですよね、自分のにおい(笑)。

中野 おそれいりました…。それはそうと、映画ではいろんな抽出のしかたを試していて、美しい女性をどーんとまるごとぐつぐつしたりもしてましたよね。

担当編集者マコトくん 男としては、ああいう願望、あります。処女願望というか。

関口 「コレクター」っていう映画あるじゃないですか? あの変型版みたいなところもあるかな、と。

中野 本人は、善悪の彼岸に生きちゃってるから、それこそ「ヘヴン」なんでしょうね。究極の香りを作り続けることで、もう十全に、天国を生きている。

関口 彼は12人の乙女を集めた時点で、昇華してるんでしょうね。ヘヴンに行った。あの時点で、悪魔から神に転生してる。そこから先の物語はもう、神の仕業として見るしかない…なんて深読みもしちゃったんですけど。

「パフューム ある人殺しの物語」より

中野 神の仕業…。たしかに、ハンカチの動きとともにうわ~っと群集をなびかせるシーンは、神がかって見えました。そういえば、あのシーンも圧巻でしたね。香りが流れていく、というのが映像で体感できましたから。

関口 あのシーンは、原作にもあるんですか?

中野 原作はもっとランチキな感じです。映画はアムールな雰囲気を強調していて、上品に仕上げてました。それこそ中世の宗教画のように。

関口 ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に描いた天井画を思い出しました。群集、楽しそうでしたよね。無味乾燥、っていう意味での<無臭>な生活に香りがふりかけられることで、なにか感情生活が満たされた、という風にも見えました。

「パフューム ある人殺しの物語」より

音と色を駆使した、香りの映像的表現

関口 12人の乙女が、12本の香水瓶になるじゃないですか? 4本×4本×4本。あの原則って、今でもあるんでしょうか?

中野 香水には、トップノート、ミドルノート、ラストノート、という三段階でつくる法則はあるようですが…。

関口 12って、何を表すんですか?

中野 ほんと、なんでしょう? 読者の方でご存知の方がいらしたら、ぜひ教えてください(笑)!

ドレミファソラシド、は8つですしね。シャープやフラットの黒い鍵盤5つを入れると、ドからシの白い鍵盤7つと合わせて12にはなりますが……。香りって、和音(accord)にたとえられることもあるんですよ。ドミソの香り、とか、ドファラの香り、とか。

関口 香りの音階ですか。

中野 ええ、香階(こうかい)っていうことばがあるんです。そういえば、この映画、香りを音楽で表してますね? この女性にはこの音楽、って。80年代にたしか、劇場でリアルな香りを実際に流した映画があったんですよ。

GAGAトキムラくん 「ポリエステル」ですね。

中野 そうそう、オドラマ(odorama)、におうシネマってジャンルを作ろうとしてたみたいです。Smeling is Believing(においをかぐことは信じることだ)とか、It’s Scentsational(セン「ツ」セーショナル)とか、おやじギャグ全開のキャッチコピーがながれて。でも、成功はしなかったようです。香りって人によって感じ方が違いますから、リアルな香りを流しても、必ずしもみんなが同じ感じ方をするわけじゃないんですね。その点、この監督はアタマがいいな、と思いました。音樂による香りの表現。それこそ、香りを「聞く」映画になっている。

第6回 「キネマ旬報」編集長と、映画「パフューム」を語る 2

関口裕子さん

関口 トム・ティクヴァって、自分で作曲することもあり、音楽の使い方がうまいんですよ。「ヘヴン」でも、トンネルを抜けて向こうの光の境地へ行くシーンがあるんですけど、そこでの音楽の使い方、もうほんとうにすばらしくて。自分が書くだけじゃなく、「ヘヴン」はアルヴォ・ペルトに作曲させてるし、今回は、サイモン・ラトルがベルリン・フィルと一緒に参加している。ティクヴァって、名匠転がしの才能もあるのかもしれませんね。

中野 色使いもうまくないですか? 鳥肌が立ったシーンがあるんですけど。赤毛のローラが男の子に扮装して逃げていくシーンです。二手に分かれる道の前で、主人公が風のにおいをかいで、こっちだ、と見るでしょう? その視線を追っていくと、ローラの帽子がとれて、赤い髪がぱあっと。

関口 ティクヴァは赤い髪、好きなんでしょうか? 「ラン・ローラ・ラン」のローラも赤い髪だった。

中野 赤い髪のローラ。詩が書けそうですね(笑)。赤い髪の女性って、「にんじん」以来、エキセントリックな女性の代名詞みたいに使われることもあったんですが、ティクヴァはぜんぜん違う意味で使ってますよね?

関口 完全に映像的な効果を狙ってますね。

GAGA本社にて

中野 赤い髪がぱあっと広がることで、ああ、においが広がってる、と観客に感じさせるんですよね。色でにおいを感じさせる、色香の世界。赤い髪っていうのもやはり、意図はあるでしょうね。ブロンドじゃありきたりだし、黒い髪だとにおいが限られるような気がする。オリエンタルムスク系とか(笑)。やはり赤い髪の女性って少ないから、どんなにおいなのかな、と想像をかきたてられるところもあるのかもしれないですね。

関口 ベン・ウィショー君って、素ではキュートな男の子なんだろうけど、映画のなかではもう、立ってるだけでブキミ。ほんとうにうまいんだろうなあと思います。

中野 舞台役者ですよね? この役、難しいと思いますよ。都会のにおいがしちゃいけないし、野生の天才を秘めてなきゃいけない。天使と悪魔の両面をもっていて、狂気も感じさせて、でもブキミすぎてはダメで。ウィショー君、どんぴしゃでしたね。よくあんな人を見つけてきましたよねえ。

関口 あの不思議な感じのたたずまい、どこかで見たことあるなあと思ったら、「硫黄島からの手紙」の二宮(和也)君なんですよ。

一同 おーっ。

関口 だから、もし日本でこの映画をリメイクすることがあるとしたら、主人公は彼かな、と(笑)。

「パフューム ある人殺しの物語」
3月3日(土)サロンパスルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にてロードショー

           
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