石川次郎さん(3)「メディアの明日」
Fashion
2015年5月14日

石川次郎さん(3)「メディアの明日」

エディトリアル・ディレクター石川次郎さん(3)

「メディアの明日」

雑誌編集者としてシーンのいち時代を築いた石川次郎さんは、
現在もエディトリアルディレクターとして、またテレビ番組のキャスターとして活躍されています。
対談最終回では、そんな雑誌とテレビの両メディアを知る石川さんに、
メディアの変遷と現状、そして次代を担うつくり手たちへの想いについて語っていただきました。

構成と文=秦 大輔(City Writes)写真=jamandfix

マスメディアからターゲットメディアへ

松田智沖 雑誌からテレビの世界へ足を踏み入れられた経緯は?

石川次郎 本当のところをいうと当初、テレビ番組『トゥナイト2』の司会は乗り気ではありませんでした。まわりの人に囃したてられて、しぶしぶはじめたんです。『ダメだったらいつでも降ろしてください』という気持ちでね。
で、やったみたらこれがおもしろくて8年間も続けてしまった(笑)。でもいつもスタジオで考えていたのは、やはり雑誌のことでしたね。

テレビは不特定多数のマスへ発信するメディアだから、雑誌でおなじことをやっても勝てるはずがない。テレビは、雑誌にとって脅威であり敵だったんです。その敵陣を覗くつもりで、僕はテレビ局に乗り込んでいった。

でも、初日に安心しましたよ。スタッフルームでみんなが何をしているかといえば、雑誌見てネタ探ししているんですもの(笑)。ネタの速さと細かさでは、テレビは雑誌にかなわないんです。それをスタッフ全員が自覚している。もちろんそのネタを番組としてどうおもしろく表現するか、という別の楽しさがテレビの現場にはありますけどね。

時代は遡りますが、そんなテレビに対抗するためにわれわれが出した回答が、じつは『ポパイ』や『ブルータス』だったんです。平凡パンチの発行部数100万部に対し、ブルータスは最初から20万部を設定した。つまりマスへ向けたメディアではなく、興味を示してくれる読者を絞り込んだターゲットメディアをつくった。

テレビは大勢が見ているということが絶対的な価値。小さなターゲットなんて設定できるわけがありませんから。昨今、やらせやねつ造などのいろいろな問題が取り沙汰されていますが、それもテレビの構造そのものが原因だと僕は思います。

松田 そのあたり、BS放送は地上波よりもターゲットが明確ですよね。私もよく観ています。

石川 BSはどんどんおもしろい存在になっていますね。地上波に見切りをつけた大人の視聴者がたくさん流れてきていますし、合わせてスポンサーが気にしはじめている感じがある。きっとおもしろさをいちばんわかっていないのは局のスタッフですよ。彼らは地上波=花形だと思っている節がまだある(笑)。いま、いちばんおもしろいメディアに関わっているというのに、ナンセンスですね。

ペンギン・カフェ・オーケストラ2枚同時発売!

元気のある若い編集者に明日をゆだねたい

松田 石川さんの手がけられた雑誌は、いまでも当時の匂いを感じます。

石川 うれしいことですね。ただトラベルマガジンの『ガリバー』だけは未完の雑誌だったという気持ちがあります。上等なトラベルマガジンってどこの国にも存在するのに、日本にはまだ根付いていない。大きな可能性を感じるからなおさらですよ。誰か元気のある若い編集者がやってくれないかな、と思っています。

松田 ご自身で再びつくろうという計画はないのですか?

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石川 いや、僕がつくるべきじゃないですよ。若い人がつくった方が絶対におもしろいんだから。僕が若いころに生意気いって、それを好き勝手にやらせてくれた先輩たちがいたように、若い人のチャンスをわれわれが取るべきではない。

84年に、なかば気まぐれで一冊だけつくってみたブルータスの別冊『カーサ ブルータス』も、若い編集者のチカラでいまでは月刊誌としてしっかりかたちになっている。僕がしがみつかなかったから、いまの編集長がこうして活躍している。それがうれしいんです。

だからいまやっている仕事も、誰かにまかせて身を引くときが必ず来ると思っています。

松田 最近、メンズのラグジュアリー誌が立て続けに創刊されています。思うことはありますか。

石川 時代が変わったなぁ、と感じます。僕にはつくれないですよ。一点だけリクエストするならば、男の関心事は表面的なことよりもその奥にあるんだ、というのをもっと雑誌が伝えてほしい。たとえばジョン ロブの靴にしても、モノそのものじゃなくて、たとえば「この美しい靴をどんな職人がつくっているんだろう」とか「どんなジェントルマンが履いているんだろう」ということに興味が湧くわけじゃないですか。そこにもっとフォーカスしてほしいな、と。
なんていうと嫌味っぽく聞こえちゃうかもしれないから、そうならないようやさしく書いてね(笑)。
対談を終えて

憧れの男、石川次郎さんとの対談は至福のときでした。
世界各国を旅し、つねに飛びまわるという理想的なライフスタイル。
その生き方が内面からあふれる石川さんはやはり、
すべてにおいて魅力的な「大人の男」なのだと感じ入りました。
ぜひ一度、アジアの旅にお供させてください!(松田)

           
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