あなたのクルマ 見せてください 第8回 特別欧州篇
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2015年8月28日

あなたのクルマ 見せてください 第8回 特別欧州篇

第8回 特別欧州篇 アレッサンドロ・バレストリーニ氏×クーペ フィアット16V

オドメーターを刻むごとに増えるアミーチ(友達)

「あなたのクルマ見せてください 欧州特別篇」では、イタリアとスイスの“普通のクルマ好き”をたずねた。人びとの自動車にたいする文化、歴史、もちろん法制度もことなるなかで、彼の地のクルマ好きたちはどう考えて、どのようなクルマに乗っているのか。リポートするのは、イタリアに在住する日本人ジャーナリスト、大矢アキオ氏。まずはクーペフィアットを愛するイタリアの税理士から。

Text & Photographs by Akio Lorenzo OYA

40歳の自分へのご褒美

1990年代、イタリア車ファンなら誰でも一度は心動かされたクルマといえば、「クーペ フィアット」だろう。ハッチバック車「ティーポ」をベースにしているとは信じられない、そのとびきり小粋でモダーンなスタイルは、戦後から普及型をベースに魅力的なスポーツモデルを手頃なプライスで提供してきたフィアットの、最後の好例だった。デビューから21年、そのクーペ フィアットをいまもこよなく愛するイタリア紳士がいる。北部コモ県に住む税理士、アレッサンドロ・バレストリーニ氏(60歳)だ。

──「クラブ デル クーペ フィアット」の発起人のひとりだそうですね。

会員番号は、ひと桁台の7番(笑)! いまはロンバルディア支部長を務めています。

──まずはご自身のクルマ遍歴を伺いましょう。

若いときは1975年の「ヴェスパ」が日頃の足でした。当時勤めていた銀行への通勤にも使っていましたし、週末には女房をうしろに乗せてデートしたものです。その39年モノのヴェスパは、ここ10年間乗ってませんが、いまもガレージの片隅にカバーをかけて保管していますよ。

4輪車の馴れ初めはシトロエン「2CV」でした。次は、トライアンフ「スピットファイア」。マローネ(茶色)の美しいボディでした。そして「ミニ クラブマン」、フォルクスワーゲン「ゴルフ」、ボルボ「480ターボ」と乗り継ぎまた。

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──クーペ フィアットを手に入れようと思ったきっかけは?

デビューした1993年のことでした。フィアット車でありながら、あのピニンファリーナのグルリアスコ工場で、かなりの手作業工程を経て造られていることに興味を覚えたのです。同年の暮れも差し迫ったある日、翌年40歳になる自分への誕生日プレゼントとして、思い切ってオーダーしました。

待つこと3か月。覚えてますよ。納車は1994年の3月1日です。緑色のクーペ フィアット16バルブを夜6時、仕事が終わってからフィアットディーラーに女房と引き取りに行きました。

それからしばらく嬉しさのあまり、毎週末ドライブしていました。エキサイトしすぎたのでしょう、あるとき、しっかりと自動スピード違反取り締まり機に撮影されてしまいました。個人情報保護に神経質な現在では考えられませんが、当時の警察は証拠写真を我が家に郵送してきました。その“記念写真”は、いまでも私の書斎机に飾ってあります(笑)。

第8回 特別欧州篇 アレッサンドロ・バレストリーニ氏×クーペ フィアット 16V

オドメーターを刻むごとに増えるアミーチ(友達) (2)

こんな楽しいクルマはほかにない

──すっかりクーペ フィアットに惚れ込んでしまい、クラブまでつくってしまったと……

手に入れた翌年、1995年に仲間と「クラブ デル クーペ フィアット」を立ち上げたんです。現在、主となって活動しているメンバーは200人ですが、これまで1,200人以上が何らかのかたちでかかわってくれました。

──スタイル以外で、クーペ フィアットのチャームポイントとは?

なんといっても実用性です。2人の息子が小さい頃は、休暇のたび彼らをクーペ フィアットの後席に乗せ、南はプーリアやシチリア島まで、家族4人でイタリア全土をほぼ制覇しました。ファミリーのヴァカンスにもまったく不便を感じさせないパワーと居住性があります。

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──ミニ・フェラーリのようなムードを醸し出しながらも、中身は実用車フィアットの基本を忘れていない、というわけですね。

そう。だからその後50歳の誕生日に「スマート」、そして先日、60歳の誕生日記念にもう1台新車をオーダーしたのですが、クーペ フィアットだけは手放さず、ついぞ今日に至りました。今年で購入から20年。走行距離は16万キロに達して、我が家にある実動車でもっとも歴史が長いクルマになりました。

じつはクーペ フィアット納車の日、担当セールスマンに「人生初めてのイタリア車。(それまで乗っていた)ゴルフやボルボのように丈夫だといいんだけどね……」とこぼしたんですが、見事疑念を晴らしてくれました。

──もっとも新しいクーペ フィアットでの旅は?

去年です。息子たちも無事大学を卒業して就職ということで、結婚30年祝いに女房とふたりでアヴァーノ・テルメの温泉までドライブを楽しんできました。

もちろん、まだ乗りつづけますよ。この6月、トリノのフィアット・リンゴット歴史工場に残る屋上テストコースでクラブのミーティングを催したときのこと。当時フィアットでクーペ フィアットをデザインした前BMWデザイン・ディレクターで、現在イタリア在住のクリス・バングル氏が、サプライズゲストとしてやって来てくれました。

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乗りつづけるたび、走りつづけるたび、クーペ フィアットを愛するアミーチ(友達)が増えてゆく。こんな楽しいクルマはほかにありません。

           
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