特集|アフリカ霧中紀行|マウンテンゴリラを探して
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2015年4月2日

特集|アフリカ霧中紀行|マウンテンゴリラを探して

特集|アフリカ霧中紀行~愛は霧のかなたに~

マウンテンゴリラを探して(1)

「コスモクラーツトラベル」を営む村井和之さん。ハイエンドな旅行先、ホテルを扱う日本屈指のラグジュアリートラベルのエキスパートとして知られている。そんな村井さんが今回訪れたのは、クライアントの一人にお薦めされたというルワンダからウガンダを巡る旅。目的はただひとつ。絶滅危惧種に指定されているマウンテンゴリラに会うこと。果たして山奥に生息するという彼らを見つけ出すことはできたのか?

Text & Photographs by MURAI Kazuyuki

発展目覚ましい東アフリカの小さな国

エジプトやモロッコなどが位置する北アフリカのアラブ圏。南アフリカ、ナミビア、ボツワナなど、“サファリ・ラバー”にお薦めの南部アフリカ。セレンゲティ大平原やマサイ族などの豊富な観光資源で、比較的、早期から日本人渡航者を増やしていたケニア、タンザニアなどの東アフリカ。広大なアフリカ大陸は、地域によってまったく異なる歴史、文化、民族、風土が存在する、真のアメージング・ディスティネーション。弊社でも最も人気の旅行先だ。

ある日、日本を訪れていた顧客の一人から「ルワンダで見た、マウンテンゴリラが素晴らしかった」との情報が。早速気になったので、ルワンダの情勢を探ってみることにした。

ルワンダという国は、1994年に発生した「ルワンダ・ジェノサイド(=大量虐殺)」という悲しい過去を負っている。2004年、『ホテル・ルワンダ』として映画化され、一躍世界にその名が知られることに。しかし、事件から今年で20年。東アフリカの小さな国は、目覚ましい発展を遂げていた。

経済発展だけではなく、北部の火山群に広がる広大な熱帯雨林の国立公園のなかには、絶滅危惧種のマウンテンゴリラが生息。彼ら見たさに人が殺到し、観光旅行業界も活況を呈しているのだ。アフリカ大陸紀行の中級編として、今回はこのルワンダを改めて訪ねてみることにした。

同名映画の舞台になった「ホテル・ルワンダ」

ルワンダの玄関口「キガリ国際空港」

ルワンダへは、イスタンブール、ドバイ、ドーハ経由など、いくつかの選択肢があり、思った以上にアクセスがいい。ルワンダに近づくと、飛行機の窓からは、みなさんの想像する、乾いた大地のアフリカとはかけ離れた景色が! 緑の大地、巨大な湖などを有した一大パノラマが広がっているのだ。

「コスモクラーツトラベル」代表の村井和之さん

ルワンダの別名は「千の丘の国」。国土のほとんどが熱帯雨林に覆われた、美しい丘陵地帯であることに由来する。周囲の広大な湖、平均標高の高さ、特有の地形から、霧に覆われやすい。この特製を生かして、いまやコーヒーや紅茶栽培が盛んなアフリカを代表する農業大国として知られている。

キガリ国際空港に到着すると、まず厳しい荷物チェック。チェックするのは、なにかというと……なんとビニール袋。ルワンダでは、持ち込みが禁止されている。土に還(かえ)らないプラスチック製品を極力排除し、ゴミの増加を防いでいるのだ。また、これらのビニール袋に水が溜まり、蚊が繁殖するのを抑制し、マラリアの蔓延を防ぐ目的もあるのだそう。

さらに、毎月最終土曜日は、法律で「清掃の日」と決められていて、自宅玄関から公道までの清掃が全国民に義務づけられている。なので、街はとても綺麗で、農村部に行っても道端にゴミが落ちていない。これにはさすがに驚いた。

キガリ市内はというと、まさに建設ラッシュ。外資系のホテルや、コンベンションセンターの建設が進められ、「素朴な風情のルワンダに、資本主義の大波押し寄せる」という趣で、活気に満ち溢れていた。

映画『ホテル・ルワンダ』の舞台になった「ホテル・ミル・コリンズ」でランチを食べたあと、ジェノサイド資料館を見学、マウンテンゴリラが暮らす「ヴォルカン国立公園」へ3時間のドライブ。道路はしっかり整備され、道中はのどかな景色が私たちを楽しませてくれる。ルワンダの人たちは、どんなときも笑顔で手を振り、なんとも平和な風情で旅の疲を癒してくれた。

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マウンテンゴリラを探して(2)

快適にマウンテンゴリラを観察できる唯一の場所

今回の目的地は、ルワンダ北部、コンゴ、ウガンダにまたがる7つのヴィルンガ火山群で構成されたヴォルカン国立公園。この火山群の中に、880頭のマウンテンゴリラが生息している。そのうち、480頭がルワンダ側に生息。すべてのマウンテンゴリラに名前がつけられ、管轄する3つの国がしっかりと保護している。しかし、コンゴは現在内戦中、ウガンダは、生息地域がかなりディープな山中にあるため、ちょっとハードなトレッキングが必要と、とても気軽に会いに行ける環境にない。そう、残されたルワンダだけが、唯一快適に、多くのマウンテンゴリラを観察できる場所なのだ。

彼らに会うためには、さらにしっかりした事前準備が必要だ。まずは日程を決めて、マウンテンゴリラを観察するための許可証を入手するところからスタート。最低でも半年前には、準備をはじめたいもの。なぜなら世界中の人がこの許可証を求めているからだ。ちなみに、この許可証は1人につき750米ドルとけっこうな金額。

「ヴォルカン国立公園」には現在、880頭のマウンテンゴリラが生息。すべてのマウンテンゴリラに名前がつけられ、管轄する3つの国(ルワンダ、コンゴ、ウガンダ)がしっかりと保護している

現在、ルワンダには、19組のマウンテンゴリラファミリーが生活していて、そのうち、比較的アクセスしやすいエリアを拠点とする、10組のファミリーを観光・観察用に国が管理している。残りの9組はというと、研究用に指定されていて、観光客はアプローチすることができない。

ちなみに1組のファミリーにアプローチできるのは、1日8人まで。つまり合計で80人しか山に入ることができないのだ。しかも、実際に観察できるのは1時間だけ。さらに、ゴリラの遺伝子は、ヒトの遺伝子に酷似しているので、ヒトの病気がゴリラに感染してしまう可能性もあり、ゴリラとの接触は、かなり厳しく制限されている。「ちょっと風邪をひいた」なんて状態だと、入山が許可されないし、返金もされないので、万全な健康管理が必要だ。

ゴリラトレッキング”にオススメの装備

もうひとつ事前準備に欠かせないのが万全な装備。マウンテンゴリラの暮らすエリアは、ヴィルンガ火山群の火山灰が降り積もってできた超粘土質の台地。しかも標高の高い、熱帯雨林気候のため、雨も多く、天候が変わりやすい。晴れれば暑く、曇れば寒い、雨が降れば、足下はかなりドロドロに……。こういった気候条件に配慮した万全の装備が必要なのだ。ゴリラたちも常時動いているので、ときには3時間、5時間以上山中を歩きつづけなくてはならないことも。「装備は手を抜かず、しっかり」が基本だ。

トラベルアレンジャーというのは、快適でいい旅を演出するため、あらゆるアドバイスをする仕事。なかでもTPOに合わせた衣装のアドバイスは、特に大切にしていることのひとつ。マウンテンゴリラに会うまでの旅には、前述のとおり、機能性をしっかり兼ね備えた衣装選びが重要。さらに、雰囲気に合った衣装で記念写真を撮っておきたいとなれば、機能性とファッション性の両方を満たすアウトドアスタイルとして、断然「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」がお薦めだ。

まずは靴選びから。足下はドロドロしているけど、急勾配を登る山歩きではないので、防水機能があり、カジュアルに履けるトレッキングシューズをセレクト。タウンウォークにも使えるデザインなので、ルワンダ滞在中はこの1足で十分。

急な雨対策に欠かせないレインウェアは、コンパクトに収納できて、なおかつ、防水機能が高いことが重要。今回利用したレインウェアは、薄いのに豪雨にも耐えられる強者。さらにズボンは、トレッキングシューズを履いたまま装着できるデザインになっている。足場の悪いところで着脱しやすいこともポイントだ。

「ザ・ノース・フェイス」のトレッキングシューズ

たとえ雨が止んでも、地面はぬかるんでいる。ゴリラに遭遇し、写真撮影に夢中になれば、膝もつくし、座って撮影したりもする。このレインウェアがあれば、汚れることを気にせず、いろんな姿勢でゴリラを観察したり、撮影したりできるのだ。

そして今回、思った以上に感動したのは、ズボンとベスト。ズボンは湿度の調整をしてくれる機能素材だったため、暑くなったときも快適で、逆に気温が下がってきたら、ぬくもりを感じる。さらに、ストレッチ素材は、トレッキングには優しいのだということも実感。アウトドアファッション特有の、野暮ったい感じにならないスリムなラインなのもうれしいポイントだ。

ストレッチの利いたズボンと、便利なポケットがついたベスト

それと、とにかく地面がぬかるんでいるから、リュックも簡単におろせないし、カメラや食料を、頻繁に出し入れすることが難しい。そんなとき、ベストについているポケットやフックを利用すれば、荷物まで泥まみれになることがない。こういった装備をきちっとしていけば、「ゴリラに会うために、ひたすら我慢」なんて状況は避けられるし、悔いの残らないゴリラトレッキングになることだろう。

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マウンテンゴリラを探して(3)

雲海を望むエコロッジ

宿泊施設でお薦めなのは、広大な湖に囲まれた丘のてっぺんに鎮座する「ヴィルンガロッジ」。朝は鳥のさえずりが鳴り響き、雲海が広がるピースフルな世界。深夜の時間帯は、すべての電気供給が断たれ、ろうそくと懐中電灯ですごす。自生する野の草花を飾り、奇をてらうことなくできる限りの歓迎をし、客をもてなす。

ほかのゲストとともに食事をしたり、お酒を飲んだり……そんな交流も楽しい。たとえ泥だらけになって帰ってきても、靴や衣服はロッジのスタッフが奇麗に洗濯してくれる。食事のクオリティも高い。

「ヴィルンガロッジ」自慢の料理は、日本人好みの味

英語が話せないと、楽しみも半減するロッジステイ。ここヴィルンガロッジも、英語が話せた方が何倍も楽しめるので、ぜひ英語のブラッシュアップも事前準備のリストに入れていただきたい。

レンジャーやガイド、レベルの高さに脱帽

マウンテンゴリラトレッキングは、前述したように、許可証の費用だけでも高額になるし、空港で観光客を出迎えるガイドは、最後の見送りまで行う「スルーガイド」が基本。クルマもガイドも滞在期間中ずっと拘束するので、通常の旅行に比べると割高になる。

ただその分サービスは一流で、ガイドやレンジャー、ホテルスタッフの英語力の高さはもちろん(公用語はルワンダ語とフランス語)、先回りした気遣いができる優秀な人材が育っている。この国の魅力がなにかも熟知しているし、生活意識の高いガイドが多い(ここだけの話、現地の費用をたたきまくって、安く販売する日本の大手旅行会社の餌食になっていないことが幸いしたのかも)。アフリカ人独特のおおらかなキャラクターで、長距離のドライブも退屈しらず。さらに、道中の休憩所やトイレもかなり衛生的。道端のバナナ売りから、バナナを買ったりと、実に楽しいストレス知らずのドライブであった。彼らは旅行者を楽しませて、自己の評判をあげ、次の仕事につなげて、そしてチップを稼ぐ。ぼくはこれこそ、旅行業界における「おもてなし」の基本だと思っている。

(左)紅茶栽培も盛んなルワンダは、いまやアフリカを代表する農業大国/(右)出発前にはゴリラトレッキングのガイド役、レンジャーとブリーフィングを行う

レンジャー(動物について説明したり、ガイドしたり、参加者の安全を守る専門職)と一緒に、国立公園内の山に入っていくと、いくつかの集落を通ることになる。ここはまさにオーガニック天国。畑はすべて村民の手作業。肥料は、家畜の糞尿や腐葉土をベースにしたもの。国立公園内ということもあって、NGOなどの農業振興隊がアプローチしなかった結果、従来の農業が継続されていたというわけだ。このオーガニックな農産物が、近隣の高級ロッジたちに重宝され、農業収入がアップしたのだそう。

村民たちは、農薬や化学肥料を使わないことが自分たちの生活、そしてゴリラの生体系を守ることになり、ひいては、レンジャーやポーターなど、村人の雇用促進にもなるということをよく理解していると見えて、このサイクルを大切に維持している。旅の安売りをせず、地元に適正な利益をもたせることが、好循環を育む基本なのだと再確認した。

そんな集落や畑をすぎ、山の奥深くへ分け入っていく。標高が高いので、ここでマラリアの心配はない。植生豊かな山道を、レンジャーのあとについて歩いていく。

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マウンテンゴリラを探して(4)

愛は霧の彼方にありました

マウンテンゴリラは、特定の縄張りを持たず、群れ同士が遭遇して争いにならないように山中を移動している。そのため、トラッカー(基本的にガイドはせず、動物の足跡や糞などを頼りに、動物を探す専門職)が先に山に入り、ゴリラの同行を察知して、おおよその位置関係を把握。参加者の年齢や体力等の状況をふまえて、参加者がどのファミリーにアプローチするかを検討してくれる。

欧米からの観光客は、何日にもわたって観察するので、毎日違う群れにアプローチすることになる。1日ごとに許可証を取得するので、かなり高額になるが、さまざまなシチュエーションで観察することこそ、この旅の醍醐味だから、少なくとも2日は時間をつくりたいところ。

ぼくが参加したのは、「アガシャ」というボスがいるファミリー。公開されている10組のフェミリーのなかで2番目に大きい群れだ。30頭あまりのゴリラのなかには、生まれてまもない赤ちゃんも入れば、血気盛んな若いオスもいる。1回でさまざまなゴリラを観察できるファミリーというわけ。

比較的近い場所と聞いていたものの、それでも1時間ぐらいの山歩き。「早く遭遇しないかな」と、はやる気持ちを抑えながら歩いていると、目の前に突然、黒い物体が! 最初に出てきた言葉は「巨大な“まっくろくろすけ”!?」。

毛も顔もすべて黒いため、漠然とした黒い塊がうろうろしているという感じ。どんどん近づくと、ゴリラであることが認識できる。でもそのなかに1頭、まったく風格の違うマウンテンゴリラが。そう、彼こそがこのファミリーのリーダー「アガシャ」。マウンテンゴリラのオスは、12歳ぐらいになると、背中が美しい銀色の毛で覆われる、いわゆるシルバーバックという状態になる。

そしてファミリーのリーダーになると、体格も一回り大きくなるのだとか。この野生のマウンテンゴリラと、おなじフィールドに立っているというのが、なんとも鳥肌もの。これまで、アフリカでさまざまなサファリを訪れてきたけど、こんなに間近で、しかもおなじ目線で動物を観察できるのは、本当に希少な体験。映画『愛は霧のかなたに』(1988年)のモデルになった、フォッシー博士(※)が、マウンテンゴリラにはまった理由がわかるような気がした。

なぜかというと、マウンテンゴリラの群れは、人間社会に似ているから。力が強いものがボスになるのではなく、仲間からの尊敬がなければ、ボスとして受け入れられない。たとえ年老いても、仲間から尊敬されていれば、ボスのまま天寿を全うするシルバーバックもいる。シルバーバックから溢れ出るファミリーの長としての風格、これが貫禄というものなのだろう。この独特な安心感が、人を虜にするのかもしれない。

マウンテンゴリラは常に移動する。その群れの動きに合わせて、私たちも観察をつづけるのだが、最初に説明したとおり、群れに同行できるのは1時間と決められている。本当にあっという間だ。出会った瞬間は大興奮。次第に心が穏やかになっていく自分に気づく。「優しいことは強いこと」。マウンテンゴリラは、そんなことを私たちに気づかせてくれる気がした。

東アフリカの小さな国、ルワンダ。この小さな赤道直下の国にあるのは、人の手によって紡がれる日々の暮らし。もちろん、資本主義経済の波が押しよせ、暮らしも急速に変化している。ジェノサイドを乗り越え、2003年に制定された新憲法によって、民族間の融和、男女の平等性の保証、環境保護など、小さな国、小さな政府ならではの、グローバル時代に適応する体制づくりが進められているのだ。これからの発展が楽しみな国である。

そんなポジティブなイメージがフツフツと沸いてくる旅。マウンテンゴリラが導く、環境保護と経済、文化の発展。そんなフレーズがぴったりくる魅力的な国「ルワンダ」へ、ぜひ訪ねてみてほしい。

※フォッシー博士=ダイアン・フォッシー。ルワンダの森林で、18年間にわたってマウンテンゴリラの生態系の調査をおこなったアメリカの動物学者/動物行動学者/生物学者。

           
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