試乗|AUDI RS5
AUDI|アウディ RS5
美と優等のなかに潜む、圧巻の走り(1)
450psのエンジンに、アウディ独自の四輪駆動技術「クワトロシステム」の最新世代を組みあわせるアウディRS5。9月13日に発売されたばかりの“高性能プレミアム スポーツクーペ”の試乗インプレッションをお送りする。
文=小川フミオ写真=荒川正幸
速さを彩る、たおやかなボディ
「RS」はアウディの頂点に立つともいえるスポーツモデルで、専用のチューニングをはじめ、内装、外観ともに、特別な手がほどこされている。1994年のRS2アバントが第1号で、当初はポルシェエンジニアリングが手がけていたが、2000年以降は、アウディの子会社「クワトロGmbH」がすべてをおこなっている。速いだけでなく美しい。それがRSのもつ価値だといえる。
A5をベースに開発されたRS5、そのエレガントなボディについて「私がこれまでデザインしたなかでもっとも美しいクーペ」と、当時デザイン部門を統括していたワルター・デシルバはいいあらわした。そこに、450psを誇る4.2リッターV8エンジン、専用開発されたスポーツサスペンションシステム、そして最新世代の「クワトロ」4輪駆動システムを搭載している。
細かなトルク制御による抜群の操作性
アウディが誇るフルタイム4輪駆動システムがクワトロ。RS5では、さらに新技術が盛りこまれ、スポーツドライビングの地平が広がった。ひとつはクラウンギア式センターディファレンシャルの採用。前輪と後輪それぞれのトルク配分制御についての技術だ。通常は前輪側に40パーセント、後輪側に60パーセントの割合でトルクが配分される設定になっている。しかし、走行状況によって前後いずれかにより多くの駆動力が必要になった場合、瞬時にトラクション配分を変更するシステムだ。最大で前輪に全トルクの70パーセントまで、後輪には85パーセントの配分が可能になっている。
RS5の新世代クワトロシステムには、もうひとつ、スポーツ走行性能を高める技術が搭載された。スポーツディファレンシャルといい、後輪側の左右輪へのトルク配分を可変制御するシステムだ。カーブを曲がるさい、外側のタイヤに後輪のトルクの大部分を伝達することで、車両が外側にふくらんでいくのを防ぐ。それによってステアリング特性がニュートラルに近くなり車両の操作性が向上。かつ、高速でカーブを曲がれるようになる。
4.2リッターエンジンは高性能化と並行して、各部に手がいれられ高効率化、すなわち低燃費化もはかられている。10・15モードは7.8km/ℓになる。エネルギー回生システムや、7段のツインクラッチシステムを採用したSトロニック トランスミッションなどの貢献度も大きいはずだ。
AUDI|アウディ RS5
美と優等のなかに潜む、圧巻の走り(2)
静かに居座る、手造りのエンジン
「アウディRS5が標榜するのは、Perfect Blend of Performance and Design。高性能と至極の美しさをもつデザインの組みあわせは、ほかのクルマではえられない価値です。ただエンジンは専門の職人による手作業でくみ上げるため、生産に多くの時間を必要とします。そのため日本には初年度に100台のみ供給することを予定しています」とアウディ ジャパンと語る。
実際のアウディRS5の操縦感はスポーツカーに近かった。450psの最高出力を8250rpmで発生するという設定のエンジンにまず驚く。専任の職人が手でくんでいるといわれるエンジンの回転はどこまでもなめらかに上昇していく。このスムーズさには感銘を受けた。
回転計の針はレーシングカーのように、0rpmが6時の方向、つまり真下に位置している。アクセルペダルを踏めば、この針がはじかれたように回っていくさまを体験すると、RS5が特別なクルマであることを実感する。
100km/h加速はわずかの4.6秒!
エンジンルームを開けると赤いカムカバーのなかにパワーユニットが美しく、ひとつの「作品」のように居座っている。発進加速はパワフルで静止から100km/hまで加速するのにわずか4.6秒というだけあり、弾丸のように出力する。
走行モードを室内のボタンで切り替えられる「アウディ ドライブセレクト」が標準装備されている。Comfort、Auto、Dynamic、そしてドライバーがハンドルや加速やサスペンションの設定を選べるIndividualと、4つのモードがある。Comfortはハンドルの切れ角も比較的大きく、ダンパーもソフトになり、高速走行時などに向いている。トルクがたっぷりあって、快適に走れるクーペという印象をあたえてくれる。いっぽうDynamicでは、まったく別の性格を味わうことができる。
アウディ ライブセレクトがコントロールするのは、エンジン特性、変速タイミング、ステアリング、スポーツディファレンシャル、エグゾーストフラップなどだ。Dynamicを選択すると、まずエグゾーストフラップの制御が変わり、弾けるようなレーシングカーのような排気音が聞こえてくる。
AUDI|アウディ RS5
美と優等のなかに潜む、圧巻の走り(3)
さまざまな顔を魅せる、アウディドライブセレクト
RS5に搭載されたアウディ ライブセレクトのDynamicモードでは、アクセルペダルをごくわずか踏んだだけで頭がのけぞってしまうほどの加速を見せる。ハンドルの切れ角はちいさくなり、ごくわずか切るだけで車体は敏感にむきを変え、それを硬くなったダンパーが支える。ハンドルの入力にたいして車両はつねにオン ザ レール感覚、つまり走行ラインがブレることなくカーブを曲がっていく。速度域はかなり高く、サーキットにもちこむオーナーもいるぐらいで、秘めたポテンシャルの高さが伝わってくる。
ドライビングの最適なトルクをつねにえるために変速制御も細かくおこなわれる。RS5にあたえられた強力なブレーキを踏んで減速していくときも、Dynamicモードでは、自動的にブオンッとなかぶかしをいれながら、ギアをひとつずつていねいに落としていく。そこからアクセルペダルを踏めば、たちどころに加速が体験できる。
ていねいな造りからあらわれる荘厳な価値
A7をはじめ、他モデルでも採用されているアウディ ドライブセレクトだが、加速の鋭さ、減速時の細かな制御、そしてコーナリング性能、どれもひときわ抜きんでているRS5では、その魅力を2倍にも3倍にも感じられる。ComfortとDyamicをつかいわけると、ふたつのクルマを手にいれたような気にすらなる。
インテリアは美しい形状とともに、ホールド性のよい特別性のスポーツシートが目を惹く。バックレスト部分に“RS5”とエンボスで加工されている。ハンドルも専用デザインで、人間工学的に断面形状をデザインした、というだけあって、握り具合はたいへんよい。RS5のためにていねいにステッチがほどされたシフトレバーも、デザインとパフォーマンスの融合というコンセプトにぴったりの、個性的なデザインはまるで工芸品の荘厳ささえ秘めているようだ。
ダッシュボードの造形がすこし素っ気ないのが残念だが、居心地のよい空間だ。後席はいざというときに2人の大人が乗ることもできるし、広い荷室は機能的。つかい勝手のよいスポーツカーが欲しければ、RS5は選択肢にいれるべきだろう。
Audi|アウディ RS5
ボディ|全長4,649×全幅1,860×全高1,366mm
エンジン|4.2ℓ V型8気筒DOHC
最高出力|331kW[450ps]/8,250rpm
最大トルク|430Nm[43.8kg]/4,000-6,000rpm
CO2排出量|298g/km
駆動方式|フルタイム4輪駆動
トランスミッション|7段Sトロニック
価格|1204万円
アウディコミュニケーションセンター
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