特集|真の避暑地を求めて~長野の至宝、信濃町へ~|第3回「森林セラピーのすすめ」
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2015年4月6日

特集|真の避暑地を求めて~長野の至宝、信濃町へ~|第3回「森林セラピーのすすめ」

特集|真の避暑地を求めて
大正時代からつづく“癒しの町”――長野・信濃町

第3回|森林セラピーのすすめ

第2回「自然の恵みを享受する野菜キュイジーヌ」を先に読む

“医師”のいる森へ

「森林セラピー」という言葉をご存知だろうか? 「森林浴」からさらに一歩進み、森の持つ癒し効果を利用して、疲れた身体と心の回復を目指す森林療法を指すのが、森林セラピーだ。これまで単に「気持ちがいい」と感覚的に捉えていた癒し効果を、科学的に裏づけしたものだといえる。

では、その癒し効果とはいったいどんなものか。独立行政法人森林総合研究所の研究によれば、森のなかに身を置くとストレスホルモンが減る。さらに血圧が沈静化し、自律神経のバランスも整えられるのだという。心身の疲れを癒すだけではなく、病気になりにくい身体を作る、予防医療の観点からも注目されているのだ。

産官学が連携して発足した森林セラピー研究会は、なかでも癒し効果が高いと立証された全国24カ所の森を「森林セラピー基地」として認定。信濃町に位置する「癒しの森」も、そのひとつとして認定されている。とりわけ町在住の作家、C. W. ニコルさんが牽引する「アファン5センスプロジェクト」(※)など、基地として認定される前から、草の根レベルで、森に森林浴以上の効果を見出していた信濃町は、森林セラピーの先頭を切るパイオニアだ。

その重要な担い手となっているのが、町独自の講座によって養成された「森林メディカルトレーナー」。医師とも連携の取れた彼らは、森の癒し効果を最大限に引き出す森林セラピーの専門家。その役割は、森の魅力を伝える案内役だけに留まらない。信濃町に点在する散策コースを案内しながら、私たちが森のなかで五感を解放したり、正しい呼吸法で新鮮な空気を取り入れるのを手助けしてくれる、カウンセラーやセラピストに限りなく近い存在なのだ。

信濃町が誇る多種多様な散策コース

今回、私たちを森にいざなってくれたのは、森林メディカルトレーナーのひとりで、森林療法を研究する「信濃町森林療法研究会ひとときの会」の会長も務める鹿島岐子さん。驚いたのは、森に入る前日に「アセスメント」と呼ばれる顔合わせがおこなわれたこと。「次の日、心置きなく快適に森で過ごしてもらうため。それから『こういう人と歩くんだ』という安心感を持ってもらうために、可能な限りこのような場を設けています。服装や心構えについて不安があるという方には、事前に電話やメールでやり取りをすることもありますね」と鹿島さん。

野尻湖の湖畔周辺を歩く「象の小径コース」や、黒姫高原から「日本の滝百選」に選ばれた地震滝(苗名滝)までの約7キロの距離を、4時間半かけて歩く「地震滝コース」。さらに私たちが体験したビギナー向けの「御鹿池(おじかいけ)コース」まで、距離もレベルもさまざまな10の散策コースが設けられている。

この御鹿池コース、個性的なラインナップのなかでかなりの異彩を放っている。観光名所のひとつ「黒姫童話館」を中心として、御鹿池を一周する約1.2キロのコース。距離が短く平坦な道で、小さな子どもからお年寄りまで幅広い層に親しまれている。なによりユニークなのはコースの所要時間。子どもでも40分で歩き終わる距離を、なんと3時間かけて歩くのだ。

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スタートして1時間半程歩いたところで小川に到着。「裸足になって、小川に足をつけてみましょうか。足の血行が刺激されて、全身がポカポカ温まってきますよ」という鹿島さん。

生命力溢れる草木の香り、上から下に向かって流れる水の音、できたての空気の味……それは森が持つ魅力を存分に味わう3時間の旅。鹿島さんは「このコースは、ただ森を歩くだけのではなく、森を味わうという表現の方がしっくりくるかも知れません。激しいノルディックウォーキングから、ゆっくりウォーキングまで受け入れる、ふところの深さもこのコースの魅力です」と語る。

「忘れたものを思いだすまでどうぞ」

御鹿池コースの出発点である、黒姫童話館の前に書かれた「忘れたものを思いだすまでどうぞ」の文字。これはいまから約30年前、ミヒャエル・エンデ(※)が描いた童話『モモ』のなかに出てくる言葉だ。ゆっくりとした時間が流れていた町に、時間泥棒がやって来るという『モモ』のストーリーは、忙しい日々を過ごす現代人を象徴しているようだ。鹿島さんは言う。「まさに私たちがなくしがちな心を、眠ってしまった五感を、呼び起こすパワーが森には備わっている」のだと。

「規則的なもので埋め尽くされた都会では、知らないうちに人も“きちっ”としてくる。感覚が閉じていくんですね。反対に自然界には不規則なものがいっぱい。色も形も音も、すべてが時間とともに変化していく。たとえば、木の葉が揺れる音。聞こえてくる不規則なリズムは、閉じていた感覚をゆるめてくれるんです」

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クワ、コシアブラ、ハナイカダなどの食べられる植物から、ウマブドウ、ドクダミ、ミズバショウといった病気や怪我に効能のある薬草まで、“森の恵み”についてレクチャーを受けながら歩を進めていく。

そうした知識の部分を知ることはもちろんだが、トレーナーの指導の下、ハナイカダに優しい苦味があることを確かめたり、クロモジのリラックス効果を体感したり、実際に見て触れて体験できるのが、森のプロと散策する醍醐味であろう。

人本来の感覚が呼び起こされる場所

散策路を進んでいくと、突然茂みが消えて視界が広がった。目の前にあらわれたのは御鹿池。ここでは「丹田式深呼吸」を学ぶ。肩幅に足を開いて、肩の力を抜いたら、大地の力をゆっくり吸い込む。この呼吸法は、全身に酸素をいっぱい取り入れ、細胞を活性化させると同時に、平常心を生み出すセロトニン神経を活発化させるという。鹿島さんは「いつでもどこでもできて、テレビのリモコンのように、パッと気持ちを切り替えられるのが深呼吸。ストレスが多い仕事や、パソコンを使う仕事だと、呼吸が狭くなりがち。森を離れても、ぜひ深呼吸を日常に取り入れてほしい」と話す。

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御鹿池を眺めながら一休み。ここでは、鹿島さんが地元の野菜を使って作った「ベジタブルスイーツ」が登場。「おからのチョコレートケーキ」や「人参としょうがのケーキ」、さらに豆腐とクリームチーズを混ぜ合わせた特製クリームを、自家製ジャムと一緒にクラッカーに乗せて食べる「豆腐のクラッカー」など、目から鱗のメニューばかり

さらに、森で過ごしたあとは「ナチュラルキラー細胞」と呼ばれる悪性変化を起こした細胞(がん細胞など)やウィルスを殺すリンパ球の数値が上がり、1カ月間その数値を継続できることが分かっている。嬉しいことに「重要なのはどれだけ歩いたかではなく、自分の身体が気持ちいいと感じる距離と時間」だという。

今回、旅の拠点とした「野尻湖ホテル エルボスコ」では、もっと気軽に自然に触れ合いたいという人のために、この秋「フォレスト・ウォーク in ELBOSCO」と題した滞在プランを用意している。これはホテルの目の前に広がる「エルボスコの森」を、森林メディカルトレーナーとともに散策、さらに翌朝は森のなかで朝ヨガを体験するというもの。

心と身体を労わる方法はさまざまだが、そのひとつに森の散策を加えてみてはいかがだろう。自分のなかに眠っていた、見る、聞く、触る、嗅ぐという人本来の感覚が呼び起こされるはずだ。

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フォレスト・ウォーク in ELBOSCO
日程|9月29日(日)、10月20日(日)
時間|9:00~11:00
料金|スタンダードツイン 1名2万1000円~
スーペリアツイン 1名2万3100円~
※1室2名利用時、1泊2食付、税・サービス料込
内容|トレーナーとともにエルボスコの森を散策、朝ヨガ
地元の食材を使用したコースディナー
身体に優しい健康的な朝食

癒しの森

http://iyashinomori.main.jp/

野尻湖ホテル エルボスコ

長野県上水内郡信濃町大字古海4847
Tel. 026-258-2111
客室|50室(ツイン、メゾネット、メゾネットスイート)
チェックイン 15:00、チェックアウト 11:00
会議室|1室
レストラン|3店舗(ダイニング「moment」、ラウンジ、バー「SOBAバー」)
www.nojirikohotel-elbosco.com

※アファン5センスプロジェクト=心に傷を負ったり、障害を持った子どもたちを森に招待し、森のなかでおこなうさまざまなプログラムを通じて、五感を刺激することで元気になってもらおうというもの。
※ミヒャエル・エンデ=ドイツ生まれの児童文学作家。黒姫児童館には、代表作である『モモ』や『はてしない物語』の直筆原稿や絵画をはじめ、2000点のオリジナル資料が収蔵されている。
           
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