アウディの未来を体験|Audi
CAR / FEATURES
2015年1月22日

アウディの未来を体験|Audi

Audi future lab tron-experience
アウディ フューチャー ラボ トロンエクスペリエンス

アウディの未来体験

今年も、アウディ フューチャー ラボにて、アウディのすすめる持続可能なモビリティについての発表がおこなわれた。今回はエクスペリエンス。無公害のクルマは、実現できるのか? 前回、提案されたさまざまなアイデアは、いよいよ現実味を増してきている。大谷達也氏のリポートをお届けしよう。

Text & Some photographs by OTANI Tatsuya

クルマとエネルギーの両方を変える理由

「アウディ フューチャー ラボ トロン エクスペリエンス」がベルリンで開催された。

エクスペリエンスというからには、体験、つまり試乗が中心のイベントであるはず。事実、今回はCNGとガソリンの両方を燃料として使える「A3 スポーツバック g-tron」、「R8」のEVバージョンである「R8 e-tron」、「A1」にレンジエクステンダーシステムを搭載した「A1 e-tron」という3台の試作車に試乗できた。

なんともぜいたくなメニューである。

でも、アウディがこのイベントでしめしたかったのは、次世代自動車の姿や、そこで用いられているテクノロジーの先進性だけではない。

昨秋開催された「アウディ フューチャー ラボ モビリティ」でも明らかにされたとおり、アウディは次世代自動車をエネルギーの供給方法とセットで考えている。

そうでなければ、本当に地球環境に優しいモビリティは実現できないというのが彼らの思想なのだ。

Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン

どうして、次世代自動車は燃料とセットで考えないといけないのか?

たとえば、一般に環境に優しいとされる電気自動車(EV)は、走行時にCO2を排出しないけれど、実は、発電所で電力を生み出す過程でCO2を排出している。言い換えれば、EVと普通の自動車とでは、発電所でCO2を出すか、走行中にCO2を出すかのちがいでしかないともいえるのだ。

それでは、発電所ではどのくらいのCO2が排出されるのだろうか? 2013年モデルの日産「リーフ」の場合、走行1kmあたり84.2gのCO2が排出される。1.4リッターTFSIエンジンを積む現行アウディ A3のCO2排出量が約150g/kmだから、リーフはその半分強のCO2を排出していることになる。この数字、意外と大きくはないだろうか?

EVを有効にするために

ただし、前出の計算は石油火力発電所で発電した場合のもの。ちなみに、この数値には発電所の建設で必要となるCO2排出量まで含まれているが、発電所から一般家庭まで電力を送る途中で発生するロスは考慮していない。しかも、燃費データはJC08モードを参照しているので、実際には84.2g/kmより悪いケースも十分に考えられる。

でも、この数値を劇的によくする方法がある。太陽光発電や風力発電のように自然エネルギーで発電すればいいのだ。そうすれば、たとえ発電所建設時のCO2を含めても、太陽光発電であれば4.3g/km、風力発電であれば2.9g/kmまでCO2排出量を抑えられる。ここまでくれば、もうブッチリギでEVが有利といえるだろう。

というわけで、おなじEVを走らせるにしても、どうやって発電するか、どうやってエネルギーを生み出すかによってCO2排出量が大きくことなることが、ご理解いただけたとおもう。

Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン

だからこそ、アウディは次世代自動車とエネルギー供給をセットで考えているのである。

Audi future lab tron-experience
アウディ フューチャー ラボ トロンエクスペリエンス

アウディの未来体験 (2)

g-tronが走ると地球のCO2が減るのか?

たとえば、今回試乗した「A3 スポーツバック g-tron」(以下、A3 g-tron)。

ドイツでは発売済みの3代目「A3 スポーツバック」をベースとしたこのモデルは、ガソリンと天然ガスのどちらでも使えるバイフューエルカーで、110psを発揮する1.4 TFSIエンジンは天然ガスでも活発によく走り、いかにも最新のアウディらしく機敏なハンドリングを見せるのはもちろんなのだが、大切なのは、その燃料であるアウディ e-gasの生成プロセスにある。

これについては昨秋開催された「アウディ フューチャー ラボ モビリティ」で詳しく説明されたが、風力発電で生まれた余剰電力によって天然ガスに近いe-gas(化学的にはメタンガス)を生成するところが目新しい。

水(H2O)を電気分解すると水素(H2)と酸素(O2)が取り出せる。ここで得た水素に、空気中から取り込んだCO2のうちのC、すなわち炭素を化合させるとCH4が生まれる。これがメタンである。前出の余剰電力は水を電気分解する際に使われる。

いっぽう、メタンを生成する過程でCO2を取り込むため、e-gas生成時にはCO2を排出するどころか、逆にCO2を消費することになる。つまり、e-gasはCO2ニュートラルではなく“CO2マイナス”なのである。

Generation of e-gas|eガスの製造方法

どのくらいマイナスかというと、1km走るのに必要なメタンを生成すると95gのCO2を消費するらしい。ただし、この施設の建設に1km走行あたり20gのCO2を排出するので、差し引き75gのCO2を消費していることになる。

いっぽう、A3 g-tronは1km走行すると95gのCO2を排出する。おなじA3 g-tronをガソリンで走らせたときのCO2排出量は113g/km。数値のちがいは、燃料の性質によるちがいと考えていただければいい。

言い換えれば、天然ガス(CNG)で走るクルマはガソリンで走るクルマよりも環境に優しいが、それでも、無視できない量のCO2を排出していることになる。CNG車といえども、燃料を燃やしてエネルギーを取り出しているからには、CO2の排出は免れないというわけだ。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

メーターにはガソリンとCNG 両方の残量が表示される

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

CNGタンクはラゲッジフロア下に収納されている

いっぽう、e-gasは生成過程で75gのCO2を消費している。ということは、走行時に95g/kmのCO2を排出しても、エネルギー生成時のCO2消費量と相殺すればわずか20g/kmしかCO2を発生しないことになる。これは、自然エネルギーによる電力でEVを走らせたときにはおよばないが、火力発電による電力でEVを走らせたときよりもはるかにCO2排出量が少ないことを意味する。

日本の総発電量のうち、自然エネルギーによるものは1パーセントほど。80パーセント近くが火力発電によるものなので、e-gasで走るA3 g-tronのほうが、日本の電力で走るEVよりもCO2排出量が少ないとも考えられるのだ。

Audi future lab tron-experience
アウディ フューチャー ラボ トロンエクスペリエンス

アウディの未来体験 (3)

どうやってe-gasを買うのか

もっとも、e-gasを生成できるのは、いまのところドイツ国内のヴェルルテという街に建つパイロット工場のみ。ここでのe-gasの生産量は年間1,000トンほどで、これは1,500台のA3 g-tronが年間1万5,000kmほど走行するのに必要な量に等しい。

ドイツ全体の天然ガス消費量から見ればほとんど無視できるほどわずかな量で、だとすれば、その貴重な燃料をどこで手に入れるかという問題が浮上してくる。

そこでアウディは、このe-gasをドイツ全国に張り巡らされた天然ガス供給網に流し込む方針を打ち出した。そしてe-gasを購入する権利を、専用のカード(アウディ e-gas フューエルカード)による精算という方法で販売することにしたのだ。

自分が実際に消費したエネルギーがどうやって生まれたかにかかわらず、自然エネルギーの生成に必要な追加コストを負担することで便宜的にその自然エネルギーを購入したことにするこのシステムは、日本のグリーン電力に近い考え方だ。こうすれば、e-gasを求めて遠くのCNGステーションまで足を運ぶ不便と無駄を解消できる。実に賢いシステムといえるだろう。

なお、アウディ e-gas フューエルカードはA3 g-tronのユーザーだけが購入可能。肝心のA3 g-tronは2013年末には市販される(日本での発売は未定)。

CNGだけで400km、ガソリンだけでも900kmの航続距離を有するA3 g-tronの価格は「通常のA3に、CNG用タンクや燃料系統の切り替えに必要なコストが上乗せされた程度」というから、この種の次世代自動車としては破格の安さになるかもしれない。

Audi future lab tron-experience
アウディ フューチャー ラボ トロンエクスペリエンス

アウディの未来体験 (4)

EVはクルマじゃない!?

現在、ドイツでは政府主導で電気自動車(EV)の実証実験「Electric Mobility Showcase」が実施されている。ここでEVの大きな欠点として取りざたされているのが、航続距離の短さ。

日本では公称200km+αの航続距離でも消費者に受け入れられているようだが、自動車で長距離を移動することの多いヨーロッパ、とりわけドイツでは、この程度の航続距離では自動車として認めてもらえないらしい。別項で紹介するEV、「R8 e-tron」の発売が当面見送られることになったのも、これが最大の理由だという。

この思想に則って開発されたのが「A3 スポーツバック e-tron」(以下、A3 e-tron)である。これもベースは1.4リッターTFSIエンジン搭載の3代目 A3。

アウディのプラグインハイブリッドといえば、OPENERSでは「A1 e-tron デュアルモード ハイブリッド」(以下、A1 DMH)を紹介済みだが、A3 e-tronはそれともことなる形式のハイブリッドシステムを搭載していた。

A1 DMHはレンジエクステンダーに近い考え方で、通常はエンジンで発電機をまわして発電し、この電力でモーターを駆動していた(バッテリーも別途搭載している)。

ただし、モーターだけでは力不足になると、発電機がモーターの役割を果たすとともに、エンジンの力もクラッチを介して前輪を駆動する点が目新しかった。

つまり、通常はEVのように電気の力で走り、いざとなればハイブリッドカーのようにエンジンの力でも走れる。デュアルモード ハイブリッドという名前は、これに由来するものだろう。

Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン

こちらはデュアルモードハイブリッド仕様のAudi A1 e-tron

ちなみに、A1 DMHは基本がEVだから、EV同様、変速機はなかった。前進1段、後進1段のシンプルな駆動系だったのだ。

これにくらべると、A3 e-tronははるかに一般的なハイブリッドカーに近い。

基本的な構成はアウディ「A6 ハイブリッド」や最新のBMWアクティブハイブリッドとおなじで、エンジン、モーター、ギアボックス、そして駆動輪がシリアルに接続されている。なお、クラッチはエンジンとモーター間、そしてモーターとギアボックスの間にもあるが、このギアボックスはデュアルクラッチ式の6段ATであるため、モーターとギアボックス間にはふたつのクラッチがあり、パワートレーン全体では3つのクラッチを持っていることになる。

A3 e-tronのエンジンが150psと250Nmを生み出す1.4 TFSIであることは前述のとおり。

モーターの最高出力と最大トルクは102ps、330Nmと力強く、システム全体では204psのハイパワーと350Nmのトルクを生み出す。

この結果、最高速度は222km/h、0-100km/h加速は7.6秒という侮りがたいパフォーマンスを実現している。なお、バッテリーの容量は8.8kWhで、およそ50kmのEV走行が可能という。

Audi A3 Sportback e-tron|アウディ A3 スポーツバック eトロン

今年末もしくは来年早々に発売される見通しのA3 e-tronには残念ながら試乗できなかったが、A1 e-tronのステアリングを握るチャンスには恵まれた。もっとも、こちらはDMHではなく、2010年に発表されたシングルロータリーエンジンをレンジエクステンダー用に搭載したモデルの進化版で、モーターの最高出力が75kwから85kwへ、バッテリー容量が12kwhから13.3kwhに増強されたのが特徴。これに伴い、エンジンもシングルロータリーの方式は変えずに排気量を254ccから354ccに拡大し、最高出力も10kw増しの25kwとされている。

Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン

Audi A1 e-tron|アウディ A1 eトロン

そのフィーリングはといえば、今回はバッテリーで走行できる50km圏内の試乗だったため、エンジンはかかることなく、したがって通常のEVとまったく変わらない印象だった。もっとも、スムーズなことで知られるヴァンケルエンジン(ロータリーエンジン)は一定回転数でまわってバッテリーを充電するだけだから、かりに始動したとしても気づかなかったかもしれないが……

Audi future lab tron-experience
アウディ フューチャー ラボ トロンエクスペリエンス

アウディの未来体験 (5)

見果てぬ夢ではない

今回はル・マンカーの「R18 e-tron quattro」についても紹介された。510ps、850Nmを発揮するV6ターボディーゼルエンジンにくわえ、150kwを発生する電気モーターで前輪を駆動するこのレーシングカーは、クワトロであり、ハイブリッドカーでもある。

もっとも、クワトロになるのはレースの規定により120km/h以下で、回生エネルギーの保存はバッテリーではなくフライホイール式という特異な方法を用いているものの、2012年ル・マン24時間レースで見事優勝し、「ル・マンを制した史上初のハイブリッドカー」との栄誉を得た。「レースは走る実験室」と位置づけるアウディならではの活躍といえる。

やや座学的な意味合いが強かった昨秋の「アウディ フューチャー ラボ モビリティ」にたいし、試作車への試乗という形で次世代自動車とエネルギー供給方法の実現性がより明確にしめされた今回の「アウディ フューチャー ラボ トロン エクスペリエンス」。

およそ半年ぶりに再会したe-fuels担当のミハエル・クリーガーは「e-dieselプロジェクトは、水とディーゼル燃料の分離で問題が起きて一時停滞しましたが、いまやこれも解消され、順調に開発は進んでいます」と教えてくれた。

Audi A3 Sportback g-tron|アウディ A3 スポーツバック gトロン

アウディの未来は、おもいのほか近くまでやってきているのかもしれない。

           
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