テスラ モデルSを日本で早速テストドライブ|Tesla
Tesla Model S|テスラ モデル S
シリコンバレー発 フルオリジナルEVに日本で乗る
テスラ モデル S に試乗
近い将来、個人が移動するための手段が電気自動車だけになるということは、おそらくない。しかし、電気自動車を欠いた社会というのも、またありえない。「ロードスター」をひっさげて、鮮烈なデビューを飾ったアメリカの電気自動車メーカー テスラモーターズが完成させた、初のフルオリジナルマシン「モデルS」の、予約、試乗は、日本でももうはじまっている。OPENERSは塩見智氏とともに、さっそくモデルSに乗りに行った。
Text by SHIOMI Satoshi
Photographs by MOCHIZUKI Hirohiko
日本でもモデルSに乗りたい
10カ月前、アメリカで試乗して衝撃を受けたテスラ「モデルS」に、今度は東京で乗った。10カ月前とおなじくらい衝撃を受けた。
テスラ・モーターズの第2弾にしてフルオリジナルEVのモデルS。昨夏、アメリカ フリーモントにある同社工場をラインオフし、北米を中心に今年第一四半期までに目標の4,500台を上まわる4,750台を販売した。テスト車両にナンバープレートがついたので、早速手を挙げ、都内の一般道で試乗した。
大きく、広い
室内はルーミーそのもの。サイズを比較したクアトロポルテやXJより確実に、おそらくSクラスよりも室内空間は広く、シンプルなインテリアデザインや薄いフロントシートの効果もあって、ちょっとしたリビングルームにいる感覚だ。
テスト車にはオプションの全面ガラスのパノラミックルーフが備わっていたこともあり、室内の明るさも体感的な広さに拍車をかけた。
レザーシートは特別上質なものではないが、不満に感じるほどでもない。フロアにはリチウムイオンバッテリーが一面に敷き詰められているのだが、それでも着座位置は標準的か、少し低めかなと感じる程度。明るく広くシンプルで、とにかく居住まいがよろしい。
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テスラ モデル S に試乗(2)
テスラの世界
運転席に座ると、ハードスイッチの少なさに気づく。ステアリングポストから生えるシフトレバーとウインカーレバー、それからドアにつくパワーウインドウのスイッチはメルセデス・ベンツとおなじ部品を使うが、その他はオリジナル。
ステアリングホイール奥のメーターは画面で、走行中は必要な情報をデジタル表示する。
センターパネルの17インチタッチスクリーンがインテリアのハイライト。ここでほとんどの機能を設定することができる。モデルSには3Gのデータ通信(日本でのキャリアは未発表)を可能とし、ウェブにアクセスすることができるため、カーナビはグーグルマップを使えばいい。
今回のテスト車はアメリカ仕様のままのため、ウェブを使うことはできなかったが、昨年アメリカで試してみた結果、17インチ一面にグーグルマップを表示させるとなかなか壮観なものがあった。
このほか、サンルーフの開閉、回生ブレーキの強弱、クリープの有無、ステアリングの重さ、トラクションコントロールのオン/オフ、トランク開閉、そもそもクルマを始動──起動といったほうがしっくりくるが──させるのもこのタッチスクリーンでおこなうため、物理的なスイッチ類は本当に少ない。ハザードとグローブボックス開閉スイッチくらいか。
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テスラ モデル S に試乗(3)
脳がおいていかれる
内燃機関のクルマ同様、始動後にレバーをドライブに入れてアクセルを踏めば、クルマは進む。ま、その前にほぼ毎朝充電プラグを抜くという作業がくわわるが。
モデルSは前進1段、後進1段のみ。アクセル開度に連動したモーターの回転数のみによってスピードが決まる。
直線でいきなり深く踏んで後悔した。一部の特別にパワフルなクルマ、すなわち500ps超のクルマで急加速したときの、あの脳が置いていかれる感覚がやってきた。最高出力310kW(416ps)/5,000-8,600rpm、最大トルク600Nm/0-5,100rpmを発する。トランスミッションは1速で減速比9.73:1の固定ギアが備わる。
テスト車は85kWhパフォーマンスというパワフルなバージョンで、0-60mph加速は4.2秒。もっと速いクルマはあるが、モデルSの場合、音もなく4.2秒という経験にない感覚に包まれ、慣れるまでは不気味にすら感じるが、そのうちくせになる。
あまり上品な理由ではないが、はっきり言って、モデルSを買うということは、この加速を買うということだとおもう。
対外的には「環境…」や「あたらしさ…」など、適当に理由を見繕えばいい。でもこの加速は、発進加速も中間加速も病みつきになる。ただ、前に重い物がないので、急加速時、ステアリングフィールが希薄になるから要注意だ。
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テスラ モデル S に試乗(4)
その乗り味
車重は2,108kg。少なく見積もっても500kgはリチウムイオンバッテリーの重量だ。85kWh分のバッテリーがホイールベース間の床下に10cmくらいの厚さで敷き詰められている。
この重さは走りの邪魔になるが、現状ではEVは航続距離を伸ばそうとすればするだけバッテリーの重量が増すのは避けられない。テスラはせめて最適な位置(前後重量配分は48:52)に配置しようと床下に薄く敷く設計とした。モーターはリア車軸の位置にインバーターとともに置かれる。
この重量最適配分とあり余るトルクのおかげで、2.1トンのクルマを動かしている感覚はない。コーナリングと呼べるような曲がり方を試す機会はまだないのだが、ステアリングを切れば、遅れなくスッと曲がる。混雑した交通の中では車体の大きさから気を使うが、ステアリング、アクセル、ブレーキともに操作してから反応するまでのタイムラグがほぼないので、動かしやすい。
特にアクセル操作にたいする反応は鋭く、加速しようとおもっただけで速度が増すようだ。
フロント:ダブルウィッシュボーン、リア:マルチリンクのサスペンションはしなやかに動くが、すべての速度域でのフラットネスが今ひとつで、このあたりは既存のプレミアムカーのほうが上。モーターで動こうとエンジンで動こうと、足まわりのチューニングには経験が不可欠なのかもしれない。ただ、10カ月前に乗った個体よりクオリティも乗り心地も向上しているので、生産が進むにつれてよくなるはずだ。
航続距離は?
気になる航続距離は、今回乗った85kWh仕様だと、アメリカのEPA5サイクルで265マイル(426km)。欧州のNEDCでは500km。日本仕様はこのデータをカタログスペックとするようだ。一般的な燃費表示とおなじように7掛まで割引く必要はないはずだが、7掛けだと考えても、一度の充電で約300kmの走行が可能だ。EPAの複合電費では89MPGe。「リーフ」は99MPGeだから、電費自体はリーフのほうが少しよい。航続距離の差はバッテリー容量の差。
テスラ・モーターズ・ジャパンによると、1時間の充電で200Vの場合には85km分を走行することが可能。東京駅から箱根湯本駅まで、東名高速と小田原厚木道路を通って86.0km(グーグルマップによる。行って来いだから高低差は無視)。箱根で20km走り回って帰ってくる一泊二日の旅行の場合、途中で充電しないでも余裕で帰ってこられることになる。こう考えるとかなり現実的だ。日本仕様はCHAdeMO式の充電に対応する予定という。
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テスラ モデル S に試乗(5)
積載能力も優秀
実用性にも触れておきたい。リアハッチを開けると744リットルのラゲッジスペースがあり、リアシートバックを倒すと1,645リットルのスペースが生まれる。
さらにこのクルマにはフランク(テスラがつくった「フロントトランク」の略語)があり、150リットルの容量をもつ。前述したように居住空間も広々としていて、フロントまわりにもちょっとしたストレージが多数確保されているので、5人+それなりの荷物を飲み込んでしまうはずだ。
リアラゲッジスペースは最後部が深く掘り下げられていて、そこへ足を入れる格好で、後ろ向きに座れる2座の子供用シートもオプションで用意される。ただしこれは本当に子供しか座れない。
最近はやりのプリクラッシュブレーキはまだ用意がないようだが、そのほかは現代の高級車に備わる機能はほぼ完備している。
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テスラ モデル S に試乗(6)
テスラvs.メディア
テスラは自動車業界の既存の勢力ではないまったくのニューカマーであり、ファンからは熱狂的な支持を得ているが、いくつかの洗礼も浴びせられている。
例えば、イギリスの人気テレビ番組『Top Gear』は「速いが、充電に時間がかかりすぎてスコットランドまで実際には3日かかる」とか「航続距離が謳っているよりずっと短い」などと、いつもの調子で放送。これにたいし、テスラは訴訟を起こしたが「『Top Gear』は娯楽番組で、表現はユーモアの範囲」などとして棄却された。
また、モデルSをテストしたニューヨーク タイムズの記者が「きちんと充電したにもかかわらず、すぐに容量がなくなって、レッカー移動するはめになった」などとリポートしたことにたいして、テスラは「彼のリポートが掲載された後、数百件のキャンセルが出た」と激怒。なんと記者の走行した際のデータを公開した上で「彼はきちんと充電していないし、記事に書いているよりもずっと飛ばして走行した」と反論。同紙は記者の誤りを認め、謝罪するも、走行データを公開したことにたいしては「記者のメモとデータが必ずしも一致するとは限らない(意図的にうそを書いたという証拠にはならない)」という声明を出した。
EVどこへゆく
日産リーフがおもったよりも売れず、2度にわたって値下げをしたり、発売直後の三菱「アウトランダー PHEV」の電池に問題が発生して販売が中止されたり、自動車ではないけれど、鳴り物入りでデビューしたボーイング787のバッテリーにトラブルが発生したりしている。
それでも、やっぱりいつまでも内燃機関のみでいこう!というわけにはいかず、これまでエンジンが担ってきた移動のうち一定の割合を電気モーターが受け持つようになるという流れは変わらない。
過渡期でいろいろあるけれど、ひとつずつ問題を片付けていけば、EVは無限のとは言わないまでも、かなりの可能性を秘めている。ということを、モデルSは、これでもかというほど感じさせてくれる。
日本での価格は未定だが、予約はもうはじまっており、試乗も受け付けている。日本でのデリバリー開始は今年後半とだけアナウンスされている。今回テストした上級のシグネチャーの場合、予約金は350万円。待てば右ハンドルもやってくる。
アメリカでの価格は、バッテリー容量60kWh仕様が6万2,400ドル、85kWh仕様が7万2,400ドル、85kWhのパフォーマンス版が8万7,400ドルだが、入ってくる台数を考えると、日本では相当に乗っかった価格になるはずだ。
それでももう結構な数の予約が入っているというから、EVの時代は富裕層の間にはもうとっくにやってきているのかもしれない。
Tesla Model S|テスラ モデル S
ボディサイズ|全長4,978×全幅1,964×全高1,435mm
ホイールベース|2,959 mm
トレッド 前/後|1,661 / 1,699 mm
トランク容量(VDA値)|
(フランク)|150.1リットル
(フロント合計)|229リットル
(リア) |755.7-1654.2リットル
重量|2,108 kg
最高出力|
(85kWhバッテリー搭載Performance) 310kW(420ps)
(85kWhバッテリー搭載) 270kW(362ps)
(60kWhバッテリー搭載) 225kW(302ps)
最大トルク|
(85kWhバッテリー搭載Performance) 600Nm
(85kWhバッテリー搭載) 440Nm
(60kWhバッテリー搭載) 430Nm
駆動方式|RR
サスペンション 前|ダブルウィッシュボーン
サスペンション 後|独立マルチリンクコイルスプリング
タイヤ|245/45R19(245/35R21をオプション設定)
*数値は米国仕様のもの