レンジローバーに試乗| Range Rover
CAR / IMPRESSION
2014年12月5日

レンジローバーに試乗| Range Rover

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

レンジローバーに試乗

本格的オフローダーとしての走破性能と、高級サルーンと肩を並べる快適性。初代から、その姿勢を貫いてきたレンジローバー。およそ10年ぶりにフルモデルチェンジを果たした新型はそれをどう進化させたのか? 小川フミオ氏がひもとく。

Text by OGAWA Fumio
Photographs by ABE Masaya

ひとつの極に到達した

フルモデルチェンジを受けた4代目「レンジローバー」に試乗した。日本では、375馬力の5リッターV型8気筒エンジン搭載モデルと、おなじV型8気筒にスーパーチャージャーを組みあわせた強力な510馬力モデルの2本立て。さらに後者には、装備をより豪華にした「オートバイオグラフィー」なるサブネームをもったモデルが設定されている。

レンジローバーはかつてから、四輪駆動のロールス・ロイスなどと呼ばれ、日本ではあまり知名度が高くなかった1980年代までは、ロンドンなどに行くと、ジャガーなどの高級サルーンを尻目に、背の高いレンジローバーを得意げに乗りまわしている“ポッシュ”な富裕層の姿を目にしたものだ。

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

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レンジローバーがなぜ、なみいる高級セダンより上に位置づけられていたかというと、これに乗るひとは、乗る必要があるとみなされたからだ。つまりスコットランドなどに土地をもつひとは、グラウンドクリアランスの大きな四輪駆動車を必要とする。その必然性こそ、レンジローバーを最強の高級車たらしめてきたのだ。

もっとも本当の実用性でいえば『ひつじのショーン』でもおなじみ、「ランドローバー(ディフェンダー)」があり、レンジローバーは、革内装にウッドパネルの仕様を設けるなど、もうすこし高級イメージに寄ったニッチ(すきま)商品だった。その「高級」ぶりは、モデルチェンジを経て磨かれてきた。

最新型は、その「高級」な部分を、いままで以上に明確に打ち出したものだ。車体は5メートルを超え、車高は2メートルに届くいきおい。美しく輝く塗装をまとったボディの内部には、馥郁たる香りを放つレザーと、磨かれたウッドと、きらめくクロームで構成された室内空間がひろがる。

レンジローバーは、今回、オーナーたちがこのクルマに求めてきたものを、より完全に近いかたちで提供することを目指したものとみられる。快適性の高い室内に身を落ちつけ、豊かなトルクによる力強い加速と、大型ボディから想像されるよりはるかにスポーティな操縦性を味わうと、レンジローバーは自動車のひとつの極に到達したというおもいを強くするのだった。

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レンジローバーに試乗(2)

ライバルはSUVでなく高級サルーン

「アイコンをいかに進化させるか、が今回のモデルチェンジの眼目のひとつでした」。レンジローバーブランドを傘下に収めるランドローバーの日本法人の広報担当者はそう語った。「四輪駆動のロールス・ロイス」をいかに現代的にアップデートし、「ライバルはSUVでなく高級サルーン」(ランドローバー)とされるほどの価値を高めていくか。そこが今回のモデルチェンジにおけるもっとも重要な点だったようだ。

レンジローバーの美点は、1970年に発表された初代のイメージを、きちんと守っているところにある。ひとつは外観上の特徴である「フローティングルーフ」。すべてのピラーをブラックアウトして、車体と同色の屋根があたかも浮いているかのように見せ、車体を必要以上に重く見せないというデザインテクニックだ。初代の開発を総指揮した伝説的なエンジニア、スペン・キングが確立したこのデザインコンセプトを、40年以上にわたり守っている。こういうところは、ヘリティッジを大切にする現代の「高級」にふさわしい、と目されるのだ。

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

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初代は、悪路の走破性を重視しており(スコットランドの荒れ野も走れるように)、サスペンションストロークを長くとっているかわりに、高速での直進安定時はハンドルの維持に多少の慣れが必要だった。途中のモデルチェンジで金属製のスタビライザーを装着するようになってキャラクターが多少かわり、2代目からエアサスを採用するようになって、快適・安逸な高級SUVの路線が明確になった。

「SUVとして世界ではじめてオールアルミニウムの軽量モノコックボディを採用して(中略)オンロードでのパフォーマンスおよびCO2排出量や燃費などの環境性能をあらたな次元へと高めました」と、プレスリリースでは謳う。

メーカーによると、従来のスチールボディに比してボディシェルで約39パーセントの軽量化を実現。トータルで190kgボディが軽くなっているという。大きなエンジンと軽量ボディの組合せは、まるで大型グランツーリスモのような発想だ。

ラインナップは下記のとおりとなる。

5.0 V8 VOGUE(ヴォーグ) 1,230万円
5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE 1,490万円
Autobiography(オートバイオグラフィー) 1,670万円

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

「V8 VOGUE」のパワートレインは、自然吸気の4,999ccV型8気筒で、最高出力は375ps/6,500rpm、最大トルクは510Nm/3,500rpmとなる。いっぽう、「5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE」は、基本的にはおなじユニットにスーパーチャージャーを組みあわせ、数値はそれぞれ、510ps/6,500rpm、625Nm/2,500rpmとなる。変速機は7速から上がオーバードライブとなる8段オートマチックで、ギア比は3.545のファイナルとともに全モデル共通となる。

「オートバイオグラフィ」の特徴は、ひとことで言うと、格別豪華であること。たとえば、後席にもリクライニング機構が備わることをはじめ、ウッドやレザーのクオリティがあがり、メリディアンが手がけるオーディオも出力の大きいシステムになる。外観上では、22インチ径の軽合金ホイールが迫力だ。また、旅客機をおもわせる「リア・エグゼクティブシート」もオートバイオグラフィにのみオプションで設定される。特別なら徹底して特別であれ、という製品思想があらわれている。そこを極めているのがレンジローバーの強みといえる。

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レンジローバーに試乗(3)

しゃれたドライビングを!

実際、新型を走らせると、2,500回転で625Nmという強大なトルク(「スーパーチャージド」)で、小さくない車体が矢のように前へ進む。ホールド性のいいレザーシートに背中をあずけていると、“この爽快感のようなものが、レンジローバー人気を支えているのだな”とうなずける気がしてくる。過給がないエンジンでも低回転域からの加速感はかわらず、速度無制限のアウトバーンでも走らないかぎり、レンジローバーの走行性能の魅力はどちらのモデルでも強烈に輝いている。

「多段の変速機のメリットを活かして、最適なトルクをつかえるようになっている」とメーカーが解説するとおりで、パーシャルから、つまり走行中にさらなる加速をしたいときにギアが瞬時にかわりトルクがもりもりわき上がる。これも気持ちがいいが、こういうクルマであまり飛ばすのは、いわゆる“品”の面からすると、いかがなものかとおもう。悠揚せまらず、という操縦が、高級SUVではしゃれているのだ。

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

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まあ、とはいっても、ハンドリングも楽しく、つい飛ばしたくなる気持ちをいかにコントロールするかが、新型レンジローバーのドライバーに課せられたタスクといえるかもしれない。車高とロールセンターの関係もあり、ステアリングはセダンとまったくおなじ、というわけにはいかないが、同等である必要はもちろんない。むしろ、見晴らしのよい運転席に落ちついて、しっとりした感触の革巻きハンドルをにぎってワインディングロードを走らせるとき、ほかにはない楽しさを味わうのが本筋である。

コーナーの入り口でゆったりと車体が傾き、電子制御されたエアサスペンションが車体のロールを適正に保ちながら、4つの車輪が路面をつかまえながら、出口に向かって大きなトルクで進んでいく。レンジローバーのファンは、この走行感覚が気に入っているのだろう。

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レンジローバーに試乗(4)

ドライバーのメリット

高速走行時は、完全に無音というわけにはいかないが、車体の空力の見直しがおこなわれた結果、先代よりCD値を約10パーセント向上させることに成功し、新型では0.34という。四角く背が高いSUVとしては驚くほどいい数値だ。体感的には、高速走行時に窓まわりからの音の侵入に気づくが、不快になるほどではない。

左右でほぼ対称的なデザインのT字モチーフのダッシュボードは、右ハンドル化も左ハンドル化も容易という生産上実利的なメリットももつが、見た目の印象もクリーンで居心地のよさを生んでいるから、オーナーにもきちんとメリットがある。「コントロールの数を大幅に減らした」とメーカーが言うとおりで、各種コントローラーは機能も感触などの使い勝手も、ともに人間工学的に考えられており、運転者のメリットになっている。

ただし自分がこのクルマのオーナーではないので、たんに不慣れなせいか、ジャガー・ランドローバーに共通の円筒式ギアセレクターは、駐車場で前進と後退を繰り返すときなど、やはり使い勝手がよくない。回転という動きと、前後に動くという概念の組みあせに脳が納得していないせいだろうか。押す・引く、という動作を組み入れてはどうだろう。

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー

抗いがたいリラックス感の引力

なにはともあれ、実車に接していると、いかなる価値を提供しようとしているか、メーカーの意図が明確なため、その世界観に大きく惹かれるのは事実だ。「up!」のようなコンパクトで機能主義的なクルマに魅力を感じつつ、レンジローバーの与えてくれる、気分が沸き立ち、人生への活力がみなぎってくるようなリラックス感の引力にも抗しがたいものをおぼえる。

一見、キープコンセプトでなにも変わっていないようにおもうひともいるだろうが、SUVのなかでは、もっとも突き抜けた1台であることは間違いない。これまでレンジローバーをレンジローバーたらしめてきた価値を守りつづけることが、じつはもっとも大きな変化ということかもしれない。

spec

Land Rover Range Rover|ランドローバー レンジローバー
ボディサイズ|全長5,005×全幅1,985×全高1,865 mm
ホイールベース|2,920 mm
トレッド 前/後|
(5.0 V8 VOGUE)  1,695 / 1,690 mm
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  1,690 / 1,685 mm
最低地上高|220mm
最小回転半径|6.1メートル
トランク容量|909-2,030リットル + アンダーカバー下550リットル
重量|
(5.0 V8 VOGUE)  2,350 kg
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  2,520 kg
エンジン|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  4,999cc V型8気筒 DOHC スーパーチャージャー、可変バルブタイミング機構付き
(5.0 V8 VOGUE)  4,999ccV型8気筒DOHC 可変バルブタイミング機構付き
最高出力|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  375kW(510ps)/ 6,500 rpm
(5.0 V8 VOGUE)  276kW(375ps) / 6,500rpm
最大トルク|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  625Nm / 2,500-5,500 rpm
(5.0 V8 VOGUE)  510Nm / 3,500rpm
トランスミッション|8段オートマチック
駆動方式|4WD
サスペンション 前|クロスリンク電子制御エアサスペンション マクファーソンストラット
サスペンション 後|クロスリンク電子制御エアサスペンション ダブルウィッシュボーン
タイヤ|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  275/45R21
(5.0 V8 VOGUE)  255/55R20
(Autobiography)  275/40R22
0-100km/h加速|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  5.4 秒
(5.0 V8 VOGUE)  6.8秒
燃費(JC08モード)|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  5.3km / ℓ
(5.0 V8 VOGUE)  5.8km / ℓ
CO2排出量|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  322g / km
(5.0 V8 VOGUE)  299g / km
価格|
(5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUE)  1,490万円
(5.0 V8 VOGUE)  1,230万円
(Autobiography)  1,670万円
*表記がない項目についてはAutobiographyは5.0 V8 SUPERCHARGED VOGUEと同様

           
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