OLEDの「大峡谷」から自動通訳イヤフォンまで|CES 2018
CES 2018リポート 家電・エレクトロニクス編
OLEDの「大峡谷」から自動通訳イヤフォンまで
Photographs by Akio Lorenzo OYA / Mari OYAText by Akio Lorenzo OYA
IoT家電、加速する
マンハッタン風の町並みの向こうに“エッフェル塔”がそびえ、その先にはヴェネツィアのリアルト橋風の歩道橋が掛かるラスベガスの街並み。そこに出展企業による自動運転車がたたずむ光景は、まるで仮想都市に迷いこんだかのような錯覚を与えてくれた。
世界最大級の家電・エレクトロニクス・ショー「CES」。1月9日から12日まで開催された2018年度は、昨年とほぼ同数である3900の企業と団体が11の会場にブースを繰り広げた。
このイベントの主役である家電・エレクトロニクス部門には、ラスベガス・コンベンションセンターの中央ホールが充てられている。
今年の見どころは、「Googleアシスタント」「Amazon Alexa」といったAIアシスタントとIoT家電のさらなる連携だ。
そこに自社のAIプラットフォームを連結し、冷蔵庫ドアパネルのディスプレイに表示させたピッツァの焼き加減を隣のオーブンに伝え、同時に食洗機に食後の清掃モードを伝達する、といったデモも行われていた。
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「2.5Dプリンター」も
日本ブランドも奮闘していた。
カシオは「G-SHOCK RANGEMAN」のニューモデルGPR B1000を発表。
「世界初のソーラーアシスト付きGPSナビゲーション」機能を謳う。
そのカシオには、プロフェッショナルに向けた「Mofrel」と名づけられた製品も展示されていた。
その実体は、3Dプリンターならぬ「2.5Dプリンター」だ。
布、レザーなどさまざまなマテリアルがもつ凹凸およびカラーを再現する。紙またはポリエチレン系素材のシート上に、熱で膨張するマイクロパウダーを塗布することで行う。
プリントされた見本を手にすると、革に施されたステッチなども、きわめて繊細に表現されている。プリントに要する時間もA4で3〜6分と高速だ。
3つのグランプリを獲得した2017年「CEATEC JAPAN」に次ぐ米国プレミアで、会場ではメーカーのデザイン関係者と思われるビジターたちから熱い視線を浴びていた。
「自動車内装などのプロトタイプを制作する際に、大幅な時間短縮を実現できる」とスタッフはアピールする。
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クールなショーの熱い拍手
「レトロ」で攻めたのはポラロイドである。その起源を1977年に遡る「ワンステップ」カメラのリバイバル版である「ワンステップ2」をスターとして扱った。外観はオリジナルを踏襲しているが、ストロボやバッテリーといった各種性能はリファインされている。
2年前のCESでは多くのメーカーがアナログレコードプレイヤーをリリースして話題を呼んだが、アナログなインスタント写真機がデジタルガジェット世代にどう“刺さる”か。8枚撮りで現像まで10〜15分、円換算にして2千円というフィルムと合わせて、マーケットの反応を興味深く見守りたい。
しかしながら圧巻はLGである。同社製OLEDディスプレイを使用したトンネル状の回廊は毎回人気を博してきたが、今年は大胆な曲面型で形作った“大峡谷”で驚かせた。
その数246基、総延長27メートル。映像は何度も繰り返されていたが、あるエンディングではビジターたちから拍手が沸いた。筆者自身のCES取材は3年目だが、業界関係者やジャーナリスト向けであるこのイベントで、こうした興奮が巻き起こったのは印象的だった。
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走るトロリーケース
いっぽう、別会場であるサンズ・エクスポのワンフロアは、スタートアップ企業のためのものだ。
世界的に有名なクラウドファウンディング支援企業「インディゴーゴー」のブースあり、フランスやイタリアといった各国の政府系の経済支援機構による自国のスタートアップを集めたコーナーもある。
たとえばフランスの新興企業を集めた「フレンチテック」に出展していた「カーヴィージー・ワン」は、コネクティブなワインラックである。ワインラベルをスマートフォンで撮るだけでデータベースと照合。料理に合うワインをマッチングしたうえで、ラック内の在り処をランプで示す。
各出展社は出資者さがしに真剣なのだからその表現はふさわしくないと知りつつも、集う人々の若さも手伝って、どこか学園祭のムードが漂う。
突如、足元に何かが近づいてきた。見れば黒いボックスに若者がまたがっている。
電動トロリーケース「モドバッグ」のデモだった。
広い空港での快適な移動を想定して、シカゴのスコット・ブラッドレイとその仲間たち6人が開発したものだ。ブラッドレイによると、航続距離は6マイル(約9.6km)、価格は1495ドル(約16万円)という。ただし重さは約9kg。LCCを中心に持ち込み手荷物の重量制限が厳しくなるなか、次なるバージョンに期待したい。
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モーターショーにないもの
同じフロアに、「LINE」も擁するインターネット検索会社「NAVER」が近日リリースする同時通訳機能付きイヤフォンを手がける企業があると聞いて探した。
MARSという商品名のそれは、開会に先駆けて2018年の「ベスト・オブ・イノベーションズ賞」に選ばれた。
公式カタログに載った社名「オルフェオ・サウンドワークス」とコマ割番号を頼りに探し回ること30分。
さぞ華やかなブースと思いきや、ようやくたどり着いてみると他のスタートアップ企業に埋もれるような小さなスタンドだった。
実際に見るMARSは、すでに市販されている左右独立型のヘッドセットとあまり変わらない。その高機能に対してインパクトに欠けるといえばそれまでだが、逆に視覚的にさりげないことが評価される可能性はある。
わきで同時通訳のテスト機も用意されていて、代表のトミー・キムがハングル語、筆者は日本語での会話を試みた。残念ながら円滑な変換とはいかなかったが、満員ともいえる会場の騒音下では仕方なかろう。
聞けばキムは1973年生まれ。カリフォルニア州アーバインに同社を設立したのは僅か3年前の2015年で、従業員は約10名という。これまでノイズ・ブロッキング機能付きのブルートゥース・イヤフォンや、B2B向けのオーディオを手がけてきた。
創業僅か数年のスタートアップが、有名ブランドと同様に脚光を浴びる。もしかしたら数年後のCESで、彼らはメインパビリオンに大きなブースを構えているかもしれない。
もはや出展者が固定化したモーターショーでは得られない、エキサイティングな感覚である。