J.M. Weston|クリエイティブディレクター ミッシェル・ペリーが語る伝統と革新
J.M. Weston|ジェイエムウエストン
新作レザーグッズ「GRAND ANGLE(グラン・タングル)」発売を記念して来日
ミッシェル・ペリーが語る伝統と革新(1)
「デザイナーとしてリモージュ(ジェイエムウエストンの工場)にこもって創作をするのもいいんですが、外に出て、作品たちがマーケットでどう受け入れられているのかを見に来ました――――」と、今回の来日の目的を語るクリエイティブディレクターのミッシェル・ペリー氏。上海を経て来日、青山・骨董通りの「ジェイエムウエストン青山」で話をきいた。
Text by KAJII Makoto (OPENERS)Photographs by TAKADA Mizuho
新品より使い込んだあとのほうが美しいレザーグッズ
東京は大好きな街だというミッシェル・ペリー氏。「世界の中でも気に入っている街の、五指に入ります。東京はエネルギーに満ちていて、エレガントで、繊細された部分がある。エレガンスというと、伝統的なものを想像しがちですが、東京のエレガンスは、現代性、未来性を発し、さらに、モードファッションから芸術全般にそれを感じます」と語る。
――レザーグッズ「グラン・タングル」がいよいよ発売になりました。
「グラン・タングルは、老舗の靴メーカーとしての伝統的な製造法を大切にしながら、靴とおなじ製法で、おなじ繊細さで作っています。使用している革も靴のアッパーのレザーとソールレザーを使用しています」
――デザインはとてもシンプルですね。
「ジェイエムウエストンで本格的な革小物を出すのははじめてなので、シンプルなデザインでリリースして、皆さんの反応を見てみたかった。だから、アタッシェから財布まで、必要なものをラインナップしました。幸い、反響がとても良いので、旅行用バッグなどを構想しています」
――スペシャルオーダーも可能とか。
「はい、好みの素材でのスペシャルオーダーも可能です。また、すべての商品はオリジナルパーツを使用し、修理することもできます。ジェイエムウエストンの靴とおなじように、メンテナンスして愛用していただけるのも大きな特徴です」
――ペリーさんのバッグを見せていただけますか?
「私の使っているのはプロトタイプで、6カ月ほど使用しています。見ていただけばわかりますが、デザインに飾り付けをしなくても、そこにあるだけで美しい色気のあるバッグです。革の材質もすばらしく、ジェイエムウエストンの靴もそうですが、新品より使い込んだあとのほうが美しい。このなめらかさは一度触っていただきたいですね」
私は、靴を通して語り、旅に出ます
――さて、靴のお話をうかがいますが、2012年の6月に「イートン・カレッジコレクション」を発表しました。
「ジェイエムウエストンのお客さまはトラディショナルなモデルを好まれる方が多いですが、イートン・カレッジコレクションは、伝統的なモデルを少しモダンにアレンジして、現代的に洗練させる提案を込めたコレクションです。個人のインスピレーションとしては、伝統的なフィッティングを重視するブーツ職人のようなスピリットでリリースしました」
――また、メゾンキツネとのコラボレーションも大きな話題を呼びました。
「これもイートン・カレッジコレクションと通じますが、伝統的なものをよしとする人たちに、ジェイエムウエストンのあたらしさをどう提示するかを考えて、メゾンキツネ×ウエストンなら、あたらしさを受け入れてもらえるだろうと思いました。また、メゾンキツネのマサヤ・クロキとは友人で、マサヤがウエストンと何かできたら最高だなと言うので、僕もやってみたいなと思ったのです」
――「ウエストンとコラボしたい」というオーダーは世界中から来ると思いますが。
「コラボレーションは、あくまで特例的なものです。とくにマーケティング的なことを狙って考えているわけではないので、コラボレーションする相手とのコミュニケーションが第一ですね」
――靴のデザインで楽しいことはなんですか?
「それは、靴を通して物語を語ること、旅をすることです。靴のデザインでは、革の材質、色、デザインなど、想像することがたくさんあります。たとえば、この靴は誰が履くだろう。たとえば、オスカー・ワイルドならどんな服を着て、どこへ行くだろうと妄想するのです。そういうとりとめのない旅に出られる、物語を語ることができるのです」
J.M. Weston|ジェイエムウエストン
新作レザーグッズ「GRAND ANGLE(グラン・タングル)」発売を記念して来日
ミッシェル・ペリーが語る伝統と革新(2)
昨年創業120周年を迎えたジェイエムウエストン。これだけ長くつづく理由の一つを、ミッシェル・ペリー氏は「ウエストンの靴をコピーするのは絶対に無理だと自負しています」と語る。
ミッシェル・ペリー氏が勧める2足
――では、ミッシェル・ペリーさんが好きな靴をふたつ教えていただけますか。
「ふたつだけですか(笑)。それではまず、トリプルソールダービー(590)ですね。ソールが3枚革で、重厚感をもちながらも、スーツからスキニーパンツまでいろんなスタイルに似合います。トラディショナルでありながらオールマイティな靴ですね。
もう一つは、イートン・カレッジコレクションのモンクストラップ(487)です。ダンディなモデルですが、ストラップがアクセントになっていて、旅行靴として最適な一足です」
――トゥモローランドのメンズ事業部長兼バイヤーの中城大祐さんが、リモージュの工房を訪れて感動したというお話を伺ったことがあるのですが、どこが優れているのでしょうか?
「これだけの伝統的な手法を現在も残していることは特別なことです。今朝も、ディレクターのキャサリンと話をしていたのですが、この世の中はコピーであふれているけれど、ウエストンの靴をコピーするのは絶対に無理だと。工房での一連の作業をシステムとして確立することがいかに難しいことなのかを私たちはよく理解しています。昨年120周年を迎えましたが、幸いなことに、あたらしいオーナーやマネージャーが来て、『金になる仕事だけしろ』と言われなくて本当に良かった(笑)。そう言われたら、ウエストンの歴史は終わっています」
履けば履くほどなじんでいくジェイエムウエストンの魅力
――靴の世界では、上級(エクセレント級)の革が世界的に枯渇しているのも大きな問題ですね。
「今の世の中で、靴一足作るのに、2カ月かけるのはとんでもないこと。ウエストンは採算度外視でつくっています。現代のものづくりにまったくそぐわない作り方をしているのですが、伝統を守ることは信条なのです。革にかんしても、フランスで200年ほどの歴史をもつFREDERIC BASTIN(フレデリック・バスタン)工房と共同して、15カ月をかけてソールの革をつくっています。アッパーのボックスカーフも、PUY(ピュイ)というなめし工房を買い取り、安定的な供給体制をとっています。
また、革のクオリティを安定させるために、牧場自体を買い取って、牛を育てて、自分たちの肥料をあたえる構想を練っています」
――それはすばらしい構想ですね。ではペリーさんが挑戦したいことは?
「伝統は、過去の遺物のようにとらえられることが多いですが、近代的なものと共存共栄できると信じています。ウエストンも工芸としての伝統を守りつつ、近未来的なデザインをほどこすことは可能だと思っていますから、長生きして(笑)、そういうものをつくっていきたい」
――では、ファンにメッセージを。
「ウエストンにとって“時間”は大きなキーワードです。ウエストンの靴は、履けば履くほどなじんでいきます。最初は飼い慣らさなければなりませんが、一度飼い慣らせば一生ついていくものです。素敵な靴との出合いを楽しんでください」
――ありがとうございました。