トヨタ86 GRMNに試乗|TOYOTA
TOYOTA 86 GRMN|トヨタ86 GRMN
トヨタ86 GRMNに試乗
ニュルブルクリング24時間耐久レースのノウハウが満載
トヨタ自動車が「86」をベースに、ドイツのニュルブルクリング24時間耐久レースをはじめとするレース活動で得られたノウハウを注ぎ込んで開発した「86 GRMN」。648万円のプライスタグが下げられ、100台限定で販売されるという注目の同モデルに、モータージャーナリスト小川フミオ氏がさっそく試乗した。
Text & Photographs by OGAWA Fumio
開発の舞台はニュルブルクリンク
「スポーツドライビングの楽しさを存分に味わうことのできる」(トヨタ自動車)と謳われるスペシャル、トヨタ「86 GRMN」が発売される。エンジン、変速機、サスペンションシステム、ブレーキ、さらに車体まで手を入れられ、「こんなバーゲンプライスはない」と関係者が言うモデルだ。100台限定で、2016年1月4日から同月22日まで申し込みを受け付ける。
GRMNというアルファベット4文字は、モータースポーツ好きや、トヨタ自動車のスポーツモデルに関心を持ってきた人なら先刻おなじみだろう。最初の2文字は、トヨタ車を使ってレーシング活動を展開しているGazoo Racingを意味している。
後の2文字は、メーカー自身が詳細な解説を避けているが、(tuned by) Mein Stern (of Nürburgring)。4つのアルファベットで、ドイツのニュルブルクリング24時間耐久レースに参戦してきたトヨタ自動車/Gazoo Racingのノウハウを採り入れてチューニングされていることを示唆している。「ニュルブルクリンクを舞台に、「クルマの味づくり」を続けているGAZOO Racing。その活動の中で、企画・開発、そして味付けされたコンプリートカーブランド」がGRMNなのだ。
外観からして、ひと味もふた味も違う。カーボンファイバー製のボンネットがフロントを特徴づけ、リアには大きなウィングがそびえ立つ。内装は、赤と黒のコンビネーションが目を惹く。カラースキームにとどまらず、アルカンタラ張りのスポーツシートに、ステアリングホイールも同様。身を落ち着けると、サーキットとの関連性が強く謳われるのがわかる。着座位置もじつは低い。
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トヨタ86 GRMNに試乗
ニュルブルクリング24時間耐久レースのノウハウが満載 (2)
永遠に加速していそうなエンジンフィール
2リッターの水平対向エンジンはスバルで組まれたもので、それにオイルコンプレッションリングなどを加工した専用の低フリクションピストンが入れられている。ただし「スバルのエンジンは精度が高くて、(レーシングエンジンなどでやる)重量合わせの必要はありませんでした」と開発担当者は教えてくれた。
吸排気系が見直され、161kW(219ps)の最高出力と217Nmの最大トルクを発生。ストック(ノーマル)が147kW(200ps)、205Nmなので、数値の上でもスペックが上がっている。もちろん体感的には驚くほどスムーズにエンジンは回る。発進加速とともに、ギアを上げていくときの中間加速も鋭い。
あまりに回転の上昇がスムーズで、弾けるような排気音が耳に心地よいため、シフトアップを忘れてしまうほどだ。発進して2速にギアを入れたあと、レッドゾーンまで引っ張ってしまった。最高出力は7300rpmで、最大トルクは5200rpmで得られるという、かなりの高回転型のエンジンだ。永遠に加速していそうなフィールである。
ギアボックスも手が入れられている。2速は標準モデルよりハイギアード化し3速に近づけることでクロスレシオ化。最終減速比を下げる(4.1から4.3に)ことで有効なエンジントルクを広いバンドで使えるようにしている。赤いノブを持つセレクターを操っての、シフトフィールはよい。
セレクターレバーは節度感があって、短いトラベルでコクッコクッと気分よく操作できる。これに貢献しているのが、ドライブシャフトだという。ねじれ剛性を従来の1.3倍に上げ、径を大きくし、中空にしている。それによって操作系の質感がうんと向上したそうだ。
軽量化も徹底していて、量産で初めて合成樹脂ガラスを採用するなど凝っている。
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トヨタ86 GRMNに試乗
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ニュルブルクリング出走車両のレプリカ
Gazoo Racingはニュルブルクリング24時間耐久レースに挑戦しづけている。2012年と14年はトヨタ86でクラス優勝という実績も残しているほどだ。そのノウハウを注ぎ込んで開発されたのが86 GRMNである。「ニュルブルクリング(に出走したレース車両)のレプリカが目的」とは開発者の言葉だ。
低重心化は速くて安定したコーナリングのために重要だ。最近の自動車メーカーの多くが、低重心化を話題にしているように思えるが、徹底ぶりという点では、86 GRMNは抜きんでいる。試乗ではスラロームも試したが、車体はほとんどロールしない。
低重心化に貢献しているのは、ボディパーツの軽量化だと開発担当者は教えてくれた。ボンネット、ルーフパネル、トランクリッドなどに、強度がありつつ軽量の炭素繊維強化プラスチックを採用。加えてリアクォーターウィンドウやリアウィンドウには「量産車として初めて」(開発者)合成樹脂を用いている。それでボディが軽くなった。結果として4.5mmも車高が落ちた、つまり重心髙も下がった。チューニングはきちんと頭で考えられている。そこも好ましい。
「サスペンションシステムで車高をあまり落とさなかったため、乗り心地にネガが出ることも回避できました。バネ常数も30パーセント程度しか上げていません。通常この手のクルマだと200パーセント(!)とかあるので、この面でも乗り心地を犠牲していません」。開発者は語る。
乗り心地は、ブリヂストンと共同開発したタイヤも貢献しているという。RE71Rという商品は、表面のやわらかさと路面に張り付くかんじを重視し、86 GRMNの性能を引き出す特長を持つという。同時に街中の量販店でも販売することで、「このクルマは特殊でなく、どなたにでも長く使ってもらえるように」という目的に合致するそうだ。
ホールド性のよいスポーツシートに滑りこんで、操縦していると、すばらしい出来に感心する。水平対向エンジンの後輪駆動は、メカニカルレイアウト上、よりナチュラルなドライビングポジションが設定しやく、理想的なスポーツカーになる、という開発者の言葉を思い出した。たしかにじつにナチュラルだ。幸福な気分になれる感覚である。
税抜き600万円は、開発担当者によると「バーゲンプライス」という。たしかに操縦してみて、かつ内容を知ると、その言葉に納得できる。ボディカラーはホワイトパールクリスタルシャイン1色に限られている。そこに炭素繊維強化プラスチックのフードなどが組み合わされて、すごみを効かせている。
個人的には大きなリアスポイラーは不要で(実際この恩恵にあずかれるような走行シーンは日常にはない)、大人も楽しめるようだと、より好ましい気もする。さらに、輸入車を好むような大人にも、ぜひこの楽しみを分けてほしい。きっと気に入るはずだ。
Toyota 86 GRMN|トヨタ86 GRMN
ボディサイズ|全長 4,290 × 全幅 1,775 × 全高 1,300 mm
ホイールベース|2,570 mm
最低地上高|105 mm
車両重量|1,340 kg
トレッド 前 / 後|1,525 / 1,535 mm
乗車定員|2 名
エンジン|1,998 cc 直列4気筒DOHC
最高出力| 161 kW(219 ps)/ 7,300 rpm
最大トルク|217 Nm/ 5,200 rpm
トランスミッション|6段マニュアル
駆動方式|FR
ブレーキ 前|対向6ポッドモノブロックキャリパー+ベンチレーテッドディスク
ブレーキ 後|対向4ポッドモノブロックキャリパー+ベンチレーテッドディスク
タイヤ 前 / 後|215/40R17 / 235/40R17
価格│ 648万円
限定台数|100台(越えた場合は抽選)
TOYOTA お客様相談センター
0800-700-7700(9:00-18:00)
http://toyota.jp/