シボレー ボルトにデトロイトで試乗
Chevrolet VOLT|シボレー ボルト
プリウス&リーフの強敵
シボレー ボルトにデトロイトで試乗
EVでありながら、発電用の1.4リッターエンジンをもつ、シボレー ボルト。GMいうところのE-REV(Extended-Range Electric Vehicle=航続距離延長型電気自動車)、いわゆるレンジエクステンダーとカテゴライズされる同車に、自動車ジャーナリスト、島下泰久氏が試乗。ライバルたるトヨタ プリウス、日産リーフにたいするメリット、デメリットを検証した。
Text by SHIMASHITA Yasuhisa
果たしてEVなのか、ハイブリッドなのか
2010年末よりカリフォルニア州など一部の地域を皮切りに発売され、この1年のあいだに販売エリアを拡大してきたボルト。今年に入って中国でもいよいよデリバリーがはじまったが、日本導入は当初のアナウンスに2012年以降とあっただけで、いまだ何も明確には決まっていない状況だ。
このボルト、果たしてEVなのか、それともハイブリッドなんじゃないのかという論争がデビュー以来つづいてきた。しかしユーザーとして気になるのは、結局のとろこトヨタ プリウスあるいはプリウスPHV、そして日産リーフと較べてどうなのか、燃費は良いのか、よく走るのかということに尽きるのではないだろうか。
すでにさまざまなメディアを賑わせてきたボルトだけに、姿かたちについてはあらためて説明するまでもないだろう。全長4,404×全幅1,798×全高1,430mmの寸法と5ドアハッチバックというパッケージングはプリウスとの類似性を感じさせないではないが、いかにも押し出しの効いたフロントマスク、スパッと切り詰められたリアエンドなど、スタイリングはより骨太でエッジが立っているし、ディテールにはどことなく未来的な雰囲気もあって結構魅力的だ。
見た目や触感のクオリティはプリウスより上
インテリアの造形も凝っているが、おもしろい形状のシフトレバーもふくめて操作系はじつはオーソドックスで、扱いに戸惑うようなことはない。見た目や触感のクオリティはプリウスより上と言える。メーターナセル内とセンターコンソールには大型のディスプレイが備わり、走行距離やバッテリー残量、現在の走行モードなどさまざまな各種情報を表示できるが、こちらはカッコ良いけれどやや煩雑で、一瞬で読み取るのはちょっと厳しい。
室内スペースは、まずまず期待通り。全高が1,430mmとプリウスより低いのでとくに後席はもう少し余裕が欲しいが、ラゲッジスペースもふくめてこのサイズとしては十分と言える。EVの空間設計でもっとも厄介なのはバッテリーの積載スペースだが、ボルトのそれは16kWhという大容量でありながら、LG化学製のセルを独自のT型ケースに収容したコンパクト構造により、すべてをフロアトンネルからリアシート下の位置に収めることに成功している。よって室内空間をまったく侵食していないのだ。
バッテリー容量16kWhと言えば三菱i-MiEVと同等だが、車体が大きなボルトだけにEV走行距離は64kmに留まり、そこから先、具体的には充電量が30パーセントを下回ると排気量1.4リッターのエンジンが始動して発電しながらの走行となる。これをしてGMではボルトをE-REV(Extended-Range Electric Vehicle=航続距離延長型電気自動車)と呼ぶ。
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プリウス&リーフの強敵
シボレー ボルトにデトロイトで試乗(2)
静かでパワフルなEVモード
VOLTECと呼ばれるパワートレインは、モーター2基とエンジンを遊星ギアで連結して、状況に応じてそれらの動作モードを適宜切り換えながら走行する。バッテリーに十分な電力が残っている場合、低速域では駆動用モーター1基で、そして高速域では発電用/補助駆動モーターもブースターとしてくわわり、モーター2基で車体を前に進める。
この時のドライビングフィールは、まさにEVである。静かだし、とてもパワフル。ただし、日産リーフほどには加速の立ち上がりを鋭く躾けてはいない。手もとのスイッチで走行モードをノーマル、スポーツ、マウンテンの3つに切り換えられるが、スポーツでも背中をシートに押し付けられるというほどではない。それでも0-400m加速は17秒未満と謳われているのは、よりフラットな出力特性が与えられているからだろう。
満充電からの場合で最大64kmを走行して、バッテリー充電量が減ってくると発電用エンジンが始動、駆動用モーターとバッテリーに電気を供給しながらの走行となる。ちなみにプリウスPHVの場合、バッテリー容量が5.2kWhと小さいことからEV走行距離は最大23.4kmとなる。またボルトが最高速の160km/hまでEV走行するのに対して、プリウスは100km/h以上ではバッテリー残量に関係なくエンジンが始動するというちがいもある。
非常に洗練されたパワートレイン
ともあれ、このモードで心配なのは、EVモードと較べてどれだけの力強さが維持されているかということだ。メインモーターの出力が111kWなのに対して、発電用の1.4リッターエンジン、そして補助駆動モーターの出力は50kWと半分以下に過ぎないからだが、少なくとも市街地を走らせている限りは、50kW以上の出力を必要とする場面はそもそもないようで、加速感はEV走行時と変わらなかった。
じつは発進のさいには、EV走行可能距離が0kmと表示されている状況でも、出足がEVモードの時と変わらないようバッテリーに残った電気がそこに付け足されて出力されている。これは走行モードによって走りに違和感を抱かせないための工夫である。さらに速度を上げると、エンジンが補助駆動モーターを介して直接加勢しての走行となる。
ほかに関心させられたのは、プリウスなどではおなじみのヒューンという電気系のノイズがほとんど聞こえてこないことだ。エンジンが始動すれば当然、エンジン音はして、その音自体はあまり高級という感じではないのだが、少なくとも始動時や停止時の振動は抑え込まれているから気に障るようなことはない。総じてパワートレインは、非常に洗練されている。
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シボレー ボルトにデトロイトで試乗(3)
自動車として至極真っ当な仕上がり
乗り味も悪くない。いかにも安普請という感じが漂うプリウスとはちがってシャシーにはしっかりとした剛性感があり、ステアリングの手応えもとてもナチュラル。サスペンションにも妙に突っ張ったようなところはなく、路面からの入力をきれいにストロークして受け止めてくれる。パワートレイン云々の前に1台の自動車として、至極真っ当な、気持ち良く走れるものに仕上げられている。
さて、このボルト。何よりの魅力と言えば、満充電の状態から最大64km近辺までは、完全なEVとして使えるということだろう。アメリカでもそうなのだから日本ではなおのこと、平日の通勤や近所の買い物などは、ほぼこの範囲の中で済ませられるというひとは少なくないはずである。充電所要時間は120Vで10~12時間。となれば、帰宅して翌朝また出勤するまでには大体済んでいるはず。なお、急速充電には対応していない。
それでいて長距離を行く時にも、充電施設の場所などを気にする必要がない。これはリーフのようなピュアEVに対するアドバンテージであり、急速充電が備わらない理由のひとつでもある。
早期の上陸を期待したい
ただし、EVモードの走行距離を超えて走る頻度が高くなってくると、エンジンとモーターを高効率に制御して使うプリウスPHVのほうがトータル燃費では上回ってきそうだ。また、ボルトは大容量のバッテリーを積むだけに当然価格も高い。参考までに北米での価格をあげると、ボルトが4万1000ドル、リーフが3万3000ドル、そしてプリウスPHVが3万2000ドルと、価格差は決して小さくない。とは言え、単純に価格差の問題だけではなく、どのクルマを選ぶべきかは使い方によってちがってくるだろう。
結論を述べると、ボルトが日本でも早くじっくり試してみたいと思わせるものに仕上がっていたことは確かである。まだしばらくは待つ必要がありそうだが、早期の上陸を期待したい。